揺蕩う果実
一日一筆複数連題です!
お題「朝ご飯」「センスバリュー」「鬼神の新人」
簡単に言えば、人のセンスに価値が設けられた。これによって自分のアイデアを表に出す人間が増えた。これを「センスバリュー世代」と呼び、人類は更なる発展を求めた。
が、結果。行き着くところまで行き着き、アイデア飽和の時が来た。
アイディニスト達はみるみるうちに衰退し、元の社会が顔を出しつつあった。
そんな中新たなアイディニストが生まれる。
「この世界の鬼神になる」
右手に皿を乗せ雄雄しく画面に映る姿は見る者全てを注目させた。新人ながらのその口調、そしてもったいぶらせるようなアングルで掲げられた皿。
「アイディニストの廃退が騒がれてるが、人類と同じくアイディニストも進化することを痛感させてやる」
乱暴に置かれた皿の上。驚愕したのはスタジオの人間だけでなく、画面を通してそれを見た視聴者もだった。
品が、ない。
なのに
腹が、満たされる。
「召し上がったろ?俺の料理に用意は要らない」
スタジオ、そして画面の前は一斉に歓喜した。新しい世代の誕生、そして単純な満足。
鬼神を自称した新人は正に次の日、「鬼神の新人」として数々の番組に引っ張られる。
メカニズムは塵ほども公開されなかったが、その新人の「これで終わると思うのか?」という言葉に情報の惜しさは消え去り、メディアは次の料理を渇望するようになった。
「見えない料理、広がる料理」として見事センスバリューを得た新人の料理はとある有名テレビ局に買われた。朝の情報番組と同時にこれを提供することで満足感を加算させる企てだという。
新人は様子を見続けた。自分の料理が世間に広く行き渡るまで。
そして日本全土が朝食を朝番組で済ませるようになった時、新人は告げた。
「新作発表だ」
テレビ局は新人の為に特番を用意し、発表の場を設けた。
番組が始まる。
ステージには数人の芸能人と新人。新人の目の前にはクロッシュを被せられた新作。
新人を囲むように芸能人が席に着く。空気が固まる。今すぐにでもその新作を目撃したいと世界を通じ地面が轟いている。注目が、画面を突き抜ける。
その様子を目玉だけで追いながら新人は口を開く。
「さらばだ人類」
新人がクロッシュを持ち上げた瞬間、世界人口は大幅に、だなんて言葉で表現出来ないほど夥しく減少した。
魂を、抜かれた。
「これで俺も、"鬼神"だ」
ステージから、画面の向こうから、世界中から集められた人の魂が綺麗な皿に盛り付けられている。それを新人は持ち上げ、口に放った。
鬼が鬼神になるには数十億の人間の魂が必要。過去それを成したのは現鬼神のみ。
新人、もとい一人の鬼は鬼神を目指し、人間界に降り立った。
鬼の企てはまず世界の注意を引き付け、一気に魂を集めるというもの。
方法は、言わずもがなであろう。
鬼のアイデアは確かに人間を喜ばせたが、それは結果として鬼自身を悦ばせる布石でしかなかった。
そしてこの時、鬼が食い零した数百の魂が邪気を祓う象徴、「桃」に姿を変え、日本より遥か遠くの海に墜とされた。
頗る昔の御伽噺が実現するまであと―――
如何でしたか?
もう完全に即興ですが楽しく書けました。満足。