俺の男な夢の話
ここはどこだろう。
見慣れた風景の中に俺は立っているのだが。
見慣れているはずなのにここがどこか分からない。
「あそこにあるのは、家・・・?」
散漫な意識を出来る限り集中させ、目を凝らしてみるとぼんやりとした視界の先に家が見える。
その家もどこか見慣れたような、懐かしい感じがする。
無意識のうちに俺は歩いていた。
その家がなんなのか。
なぜ懐かしい香りがするのか。
それを知るために、俺の脚は勝手に動いていたのだ。
家に向かって歩いていると、俺の頭でぼんやりと何かの記憶が再生される。
そのどれもが懐かしくて。
なぜか俺の目からは涙が流れ出ていた。
思わず俯いてしまい、重力に抗えない涙が地に落ちる。
涙の滴が床に落ちる音が鼓膜を揺らす。
その音は、閉じきった俺の心をノックするようで。
ふと足を止め、顔を上げると目の前には目指していた家があった。
本能に促されるまま、ドアへと手を伸ばす。
俺の手が冷たいドアノブを掴む。
力を込めて回し、ドアを引いて開ける。
ドアが開き切った瞬間、視界に入るのは薄暗い壁。
それは最近顔見知りになった、部屋の天井さんだった。
「・・・。夢かよ」
なぜか冷静に現状を判断する。
あの風景も、家も。全部夢だったのだ。
そして、現実に戻った俺には夢の中の世界が何だったのかをはっきり理解することができた。
「・・・、トイレいこ」
ベッド同士の間に結構な距離があるとはいえ、俺のせいで京花が起きてしまうことも十分ありえる。
できるだけ物音を立てないように気を付けながら、トイレにいくべく部屋を出るのだった。
まだ眠い目をこすりながらトイレを目指して歩き続ける。
眠いと感じる割に脳は元気で、歩きながらずっとあの夢のことを考えている。
「なんで今更実家のことなんて思い出すんだよ・・・もういいだろ・・・」
自分の記憶に文句を垂れるが、俺の脳なのでどうしようもない。
あの夢の中で俺は家族のことを思い出して泣いていた。
やはり、いくら決意をしたと口では言っていても、そう簡単に記憶が薄れることはないようだった。
そんなことを考えているといつの間にかトイレに到着していた。
男子トイレと書かれた札を確認して、中へ入る。
『男子トイレ』ということを、確認して。
しかし、俺はそのことに気付かなかった。
寝ぼけていたからだろうか、それとも長年の癖だろうか。
夢のことも含めて全て水洗トイレに排出し、水と共に流し去る。
表現しがたい満足感に浸りながら部屋へと帰る俺。
そして、俺が男子トイレに入ってから出るまでの一連の流れを、暗闇に紛れて見る目があったことに、俺は全く気が付かなかった。