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12奴目 ナイトは言った、体がないと

「あー、酷い目にあった……」

 髪の毛によって元通り顔が半分隠れたところで、ようやくデュアの吐血攻撃は終わった。

 ただ事態の被害は大きく、俺の体はたらいいっぱいの血を浴びせられたかのように、真っ赤に染まっていた。


「貴様が私の素顔を見るから悪いのだ」

「俺のせいか!?」

「そ、そうだ」

 デュアの少し剣のある瞳は、動揺を隠せずキョロキョロと泳ぎまくっている。


「はぁ、まあいいよ、もういいよ」

 それで、と俺は続ける。


「デュア、君は結局ここへ何しに来たんだ?」

「うむ、実は体がなくなってしまったのだ。自分で探そうとは思ったのだが、そうしようにも見てのとおり私は顔だけ。これではどうにもならなくてな」

「だから俺達に、探して欲しいとお願いしに来たわけか」

「違う、命令しに来たのだ」

「……」

 自称誇り高き騎士である彼女は、いつもどおりそんな風に上から目線で言う。

 いや、自称ではないのか。

 首から下がなくなって尚こうして普通に活動をしていられる彼女はもちろん、亜人専門の奴隷ショップであるこの店で商品として売られている彼女はもちろん、ただの人間ではなく、亜人である。

 店の商品管理リストによると、彼女はどうやらデュラハンの亜人ようだ。


 デュラハン。己の首を脇に抱え、首なし馬コシュタ・バワーの引く馬車に乗って死を告げにやってくるという、伝説の騎士。騎士。自称ではなく、まさしく騎士だ。

 妖精だと聞いたこともあったようななかったような。

 そんな、おおよそ騎士とも妖精とも思えない姿と伝承を持つデュラハンの亜人である彼女、デュア。

 彼女の亜人としての外見的特長としてお客様に説明しなければいけない点は、それはもう一つしかない。

 単純に、首と胴体が繋がってませんよ、と、その一点に尽きる。

 それ以外の見た目は、ただの人間となんら変わりがない。

 この店の商品たちの中で、一番人間に近い形態をしていると言えるだろう。

 いや、首と胴が離れている時点で、人間以前に生物として一番怪しい形態のような気も、しないではないが。


 外見以外のデュラハンの特徴としては、恥ずかしがりやで、恥ずかしいという気持ちが極限まで高まると、口からタコかイカのように血を吐くという点が上げられる。

 その血の量が、一般人が吐血と聞いて想像する量など遥かに凌駕していることは、実際にその吐血を何度も体験した俺が保障する。


「で、なくなったって、いつからだよ」

 俺は未だに頭から流れ落ちてくる、デュアが吐いた血を手で拭い、話を続けた。


「今朝イクト、貴様が牢の鍵を開けに来たときには既になかった」

「そこからか、全然気付かなかったよ」

「ふん、注意力が足りん」

「体をなくしたお前にだけは言われたくないわ!」

 注意力欠けすぎだろ。


「まあだからなくなったのは、昨晩、私の寝ているうちにだろうな」

「昨日の晩ね。と言うか、牢に鍵がかかった状態で一体どうやったらなくなるんだよ」

 繋がってないのだから、頭と胴が離ればなれになってしまうことがあるのは何となく理解できるが、それが鍵のかかった部屋で起こったとなると一転、理解不能だ。


「部屋の中はちゃんと探したのか? 実は普通にあったりして」

 灯台下暗しという言葉がある。


「自分の体だぞ、傍にあって気付かないわけがないだろう」

「その自分の体をなくしたと相談を持ちかけてきた奴に言われても説得力がないな……」

「なっ、もちろん牢の中は隅々まで探したぞ! それでも見つからぬからこうしてわざわざ貴様の元までやってきたのだ!」

 まあ確かにデュアの性格からして、適当に捜索を行ったということはないだろう。

 彼女は騎士なだけあって、何かあったときすぐに他人に頼るのではなく、まずしっかり自分で対処をしようと試みる性格だ。

 そんな彼女がないと言うなら部屋にはない。


 そもそも彼女たちの部屋、牢は狭く、そして物もほとんどない。

 針をなくしたって五分とかからず見つけられるような場所だ。

 そんな場所で体なんて大きなものをなくせるはずがなく、となれば、体は牢とは違う所にあるのは考えるまでもない。

 本当ならばその“違う所”も自分で探したかったのだろうけど、顔だけでのこの建物内を探し回るのはきついと判断して、仕方なく俺の前にやってきたってところだろうか。

 ここまでどうやって移動したのかは……、まあ、それは今は聞くまい。


「デュアの言葉は信じるけど、でも、やっぱりおかしいだろ? 鍵のかかった鉄格子の牢から、どうやったら体がなくなるんだ? しかもお前の寝ているうちに」

「それがな、どうにも寝相が悪く、鉄格子の間を通り抜けてしまったらしい……」

「はあ? いくら寝相が悪くてもそれは無理だろう」

「馬鹿を言え、私の体には鉄格子を通り抜けるときに一番引っ掛かるであろう頭がないのだぞ、通り抜けられても不思議ではない」

「不思議だわ! よく考えろ、寝てたんだろ!? それで鉄格子を通り抜けたとなるとお前、寝てるときに一度縦になってるからね!? 立ってるからね!?」

「我ながら本当に寝相が悪い」

「寝相の問題か!」

 病気か心霊現象だわ!

 大体、寝相うんぬんはいいとして、頭がないからって本当に鉄格子を通り抜けられるか!?

 腰だって引っ掛かるだろうし、こいつ胸だってそこそこあったぞ!?


「問題のある寝相だ……」

 目を伏せ、耳の先を赤らめるデュア。

 どうやら寝相が悪いのが恥ずかしいらしい。

 これ以上寝相の件を追求すると再び血を吐く恐れがあるので、俺は一旦落ち着いた。


「はぁ、分かったよ、経緯は置いておくとして、体を探せばいいんだな?」

「探すがいい」

「デュア、経緯は置いておくと言ったが、敬意まで置いてくるな」

「ん? 探しても構わないぞ」

「許可は必要としてねえよ!」

 お願いしますだとか、頼みますだとか、そんな感謝の気持ちを表す気はないらしい。

 まったく……。


「探すけど、それは朝ご飯を全部食べてからだ」

 一から十まで俺に丸投げしているわけじゃないだけに、突っぱねるに突っぱねられない。

 本当は朝ご飯を食べたらすぐに開店準備を始めるつもりだったけど、予定変更だ。

 まあなくなったと言っても、どうしたって彼女たちはこの店の中から出ることは出来ないのだ、見つけるのにそう時間はかからないだろう。


「それまでそこでおとなしく待ってろ」

「うむ、分かった」

 散々不遜な態度を取っておきながら、素直にいうことを聞く彼女は、何だか少し可愛らしかった。

今日も読んでくださって、ありがとうございました。

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