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Memories/Recover   作者: あざらし@道明寺
第1章──パラレルワールド編──
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Act4.「記憶」

 さっきの爆発音。

 あの音は二年前の戦争で使われていた、軍の戦闘機から放たれる焼夷弾の着弾音だ。

 だが、何故そんな音が現代(いま)になって聞こえてくるのだろうか? いや、むしろここが現代であるならば、戦闘機など飛んでいるはずがない。

 なぜなら、二年前の戦争の終結と同時に「prototype」は、「psychicer」との間に「人類平和安全保障条約」と呼ばれる新しい法律を締結していたからだ。

 これにより、互いが互いの種族を傷つけることはもちろん、軍を持つことすら全面的に禁止されているため、もちろん戦闘機や武器の製造、使用も行うことはできない。ましてや、あんな大きな音を立てて焼夷弾など落とそうものなら再び紛争が頻発する混沌の世界へと逆戻りすることになりかねない。

 だが、条約締結の報告とほぼ同時期に政府がマスメディアを通じて放った言葉の中にはこんな一文もあった。

「彼ら──psychicerは現在、日本の領土内には一人たりとも存在していない」と。

 つまり彼らは、「prototype」による戦闘機や重火器の制圧に対して迎撃を繰り返している間に、揃ってどこかへ逃げてしまったというのだ。

 その後、全世界各地からも「psychicer消失」という話題が連日のように緊急報道番組で取り上げられ、見たいバラエティ番組が潰れるのはもう勘弁してほしいと思った人も少なからずいるはずだ。

 しかし、あくまでも直斗たちはただの一民間人であり、世界情勢に関わる必要がないが故にバラエティ番組があーだこーだと言えているのもまた事実だ。

 国のトップたちにとっては、バラエティ番組よりも世界の動きの方が重要なのだろう。

「はぁ……」

 大きなため息を漏らす。普段ニュースを見てすらいない男子高校生がここまで世界情勢を理解できていることは誇りに思いたい。

 となると、ここは過去の世界なのだろうか? まぁ、条約を破って演習か何かをしているという可能性も否めないが、SF脳の直斗にとってはどうしてもここが過去の世界であるという可能性を拭いきれなかった。

 仮にこの場所が彼の記憶の中の過去だとしよう。

 そうなると、戦闘機が飛行しているこの地域はまだ戦争中ということになる。

 そして今、直斗が立っている元々街だったかのような荒れ地の状況にも説明がつく。

 ……はずなのだが。


 ──俺は、この場所を知らないし、戦争に巻き込まれた記憶もない。


 直斗には、中学に通っていた三年間の記憶が一切ない。かと言って、不登校生だったとか不良生徒だったわけではない。

 ただ単に『記憶が無い』というだけで、晴香や周りの人たちは彼の中学時代のことを──つい最近聞いた話だが──「絵に書いたような模範生」とまで賞賛していたほどだし、自室には修学旅行の記念写真やクラス内で撮影されたと思われる日常風景の一シーンがいくつも飾られている。

 だが、直斗に言わせてみれば、修学旅行に行った覚えはないし、一緒に教室で笑いあっている周りの人たちの名前も知らない。

 さらに不可解なのは、高校以前の記憶が全く無いならまだしも、小学校を卒業したというところまでは、ついこの間のことのように鮮明に覚えているということだ。

 何故に中学時代の記憶だけが無いのかはわからない。

 それに、彼自身でも無意識だったが、さっき「この音は二年前の戦争の時に聞いた音だ」と勝手に決め込んでしまっていた。

 冷静になって考えてみれば、直斗が二年前──つまり中学二年生の時──のことを覚えているはずがない。

「はぁ……」

 また全てが振り出しに戻ってしまったような気分だった。

 ──何か不幸が続きすぎて逆に不自然に思えてくる。この世に神様がいるなら素手でも立ち向かいたい気分だ……。

 早くこんな世界から抜け出したい。現実世界に戻って、優奈や島崎たちと勉強会をしたり、いろんなところに行きたい。

 考えることを避けてたが、一応もう一つの選択肢として、直斗が何かの理由で死んでしまったという可能性もありえるわけだ。

 それならそうと早く知らせてくれ。

 自分が生きてるのか死んでるのかすらもわからない状態で、何をどうしろと言うんだ。

 とはいえ、同時に知らない世界に興味を持ってしまっている人格も確かに存在していることに気づく。

 今はとりあえず抜け出す方法も考えつつ、この世界についてもっと詳しく知ることが先決だ。

 ひとまず、問題を順番に解決していこう。


 ──そう、さっきの音の記憶。

 

 その話はつい先ほど、自己解決したはずだった。


 だけど、どうも納得がいかない。

 全く知らず、一度も聞いたことのない音に対して、「あ、この音知ってる」などという感情が直感的に湧くはずがないからだ。

 彼はこの時、淡い期待を抱いていた。

 もしかしたら、この世界には自分の空白だった三年間が眠っているかもしれない、ということに対して。


 そう、

 ──無くしたはずの、あの頃の記憶が……。


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