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22奴目 除草は戦争

「いざ尋常に、勝負!」

 デュアの背を追い俺が庭へと到達したときには既に、彼女は雑草との勝負を始めてしまっていた。


「喰らえ!」

 止める間もなく雑草の軍隊に振り下ろされる剣。

 しかし新品の剣をもってしても、それらが斬れることはなかった。

 せいぜい今朝同様、数本が千切れる程度。


「き、斬れない……、なぜだ!?」

 それはそうだろう。いくら草が自立しているといってもそれは根の力であって、葉自体はその空間に固定されているわけではない。

 葉の先端を持つなり何なりして斬るならまだしも、そんなほとんど抵抗力のない状態の草を薙いだところで全て受け流される。

 まさに暖簾に腕押し。


「クソ! さすが草だ、手ごわい。しかしそれでこそ我が敵、相手にとって不足なし!」

 いや、不足すぎるだろう。雑草って……、雑兵ならまだしも。


「なあデュア、いくらお前が騎士だろうとも剣じゃ無理だって。やめておけよ。また折れても知らないぞ?」

「黙れ! ください。ここで引けば騎士の名折れだ!」

 彼女は忠告を聞かず剣を振る、しかしもちろん草は斬れない。


「なぜだ、なぜ斬れない! この!」

 そしてまたもや彼女は、がむしゃらに剣を振り回し始める。


「このこのこのこの」

「こらデュア止めろって!」

「のこのこのこのこ!」

「ああ! 確かそこはさっき岩があった場所だ!」

 俺の記憶は正しかったらしく、庭に再び、ガキィンと嫌な音が響く。


「だから言わんこっちゃない……、大丈夫かデュア?」

 幸いなことに、剣は折れてはいなかった。

 しかしにもかかわらず、

「剣が! 剣が! イクト様剣が!」

 デュアは俺に詰め寄ってきて、大声で泣き騒ぎ始める。


「け、剣がどうしたよ」

「剣に! 剣に傷がついてしまったのだ!」

「う、うるさいうるさい、分かったから少し落ち着け」

 その泣き声のうるささといえば、レイクに負けずとも劣らない。

 人体から発せられているとは、声帯から発せられているとは、到底思えないレベルだ。


「落ち着いてなどいられるか! 剣に傷がついたのだぞ!」

「知るかよ俺は止めただろ? それを聞かなかったのはお前だ。それに傷っていってもちょっとじゃないか」

「少しの傷が破損の原因に繋がるのだ!」

「うるさいって、頼むからもう少し静かに話してくれ!」

 本当にうるさい。鼓膜が変になってしまうんじゃないだろうかというほどのけたたましさだ。

 そういえばデュラハンもマンドレイク同様、泣き声が凄まじいという特徴があると商品管理リストに書いてあったっけか。


「大体、折れたらまた買えばいいだろうが!」

 そんなお金はもちろんないが、嘘をついてでも早く泣き止ませないと、耳どころか頭がおかしくなる。

 しかし彼女はそれでも泣き止まない。


「イクト様からいただいた剣だぞ! そうそう簡単に替えが聞くようなものではない!」

 だが俺が彼女のその言葉に、なかなか可愛いことを言ってくれるな、と思わず漏らした瞬間。


「あぅ……」

 彼女の悲鳴はピタッと止んだ。

 ただようやく静かになったと思ったら次は吐血。


「ぶへ……、い、今のは聞かなかったことにしてくれイクト様」

「はぁ、ああ聞かなかった聞かなかった。と言うかお前の絶叫で聞こえなかったよ」

 まったく次から次へと、落ち着きのない騎士だ。


「それでデュア、草刈はおとなしく鎌でやってくれるな?」

「そ、それが命令ならば仕方がない。イクト様の命令は絶対だからな」

 その絶対の命令を、お前はこの短時間で何度破ったんだ……?


「おいお前ら、草刈は昼飯の後にしたらどうだ」

 そう言いつつ、包丁を持ったニコが庭へとやって来た。

 何だかんだとやっているうちに、どうやら昼食の準備が整ったらしい。


「まあそうだな、そうしよう」

 腹が減っては戦は出来ぬと言うし。

 いや、するのは戦争ではなく除草だが。


「デュア、お前も一緒に食べないか?」

「それは命令か?」

「命令だって言ったら、一緒に食べてくれるのか?」

「ううむ……、まあそうだな、命令ならば仕方がない。従ってやろう」

 従ってやろうって……。


「お前は本当に主への言葉遣いがなってないよな」

「敬語はよく分からん。許せ」

「まあ全然構わないけどさ」

 今更敬語なんて使われても、気持ちが悪くて反応に困るだけだし。


「しかし警護はしっかりするぞ!」

「そうか、頼んだよ。さて、それじゃあ命令です。デュア、俺達と一緒にご飯を食べなさい」

「りょ、了解した」

 こうして俺は、予定とはかなり違う方向にではあるが、デュアとの距離を縮めることが出来たのだった。

 ただ彼女との距離が縮まったということは、地球への帰還が遠ざかったということに他ならず。

 それを考えると、手放しで喜べるようなことではなかった。自分で自分の首を絞めている。

 果たして俺は本当に、地球に帰ることが出来るのだろうか。帰れたとしても、いつのことになるのだろうか。

今回も読んでくださり、本当にありがとうございました。

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