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《天使の記憶》
白い闇。
それ以外何も認識出来なくなっていた僕に、彼の声が届いた。
懐かしい、声音。でも僕は彼を知らない。
彼が僕に触れる。僕は彼に抱きつく。僕は問い、彼も問う。
懐かしい、温度。でも彼も僕を知らない。
ねぇ、お名前を教えて?
僕の名前、思い出せたから。お兄さんのお名前を、僕にも教えてほしいよ。
絶対に忘れないよ。もう、何も忘れない。
白い闇に支配されていた僕の世界に、たった一つだけ、でも一番大切な名前が、深く刻まれた。
懐かしい、優しい手。でも彼は僕を置いて帰って行く。
けど、大丈夫。また会える、って言ってくれたから。
彼の名前を口にするだけで、「もう一度会いたい」って……「まだ生きていたい」って思える。
何度も何度も、その名前だけ呼ぶから。だから。
ねぇ、お願い。もう一度、その優しい手で僕に触れて。
ここはとっても、冷たいよ。