第7話 「通行許可」
今回も箸休め的な短編です。
「おい、そこのお前、止まれ」
突然呼び止められ、一行は振り返った。
*
「お前たちどこから来た者だ? 通行許可証は持っているのか?」
黒い熊毛帽を被り厳つい顔をした憲兵が、腕組みをしてカッツェ達をじろじろと眺める。
「おっと……しまった、見つかったか」
「もしかして……持ってないの? 通行許可証」
小声で呟くカッツェに、ノエルが不安そうな小声で話しかける。
「まぁ任せておけ」
カッツェは自信ありげな顔をノエルに向けると、トナカイからひらりと飛び降りて憲兵に歩み寄った。
「俺はカッツェという者だ。すまんが重要な案件で先を急いでいる。近衛兵団のXXという者はいるか? 取次ぎを頼みたい」
カッツェの堂々とした態度に、憲兵が訝しんだ顔をする。
「なぜ近衛兵長の名前を……?」
「旧友、みたいなものだ。名前を伝えてくれればわかるはずだ」
憲兵はしばらく思案してカッツェと後ろにいるノエル達を見比べていたが、やがて仕方なさそうに隣の憲兵に伝言を頼んだ。
*
やがて現れた恰幅の良い白髭の男が、カッツェを見るなり相好を崩した。
「おぉ、久しぶりじゃないか! カッツェよ」
カッツェ以外のその場にいた全員が、驚いてカッツェを見つめる。
その恰幅の良い男が着ている軍服には、襟元から肩にかけて多数の勲章が光っていた。人の良さそうな男だが、かなりの功績者であることは間違いない。
「よう。実はちょっと困りごとがあってな……」
カッツェはそう言いながら恰幅の良い男に近づくと、何やらゴニョゴニョと耳打ちした。
「うむ。承知した」
何事かを話し終えると、恰幅の良い男が憲兵達に向かって命令を発した。
「この者達は、南の国からの依頼を受けた使者じゃ。すぐに道を通すように」
「はっ! 仰せの通りに」
憲兵達が一斉に敬礼し、カッツェ達を丁重に関所に通す。
「助かった、礼を言うぞ」
カッツェが恰幅の良い男の方を振り返り、挨拶代わりに右手を挙げた。
「構わん。また何かあったらいつでも言うが良い」
恰幅の良い男が笑顔で答えた。
*
「凄いね! カッツェはあの偉いおじさんと知り合いなの?」
憲兵が見えなくなるところまで来ると、ノエルが興奮した様子でカッツェに訊ねた。
「知り合いというか、先日たまたま一緒に酒場で酒を飲んだだけなんだがな」
「えっ、それだけで、よく僕たちのことまで通してくれたね?」
ほっとした表情で頭をかくカッツェに、ノエルは驚いて目を丸くした。
「ま、これのお陰だな」
「何それ?」
カッツェが腰から下げていた小さな酒樽を持ち上げ、ノエルは興味深そうに眺めた。
「小人族秘伝の、地酒だそうだ。貰い物だが。一度飲むと、誰でも病みつきになるらしい」
ニヤリと笑ってカッツェが言った。
「お酒が……通行許可証か。大人って、しょーもないね」
ノエルは、関心したとも呆れたともつかない声で、溜息をついた。
短編小説「霧深い都市」と同じ、ドワーフの『地酒』をテーマにしています。(話の繋がりは特にありませんが。)
カッツェがどうやって各地を一人でを旅して来たのか、という話でした。
次話で、いよいよメインストーリーが進みます。