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26奴目 お花とお話?

「レイク、お前もしかして朝から今の今まで光合成を続けてたのか?」

「うん、つい気持ちよくってさ。あれ、イッくんはもうお昼休憩? 鐘鳴ったっけ? 光合成に集中しすぎて気付かなかったのかな。それともデュアちゃんが『てやー』ってうるさかったせいかな」

「ああ、いや、今日は訳あってな。少し早めの昼休憩だ」

「ふーん。あ、イッくん、その手に持ってる本はもしかして、いかがわしい本だったり?」

 エロ親父が如くニタリと笑うレイク。


「違う、難しい本だ。薬草について事細かに書いてある」

「なーんだつまんないの。いかがわしい本ならご相伴に預かろうと思ったのに」

「ご相伴って、本は食べ物じゃないぞ」

「エロ本はおかずでしょ?」

 いやまあそういう意味では間違ってないのかもしれないが……。


「でもどうして薬草の本なんか持ってるの?」

「それが色々あってな――」

 かくかくしかじかと、薬がなく、薬を買うお金もなく、自作しようにも知識もなく、だから仕方なく図書館で本を借りて来てそして今から山に行くのだとかなんとか、これまでの経緯を簡潔に説明する。


「だから昼ごはんも早めに食べたんだ」

 ニコとは違い黙って俺の説明を聞いていたレイクは、俺が話し終えると二度三度頷き、そして

「そういうこと、ならわたしに任せてよっ!」

 と、目を輝かせて腰に手を当てるのだった。


「お前に?」

「そう、薬草くらいそんな本に頼らなくともわたしが見つけてあげる」

「見つけてあげるって」

「なになにイッくん、もしかしてイッくんはわたしを疑ってるのかな?」

「いや、疑ってると言うかさ、本に頼らずってことはお前、薬草の知識を持ってるってことか?」

「そんなもの奴隷であるわたしが持ってるわけないでしょ?」

 何を言ってるんだと言いたげな表情をするレイク。


「だから疑問に思ってるんだろ……」

「まったくイッくんたら、それでもこのお店の店主なの? 売っている商品のことは全て把握しておかないと。あーんなところやこーんなところまでね、しっしっし」

 まさか商品であるレイクにそんなダメだしをされるとは。

 しかしこいつが何を言いたいのか、いまいち要領を得ない。


「イッくん、わたしは何の亜人?」

「マンドレイクだろ?」

「そ、マンドレイク。で、そのマンドレイクは植物なわけでしょ?」

 頷く。

 マンドレイク。

 根が人型をしていて、引き抜こうとするとその根が人を絶命させるほどの叫び声を上げるという伝説のある、植物だ。


「つまり、わたしのルーツは植物なんだよ」

「と言うことは何だ、まさかルーツが植物ゆえに、木や草花とお話が出来るとか、そんなことを言い出すわけじゃないよな?」

 だから本などに頼らなくとも、それらの声を聞いて薬草を見つけ出せるとか、そんなことを言い出すわけじゃ。


「んー、さすがにお話しすることは出来ないかな」

 でも、とレイクは言葉を接ぐ。


「お話しすることは出来ないけど、目で見れば、その植物が今どんな状態だとか、どんな性質を持っているかだとか、そんなのが何となく感覚で分かるんだよね」

「ま、マジで?」

「マジだよ。わたしはウソはつかないもん」

 真剣な風にそう言って、その後、わたしはつかれる方だからね。

 まあつかれるのはウソじゃなくてアソコだけど、しっしっし。

 なんて、いつものように下ネタで茶化す彼女。


「まさかお前にそんな凄い能力があったとはな……」

「凄いかな? まあほら、ニコちゃんが感覚でお料理が出来るのと一緒だよ」

「大分違うだろう」

 感覚で美味しい料理が作れるのももちろん凄いけど、それはまだ、絶対音感みたいな、常識の範囲内の能力だ。

 感覚で植物のことが分かるのは、それとはステージが違う。


「まあまあどっちでもいいよ。そんなことより、だからね? わたしに任せてよ。わたしはイッくんのお役に立ちたいの」

「あ、ああ、そういうことならそうだな、お願いするよレイク」

 実のところ、こんな付け焼刃以前の知識で、本当に数多ある草の中から欲しい薬草を見つけられるのか、不安でいっぱいだったのだ。

 それにたとえ見つけられたとしても、かなりの時間を要するかもしれない。

 だから植物のエキスパートと言うか、もはや存在そのものが植物じみているレイクがいてくれるのは、とても心強い。

 目には目を歯には歯を、ならぬ、芽には芽を葉には葉を。植物には植物をってか。


「しかしそれなら、もう少し早くお前に話しておけばよかったな。本を借りてきた時間が無駄になってしまった」

 まさかレイクにそんな力があるなんて、思いもしなかった。

 しかしいつも光合成をしているところを見ているのだから、その考えに至ってもおかしくはなかったのだ。

 至るべきだったと言っても過言ではない。

 俺はこいつを、そして亜人を少し侮っているのかもしれない。

 人外なのは何も外見だけではないのだ。内面も同じく、普通の人間とは一線を画する。

 体の構造も違うし、感じていることも全然違う。

 もう一度きちんと、彼女たち亜人について知り、理解する必要がありそうだ。


「大丈夫だよイッくん、その無駄な時間をわたしが帳消しにしてあげちゃうからさ。それに元々無駄じゃないしね」

「無駄じゃない?」

「うん。わたしは薬草のことは分かっても、それをどうすれば薬に出来るかまでは分からないからさ」

「そうなのか?」

「さすがに感覚じゃあね。ごめんね」

「いやいいよ。ならそっちは俺に任せてくれ」

 元々は一人で探して作るつもりだったのだから、構わない。

 探すのを手伝ってくれるだけでも大助かりだ。

 それにそれならばそれで、時間を無駄に使ってしまったという精神的ダメージも和らぐ。


「でも薬草探しについては、安心して大丈夫だよっ」

「お、頼もしいな」

「にっしっし、お胸に乗ったつもりでいてよ」

 言って、反らした胸をお尻からはえた触手でポンと打ってみせるレイク。


「大船な」

 まあ確かにレイクのお胸は、船の甲板のように平らだが……。

 と言うかややこしくなるから、ニコの前でそういう発言をしないで欲しい。


「おいレイクの色ボケナス!」

 そんな風に思っていると案の定ニコが声を上げた。

 そしてレイクに詰め寄り、前から両肩を掴む。


「お前、薬草採りに行くのはいいけどよ、イクの貞操までとりやがったら許さねえからな!」

「それはどうかなぁ? 人気のない山に二人だけで入って行くわけだからね、何かの偶然で挿入(はい)ってイっちゃうことがあるかも」

「何だと!?」

「もしかしたらイッくんが野生化して『ぐへへレイク、薬草はここかぁ?』『あ、ダメイッくん、そんなところの茂みを掻き分けても薬草はないよぉ』『嘘はよくないな、全てさらけ出せ』『あぁ~ん』なんてことにもなるかもだし」

「そ、そんな……」

「そうなってくるとお役に立つの意味が変わってくるよね、と言うか“たつ”のはイッくんだし。にっしっし」

「おいイク! やっぱりお前貞操帯付けて行け!」

 ニコは標的をレイクから俺に定め、駆け寄ってくる。


「もしそんなことになったら取り返しがつかねえ!」

「なるわけないだろ!?」

 そんなもしかしたらは、転地がひっくり返ってもありえない。

 あったらいいな、出来たらいいな、と言うのが、思春期男子の恥ずかしい心の声だけど!


「ニコ、落ち着いて考えるんだ。レイクに惑わされるなっていつも言ってるのはお前だろう? 挑発に乗せられるな」

「そうだよニコちゃん、ヘタレイッくんがそんなこと出来るわけないでしょ? なのに簡単に挑発に乗っちゃうなんて、相変わらずの馬鹿馬さん」

「レイク、お前も挑発をするな。と言うかさり気なく俺まで傷付けてくるな」

「あ、イッくん、舐めれば舐められるほど立ってくるものってな~んだ」

「腹だよ! 俺は今腹が立ってるよ!」

 まったく。誰がヘタレだ。紳士と呼べ紳士と。


「と言うかこんなことをしてる場合じゃない、早く山に行かないと」

「ちょっと待てイク、お前本当に貞操帯付けなくて大丈夫か? そんな薄い防備じゃワタシは心配だ」

「大丈夫だよニコ、俺の防備は完璧だ」

 元の世界に帰ることを望む以上、絶対に手は出せない。出さない。

 大体貞操帯なんてどこにあるというのか。


「でも防備と言えばそうだな、レイク、お前その格好で山に入るのはまずいな」

 裸足にワンピース一枚。

 そんな格好で山に分け入れば、怪我だらけになること必至だ。


「前みたいにイッくんの服を貸してよ」

「ああ、そうだな」

 靴と、山の中に行くわけだから動きやすそうなズボンとシャツでいいか。

 何だか今日は俺のシャツが大活躍をしている気がする。

今日も読んでいただき、ありがとうございました。

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