小銭の豪放・改/被害者な改札機
やはり男と生まれた限り、豪放に生きていきたいと思う磊落に生きていきたいと思う、小さなことをあれこれ気にしない豪快な男、そう、戦国時代であれば柴田勝家や前田慶次のように。そんな男になりたいと思うのである。
例えば、そうそう、お食事やなんかも、出てくるものを全て美味しく平らげ、頂いている間の話題についても、スウプの味がどうしたこうしたなんてことを話題にするのではなく、できれば天下国家のこと、日本の経済がもはやきゅうきゅうだけどどうしたらよいだろうか、なんてなこと、或いは、それが難しいようであれば、町内の政治的な諸問題、例えば、ごみステーションの烏による燃えるゴミ蹂躙問題、といった話をするようにこれ勉め、けっして自らの色恋沙汰や友人身辺についての女々しい話はしない。
着るものやなんかについてもそうで、小洒落たショップに赴き、これはあたしに似合うかしらん?なんつって服を腹に当て、姿見を見て小首を傾げるなんてことは女々しいからけっしてしない。店員に財布を渡し、俺をなんとかしろ、と言う。さすれば、向こうは商売、服を売ることで駄賃をもらい糊口をしのいでいるのだから上から下までいと揃い衣服を調えてくれるからそれでよしとする。外見などどうでもよいという態度。姿勢。
出口の見えない不景気と言われて久しい昨今、街頭で、或いは、クーポン券などが配られたり、またポイント割引などが実施せされていることが多いが、そういう各種割り引きを受けるためには様々の小さな紙片や磁気カードを取りだして提示しなければならず、なんだかせこせこして男らしくないので口惜しいがこれは諦め、店員に、割引券をお持ちじゃないですか?と言われた場合にのみ、これを提示する。それも即座に提示して、用意していたように思われるのも業腹なので、言われて初めて気がついた、という体を装い、そういえばそんなあったなあ、かなんか言いながらあちこちのポケットに手を突き込み、ようよう取り出したのを、これかい?なんつってポイと手渡す。男らしい。
そんなことをいちいち考えながら往来を歩いているというのは、夕食夕餉、御馳走を並べてぺちゃぺちゃ酒を飲むなんていうのは男らしくないというかまあ、そんなことをする男もいるかも知れんが、もっとこの、なんちゅうの?潔さというか、そういうことを追求したい。ここは一番、もろきゅうかなんかでしゅっと一杯飲んでそれでおつもりにしよう、ってのはよいが、あたた、もろみ味噌が切れている、ちょっと買いに行ってくるわ、ということになったからで、サンダル履いて近所にもろみ味噌を買いに行くのは男らしいだろうか、と考えつつ、スーパーマーケット様の味噌コーナーに入って、いちいち手にとって小首を傾げ成分や値段をあれこれ閲するのは潔くない、たまたま手にとった味噌を持って帳場に並び、代価を支払う段になって、さあこれが自分の自慢だ工夫だ、何百何十何円という端数まで一瞬にして財布から取り出せることができるというのは、内部をみっつにわかってある小銭入れを使用、銀貨銅貨アルミ貨をそれぞれ分けて入れてあるからで、支払いにももたもたしないのは男らしい。と自負しつつもこんちはたまたま細かいのがなく、止む無く福沢諭吉氏がプリントされた紙幣で支払い、貰った釣り銭をちまちま分類して財布に仕舞っているのは、ううむ、実に実に、と呻きながら味噌をぶら下げて家路に就いたところ、近所の駅の改札口に女子高校生と思しき集団が居り、改札機に向かって磁気カードを挿入した思い思いの財布や袋をばんばんと叩きつけてホームへ滑りこんでいく。うーむ、むむむ?彼女達、男らしい。