35奴目 ニコの場合。
――そんな夜は次の日も続いた。
「それじゃあおやすみ、リフォン」
「はい、おやすみなさいイクトさん」
今日は雑魚寝をしようと要求してくることもなく、リフォンは普通に眠りに付いた。
ランプを消してすぐに寝息が聞こえ始める。寝付きはいいようだ。
今日も彼女はもちろんうつ伏せで寝ているが、そうなると自然、足の裏が天を向く。
そして彼女の場合、肉球が丸見えになる。
あんなものを俺の前に無防備にさらけ出して眠るとは、何とも恐ろしい子だ。
「どうぞ触ってくださいと言わんばかりだなってうわぁっ!?」
不意に、ベットの足元にニコが立っていることに気付いた。
彼女の目はなぜか、じっと俺の下半身を見つめている。
「ビックリさせるなよニコ、一体お前はそんなところで何をしてるんだ」
「イクがテントを張ってないか見張ってるに決まってんだろ」
そんな決まりごとがあってたまるか……。
「まあテントを張るくらいはいいけどな、手を出すのはダメだ」
「そんな心配はしていただかなくて結構です」
俺は絶対に、リフォンに手を出したりしない。
「でも今イク、リフォンにアツい視線を送ってたじゃねえか。しかも主に下半身に」
「確かにそうかもしれないけど、それはただ単に足裏の肉球が可愛いなと思ってただけで、特にいやらしい意味で見てたわけじゃないから」
「何と言われようとお前が童貞をなくさないかワタシは心配なんだ! だから見張る、イクの童貞の番人になる! 何ならこれからはワタシのことは、歩く貞操帯と呼んでもらっても構わないぜ?」
「いや、呼ばないけど……」
「む、そうか。ならそうだなぁ、ニコじゃなくて、プラトニコと呼んでくれても構わないぜ?」
「いや、だから呼ばないけどね……」
まあプラトニコの方なら、ギリギリ考えないでもないけど。
「そういえばイク、お前昨日レイクに媚薬をかけられたらしいな」
「ん、ああ、酷い目にあったよ」
酷い目と言うか、目が酷かった。
「リフォンにアツい視線を送ってたのはそれのせいかも知れねえ。よしイク、ワタシの角を舐めろ」
「はぁ?」
「ワタシの角には解毒作用があるから、舐めれば媚薬は体内から消える」
彼女は言うが早いかベッドに飛び乗り、俺の口の中に己の頭から生えた角を突っ込んだ。
「がはっ、ちょ、ニコ、やめろっ」
ガチガチと、無味無臭の角と歯が擦れ合い音を立てる。
「レイクの花粉が持つ媚薬効果はそんなに強いものじゃないから、もうとっくに体の中から消えているはずだぞ!?」
リフォンにアツい視線を送っていた件は、あくまでも、その、俺の趣味趣向であって……だからそんなことをしても意味がない。
「いいや絶対まだ残ってる、早く取り除かねえと!」
しかし一度そうだと思い込んだニコが止まるはずもなく、彼女は必死に俺の口の中に角を押し込んでくる。
そしてこれも攻撃ではなく治療だと判断されているからか、魔法は発動しない。
「あっ、あが……が……顎が外れる!」
「タガが外れるよりマシだろ!?」
短いですが、今日も読んで下さりありがとうございました。




