36奴目 デュアの場合。
――そんな夜は更にその次の日も続いた。
「お、もう寝てるのか」
今日ははたくさん遊んで疲れたからだろう、リフォンは俺が寝室に入ったときには既に眠りについていた。
起こしてしまわないように、慎重に部屋を横切りベッドに体重を預ける。
しかし板張りの床もベッドも、どうしてもギシギシと音が出てしまう。
その音に反応したのか、ライオン尻尾がピクリと跳ね上がった。
そんな光景を微笑ましく思いながらランプの明かりを消し、布団をかぶって彼女におやすみと挨拶をする。
するとまた、その声に返事をするかのように尻尾が動きをみせた。
なんと可愛らしい生き物なのだろうか。
「それで、どうだイクト様」
何の前触れもなく、俺のお腹の上には生首が乗っかっていた。
ベッドの脇にも、知らないうちに首ナシの体が控えている。
しかしもう驚かない、こうなることは何となく予想していた。
「どうだ、とはどういう意味だ? デュア」
「満足できたのか? という意味だが」
「満足? 何に?」
「何にと問われると、あれだ、その、だから……だな」
もごもごと、口ごもり始めるデュア。
「セ……だ」
「セ?」
「セッ……だ」
「セッ?」
「折檻だ!」
「ぐほぁっ!? おいお前、どうして顔面をグーで殴る!?」
「パーの方がよかったか?」
「形態の問題じゃない! なぜ殴ったのかを聞いてるんだ!」
グーだろうがパーだろうがチョキだろうがそんなことは関係ない。
「折檻だ」
「意味が分からないよ!」
それにその文脈でいくと、こいつは俺に『折檻に満足できたか?』と質問してきたことになるが。
折檻に満足って何だ? 俺はMか? ドMか?
「デュアさん、俺にも理解できるように説明してもらえます?」
「だからだな、リフォンとの、その、行為に満足できたのかと聞いているのだ」
こいつの言う行為とは、レイクの好きなあっち方面のそういう行為のことだろう。
そんなことを聞きにわざわざここにやってきたのか……。
「その前にさ、俺とリフォンはそんなことはしていないんだけど?」
満足したかしていないか以前に、そもそもそういう行為をしていない。
「ふん、そんなことだろうと思った。仕方がない、ならば代わりに私が相手をしてやろう。これも臣下の、そして騎士の務めだ」
「いや、ちょっと待てよ――」
「私なら、リフォンにできぬようなこともできるぞ?」
リフォンにできぬようなこと……。
た、確かに首と体が分離しているだけに、常人には考えられないようなプレイができなくもないかもしれないけど。
でも俺とデュアはそういうことはしてはいけないわけで。
「例えば鞭」
「鞭!?」
「そうだ、イクト様の得意技は無恥かもしれないが、私は鞭の扱いが得意なのだ」
これだけ暗ければ顔を見られても大して恥ずかしくない。
そう言いつつ彼女は己の頭部を持ち上げると、そこに巻き付けていた髪を解き始める。
「これは凄まじい量の血を啜ってきた鞭だ、きっとイクト様にも満足してもらえることだろう」
その血は全部お前の血だろう、という突っ込みは置いておいて。
「え、何? 俺は今からお前に、その髪の鞭で叩かれるわけ?」
「さすがは無恥が特技のイクト様、そんなことを恥ずかしげもなく口にするとは。正解だ」
「どうして?」
「折檻だ」
つまり何だ? こいつの言っていた行為というのは、俺が想像していたようないやらしいものではなく、本当に折檻のことだったわけか?
「さあいくぞイクト様」
「待て、俺はそんなこと望んでいな――」
しかし止める間もなく、髪の毛でできた鞭がヒュッと空気を切り裂く音が部屋に響く。
「おふぅっ」
「はっはっはっは、いい声で鳴くではないかイクト様! それっ」
「っふぁ、やめろ、やめてくれデュア!」
と言うかなぜ魔法が発動しない、これは明らかに攻撃だろう!
「遠慮することはない! やあっ」
「んはんっ、もっ……やっ……めて」
「もっとやって? それは命令か? ならば仕方がない、イクト様の命令は絶対だからな! てやっ」
――そんな夜は、更に更に数日にわたって続いたのだった。
今日も短いですが、読んでいただきありがとうございました。




