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18奴目 打って売ってる刃物屋さん

「ここだな」

 『市場のある通りの、一番奥だよ』

 人ごみに揉みくちゃにされながら、通行人の男性に教えてもらったとおりの場所へ向かうと、それはあった。

 掲げられた『板場いたばから戦場いくさば』という看板。

 そしてその下に書かれた『キッチン用品から武器まで打って売ってる刃物屋さん』という謳い文句のようなもの。

 通りに面した扉が大きく開け放たれているその店の中には、外からでも壁や棚に銀色に輝く鋭い刃物がぎっしりと並べられているのが確認できた。

 間違いない、ここが俺の目的地だ。


「今更だけどさイッくん」

「何?」

「マントって言葉、何だかえっちじゃない?」

「少し黙れ」

 店内に足を踏み入れるとすぐ、いらっしゃいと声がかかった。

 そして棚の影から出てきたのは、図体が大きくて屈強そうなおじさん。


「――っ!?」

「どうかしたかいお客さん」

「あ、い、いえ」

 一瞬、先日追い返したお客さんが連れていた奴隷の男かと思ったが、よく見れば全然違う容姿をしていた。

 ほっと胸を撫で下ろす。


「俺はこの店の主だ、今日は来てくれて感謝するよ。それで、何をお探しで?」

「鎌が一本欲しいんですけど」

「鎌、鎖鎌かい?」

「いえ、草切り鎌です」

 俺がそう言うと、店主の男性は迷うことなく店のある一角を目指し、そこの棚から、木の柄がついた農業用の鎌を取り出してきた。


「これでいいかい?」

 値段を聞くと、ウチの辛い家計にも良心的なものだったので、それをいただくことにした。


「まいどあり。紙で包んでくるから、店の中でも見て待っててくれ」

 そう言いつつ、男性は奥の扉を開け中に姿を消した。

 することもないので、言われたとおり目的もなく店の中をぶらぶらと見て回る。

 そうしていると、店の角に置いてある樽の中に一本、まるで捨てられているみたいに刺さっている剣を見つけた。

 そう言えばデュアの剣、折れちゃったんだったよな。

 そんなことを考えながら、何となくその剣を手にとった。

 突然俺の内なるパワーに反応して光だしたり、脳内に直接話しかけてきたりすることは残念ながらない。

 重たくて冷たい、普通の鉄の剣だ。


「どうしたのイッくん、もう既に剣を装備してるっていうのに、まだ剣が欲しいの?」

「レイク、俺は剣なんてどこにも装備していないけど?」

「え、そうなの? じゃあ下半身のそれは?」

「これは剣じゃない」

「ああそっか、そうだね、それは剣じゃないね、チンだね」

「レイク!」

「にっしっしっし」

 でもじゃあどうしたの? と、切り替え早く彼女は尋ねてくる。


「いやほら、デュアの剣折れただろ?」

「うん。今までに見たことないくらい悲しんでたよ」

「だろ? だからほら、代わりにならないかなって」

 あれだけ己は騎士だ騎士だと豪語しているのに、その騎士の象徴と言っても過言ではないだろう剣が、この先ずっと折れているなんて不憫で仕方がない。

 真に折れるは剣ではなく、デュアのプライドだろう。

 それにこれが、彼女との距離を詰める、距離を埋める、いいきっかけになるかもしれない。

 いや、無理に仲良くなる必要はないと言うか、むしろ売らなければいけないことを考えると、仲良くならない方がいいのかもしれないが。

 ただ、一つ屋根の下で一緒に暮らしている現状、互いの間に壁があるのは、どうも精神衛生上よろしくない。


「それはいい案だね」

 と、レイクも同意してくれる。


「でも、お金は大丈夫?」

「うっ……、無理だ」

 言われて樽に引っ掛けられた値札を見てみると、とてもじゃないが今の俺に買えるような代物ではなかった。


「残念だね」

「無念だ」

 せっかく見守る以外にも、彼女にしてあげられることを見つけられたと思ったのに。

 そうこうしているうちに、店の奥から、鎌を包み終わったらしい店主が戻って来た。

 そして俺が手にしている剣を見て、それもかい? と尋ねてくる。


「い、いえ、そのつもりだったんですけど、ちょっと予算オーバーでして、はははは」

 ちょっとどころではないが。


「そうかい。そう言えばお客さん、初めて見る顔だね」

「あ、はい、最近ここら辺に転居してきたんですよ」

 転居と言うか、正確には知らないうちに異世界に転移させられたしまったのだけど。


「そうか、ふむふむ」

 何やら目を瞑って腕を組み考え出した男性店主。

 しばらくすると彼は、じゃあこうしようと言って、手を打った。


「何か他にもう一本うちの商品を買ってくれると言うのなら、その剣はおまけするよ。もともと売れ残りだったし。もちろんその剣より安いものでいい、お客さんの予算が許すものでね」

「本当ですか!?」

「ああ。その代わり、これからもウチの店をご贔屓に」

「はいっ、ありがとうございます」

 ニッと笑う彼は、どうやら商売上手なようだった。


「それじゃあ何にする? 好きなものを選んでくれ」

 そうだ、何を買うのか、問題はそこだ。

 予算内で収まって、そしてせっかく買うのだから、適当に買うのではなく今後に必要なものを買いたい。

 必要なもの……、何かあるだろうか。


「んー、鎌と同じで、鍬ももうボロボロだったなあ」

 でも鎌を買う以上、ひとまず鍬はいらないのか?

 いや、草の根までを完全に除去しようと思えば、必要になってくるのか。


「じゃあ鍬を……、いや」

 くださいと言いかけて、一つ思い出したことがあった。


「そう言えばニコが、包丁の切れ味が悪くなったって嘆いてたな」

 もしそれが原因でニコの機嫌が悪くなって、料理をしてくれないなんてことになったら、まともな食生活が送れなくなってしまう。

 あの店の中で一定レベルの食事を作れる人間は彼女しかいないのだから。

 食事は生活の要ということを考えると、今必要なのは鍬よりも包丁だ。


「包丁をください」

「はいよ」

 店主は返事をするが早いか、包丁を取り出してきて俺に見せる。

 値段もとてもお手ごろだったので、それをいただくことにした。


「まいどあり」

 その包丁と、剣と、さっきの鎌を持って、彼は再び奥へ行く。

 そして全てを纏め布の袋に入れて戻って来ると、はいよと俺に差し出した。

 それを受け取り、お金を払う。


「ありがとうな、これからもこの店を宜しく頼むよ」

「はい、こちらこそありがとうございました」

 そんな風に軽く挨拶を交わし、俺とレイクは店に背を向け前の通りへと出た。

今日も読んでくださり、ありがとうございました。

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