第6話 「外套(コート)」
今回は、箸休め的な短編です。
北の国から南へと旅する一行、カッツェ・ノエル・ヴァイスは、見渡す限り枯れた草木しか生えていない岩場地帯へと差し掛かっていた。
「そういえば」
トナカイに乗って先頭を歩むカッツェがノエルに声を掛ける。
「お前、その服でこれからも旅するのか?」
「えっ、何か問題でも?」
ふわふわと金髪を揺らしながら、ノエルが答える。
「何かって……。そんな真っ白なコートじゃ、すぐに汚れるぞ。他にもっと頑丈な上着はなかったのか?」
呆れたように言うカッツェが指すのは、ノエルの着ているコートのことだった。
柔らかい兎の毛でできたそのコートは、太陽の光を反射して淡い光沢を放っている。確かにどう見ても、荒野を歩く旅路に向いているとは言い難い見た目だった。
「あ、これ? 大丈夫だよ」
ノエルがまるで気にする風でもなく答える。
「ヴァイスが障壁の魔法を掛けてくれてるからさ」
隣にいた白魔導士のエルフ、ヴァイスが頷く。
「エルフに伝わる秘術です。私の服にも掛かってますよ。防御力を高めるだけでなく、汚れや劣化も防いでくれます」
そう言うヴァイスが着ている青白銀のローブも、ノエルのコートと同じく不思議な光沢を放っていた。
「なにっ、俺にもその魔法、掛けてくれ」
カッツェがヴァイスに頼む。
「あなたの鎧は既に汚れていますし、もともと防御力が高いので必要ないでしょう」
ヴァイスがあっさりと拒否した。
「……」
残念そうな顔をするカッツェに、ヴァイスは付け加える。
「けっこう準備が大変なんですよ、その魔法。七日七晩、魔法陣の中に対象物を置いておかなければいけないですから。今はそんな暇ないでしょう?」
「なるほど、じゃあ仕方ないな」
カッツェがようやく諦める。
「もしどこかで暇ができたら、掛けて差し上げますよ」
「良かったね! カッツェ」
カッツェをなだめるヴァイスに、隣のノエルはいつもの調子で笑っていた。
箸休めのお話。
ストーリーと直接関係ありませんが、RPGなどで「こんな少ない布で防御力高いってどういうこと??」と思う疑問を”魔法の力”で解決してみました。