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39奴目 I'mライム

「あの、見るだけですからね? 取っちゃダメですよ? 約束しましたからね?」

「分かってるって。見るだけ、取らない」

 何とかリフォンを説得して、彼女が綺麗なものを詰め込んでいるという箱の中身を見せてもらえる運びとなった。

 デュアの頭が、その中にあるだろうと踏んでの行動だ。

 リフォンを疑うような真似をするのは正直心苦しくあるが、しかしそう考えると色々と辻褄が合うのだ。

 箱の中にいるなら暗くて辺りの状況が分からないだろうし、狭くて身動きも取れないだろう。

 それにリフォンの、『デュアの目は綺麗』『綺麗なものを箱の中に』という話からでも、デュアが箱の中にいるのではないかと十分予想できる。


「こんなところにはいないと思うんですけど……」

「まあまあ、念のためだよ」

「じゃあ開けますよ?」

 リフォンは長さ一五○センチはあるだろう木箱の天板を、小さいながらも亜人特有の強力な腕力で軽々と持ち上げた。

 果たして中にデュアの頭部は――


「ほら、ないでしょう?」

「あるじゃん!」

 ボタンやネジやガラス片といった光るガラクタの山の中にゴロッと、人の頭部が紛れていた。


「おいデュア、大丈夫か?」

「……お、おお、イクト様」

 急に光が差し込んだからだろう、デュアは眩しそうに半目を開いた。


「さすがはイクト様だ、貴方なら必ずや私を助け出してくれると思っていたぞ。よくやった」

「よくやったじゃない、こういう場合はありがとうと言うんだ」

「褒めて使わす」

 もったいなきお言葉だよまったく!


「それにしても、どうしてこんな場所にデュアさんの頭が……」

 デュアのではなく、自分の頭を悩ましげに抱えるリフォン。


「とぼけるな! 貴様が自分で入れたのではないか!」

「わ、わたしが自分で?」

「そうだ、いつもどおり庭で修行をしていた私から頭を掠め取ったこと、忘れたとは言わせないぞ?」

「あ……」

 デュアの言葉でどうやら何かを思い出したらしいリフォンは、すぐさま、深々と頭を下げた。


「ごめんなさい」

 素晴らしいブリッジだった。


「つい出来心で。その、デュアさんの目がとても綺麗だったので」

「き、綺麗だと……?」

 リフォンの賛辞に、軽く吐血をするデュア。


「本当にごめんなさい。その剣で斬っていただいても文句は言いません」

「ゴホン……まあ今回のところは多目に見てやろう。め、目だけにな」

 どうやらデュアは、目を褒められたことがよほど嬉しかったらしい。

 だからと言って今の駄洒落が許されるとは思えないが……お前も穴に入れ。


「さて。とにかくデュアの頭が見つかってよかったな」

 無事解決だ。

 しかしリフォンは、箱の中にあるデュアの頭を取り出そうとした俺の腕を掴み、それを制止した。


「イクトさん、取らないって言ったじゃないですか」

「いや取らないも何も、これは元々デュアのものだろう?」

 デュアのものというか、デュアそのもの。


「で、ですがイクトさん、その箱はわたしのものです。わたしのものの中に入っていたのですから、その頭はもうわたしのものなのでは?」

「それ結構無茶苦茶な理論だぞ?」

 すっかり、この店の娘っぽくなってしまっている。


「まあそんなに欲しいのなら後はデュアと交渉しろ、俺は知らない」

「分かりました。自信はありませんが、そうしてみます」

「ちょっと待てイクト様! それは色々とおかしいだろう!」

 確かに色々とおかしい。色々とおかしいがしかし、俺はデュアの声を無視して店に戻るのだった。

 そして店に戻ってみると、カウンターの内側に、なぜか見知らぬ美少女が立っていた。

 立って、俺が借りてきた本に目を落としていた。


「えっと……誰ですか?」

 とっさに出たその声に反応して本から俺に目を移した少女は、難しそうな顔で必死に口を動かす。


「ア……イ、イクト。オ、オハヨウ」

 “イクト”と、かたことだが少女確かにそう言った。

 どうやら向こうは俺のことを知っているらしい。

 しかし俺の側には、その容姿にも声音にもいまいち覚えはなかった。

 でもどこかで見たことがあるような気がしないでもない。それもつい最近。

 と言うか冷静になってよく見てみればその少女、全身、毛髪の一本から小指の爪一枚にいたるまで、全てが青い。

 青くて、透けている。そうでない場所は一つもない。


「ま、まさか……、ライム?」

 恐る恐るそう問いかけると、少女はニパッと笑顔になって大きく頷いた。


「ライムっ」

「…………」

 お返事が元気なのは大変よろしいのだがちょっと待て、どういうことだ? 一体なぜこんなことに?

 今度はリフォンではなく俺が頭を抱える番だったし、デュアではなく俺が『色々とおかしいだろ』と叫ぶ番だった。


「ほ、本当に君はライムなのか……?」

 再度の問いかけにも、笑顔で頷く少女。自称ライム。


「えっと、でも、どうしてそんな姿に?」

 俺が知っているライムは、小さくて何の凹凸もない湿った餅だったはずなのだけど。


「ホン、キユウシユウ、シタ」

 彼女はまた、一所懸命に口を動かし説明を始める。


「ナカ、ニ、エ、アッタ。マネ、シタ」

 本吸収した。中に絵あった。真似した。聞き取り辛かったが、こんなところか。

 本を吸収したというのは、あの溶けた本のことか?

 そしてその本の中にあった絵を、真似した?


「ああ!」

 そこで思い当たることが一つあった。


「どこかで見た気がすると思ったら、あの神話の本に描かれてた裸の女神様じゃないか」

 あの絵に比べれば顔も体も大分幼くなってしまってはいるが、美しさは健在だし、うねる長い髪はまったく絵のとおりだ。


「と言うか裸なところまで同じだし!」

 叫ぶ俺を見て、キョトンと青く透けた目を丸めるライム。

 どうやら裸であることに、特に恥じらいを持っていない様子。

 しかしこちらとしては、気付いていなかったさっきまでならまだしも、裸だと意識し始めるとさすがに直視できなくなる。


「ライム、まだたくさん聞きたいことはあるけどまずは服を着ようか。俺の服しかなくて悪いけど」

 ただ考えてみれば、リフォンにも俺の服を渡していて、更にライムにも俺の服を貸すとなると、今度は俺の服がなくなってしまう。

 俺の服しかない、ではなく、俺の服がない、になってしまう。


「悪いライム、ちょっとだけ待ってて。町に行って服を買ってくるから」

 丁度いい、ついでにリフォン用の背中に穴の開いた服も買ってこよう。

 さてまあそれはそれとして、ライムが美少女になってしまったこの状況、大分まずいのではないだろうか。

 この見た目のライムと俺が同じ部屋で寝ることになるのだ、レイクたちにまた変な誤解をされるに違いない。

 そして安眠を妨害されるに違いない。


「何か良い言い訳を……」

 俺は必死に言い訳を考えながら町へと下り、レイク達とお揃いの白いワンピースを二枚購入した。

前回の更新より間隔が開いてしまいごめんなさい。

今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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