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35/48

35奴目 ニコの場合。

 ――そんな夜は次の日も続いた。


「それじゃあおやすみ、リフォン」

「はい、おやすみなさいイクトさん」

 今日は雑魚寝をしようと要求してくることもなく、リフォンは普通に眠りに付いた。

 ランプを消してすぐに寝息が聞こえ始める。寝付きはいいようだ。

 今日も彼女はもちろんうつ伏せで寝ているが、そうなると自然、足の裏が天を向く。

 そして彼女の場合、肉球が丸見えになる。

 あんなものを俺の前に無防備にさらけ出して眠るとは、何とも恐ろしい子だ。


「どうぞ触ってくださいと言わんばかりだなってうわぁっ!?」

 不意に、ベットの足元にニコが立っていることに気付いた。

 彼女の目はなぜか、じっと俺の下半身を見つめている。


「ビックリさせるなよニコ、一体お前はそんなところで何をしてるんだ」

「イクがテントを張ってないか見張ってるに決まってんだろ」

 そんな決まりごとがあってたまるか……。


「まあテントを張るくらいはいいけどな、手を出すのはダメだ」

「そんな心配はしていただかなくて結構です」

 俺は絶対に、リフォンに手を出したりしない。


「でも今イク、リフォンにアツい視線を送ってたじゃねえか。しかも主に下半身に」

「確かにそうかもしれないけど、それはただ単に足裏の肉球が可愛いなと思ってただけで、特にいやらしい意味で見てたわけじゃないから」


「何と言われようとお前が童貞をなくさないかワタシは心配なんだ! だから見張る、イクの童貞の番人になる! 何ならこれからはワタシのことは、歩く貞操帯と呼んでもらっても構わないぜ?」

「いや、呼ばないけど……」

「む、そうか。ならそうだなぁ、ニコじゃなくて、プラトニコと呼んでくれても構わないぜ?」

「いや、だから呼ばないけどね……」

 まあプラトニコの方なら、ギリギリ考えないでもないけど。


「そういえばイク、お前昨日レイクに媚薬をかけられたらしいな」

「ん、ああ、酷い目にあったよ」

 酷い目と言うか、目が酷かった。


「リフォンにアツい視線を送ってたのはそれのせいかも知れねえ。よしイク、ワタシの角を舐めろ」

「はぁ?」

「ワタシの角には解毒作用があるから、舐めれば媚薬は体内から消える」

 彼女は言うが早いかベッドに飛び乗り、俺の口の中に己の頭から生えた角を突っ込んだ。


「がはっ、ちょ、ニコ、やめろっ」

 ガチガチと、無味無臭の角と歯が擦れ合い音を立てる。


「レイクの花粉が持つ媚薬効果はそんなに強いものじゃないから、もうとっくに体の中から消えているはずだぞ!?」

 リフォンにアツい視線を送っていた件は、あくまでも、その、俺の趣味趣向であって……だからそんなことをしても意味がない。


「いいや絶対まだ残ってる、早く取り除かねえと!」

 しかし一度そうだと思い込んだニコが止まるはずもなく、彼女は必死に俺の口の中に角を押し込んでくる。

 そしてこれも攻撃ではなく治療だと判断されているからか、魔法は発動しない。


「あっ、あが……が……顎が外れる!」

「タガが外れるよりマシだろ!?」

短いですが、今日も読んで下さりありがとうございました。

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