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俺は本気で女になりたい!  作者: あああああ
≪始≫プロローグ
1/17

プロローグ

 窓越しに差し込む朝の日差しを受け、電車に揺られる。

 ガタンゴトンと電車が走る特有の音をイヤホンでシャットアウトし、代わりに耳元で流れている軽快なリズムの曲に合わせ小さく体を揺らす。

 電車の揺れに加えて体が揺れるので、両サイドで括った短めの髪が不規則に揺れる。

 電車は走り続ける。電車が進むたびに目に飛びこんでくる、初めて見る景観に思わず声が漏れた。

 

これから向かうのは、全寮制の高等学校。


 俺の人生の中でも特に重要なイベント、青春の3年間というものを過ごす場所。

これから起こるであろう様々なことへの期待や不安、そして緊張を胸に、俺は電車に揺られていた。


通勤ラッシュ前だからか、人がほとんどいないので座席に座っている。

膝の上にはスクールバッグを乗せ、足元には大きめのキャリーバッグが佇んでいた。

 

 電車がトンネルに入る。

 外からの光が一切なくなったため、途端に窓ガラスが自身を映す鏡へと一変する。

 胸の中で暴動を起こしかけている緊張を紛らわせるべく、身だしなみを整えようと鏡へ振り返る。

 そこに映るのは、一人の美少女だった。

 

 長い茶髪を背中におろし、、頭の上を左右で短く括っている。

 大きな瞳に、小さめな顔。

 ピンク色の唇と、頬はほのかに赤く染まっている。

 汚れのない新品の制服に身を包んでいるが、その制服の胸元に膨らみは一切無い。

 その見た目は、街で見かけたら10人中12人は確実に振り向くだろう。

 180度どこから見ても見紛うことのない女の子だった。

 

 自分の姿を改めて目視することで、俺は堪らない気分になる。

 自分で望んだこととはいえ、やはり慣れないものは気になるのだった。


 一人で勝手にブルーな気分になっていると、いつの間にか電車はトンネルを抜け、少し見慣れた風景の中を走っていた。

 間違いない、ここは受験の時に訪れた場所だ。

 つまり、もうしばらくもしないうちに電車は終点に止まるだろう。

 そこで降りればもう引き返せない。

 いや、すでにもう引き返せないのだが。

 

 少しずつ速度を落とし始めた電車はついに駅にたどり着くと完全に停止する。

 続いてアナウンスと共にドアが俺を歓迎するかのように開く。

 ドアを抜け外へ出ると、眩しいほどの太陽の日差しと爽やかな風が俺を出迎えてくれた。

 長い髪が先程よりも少し強い風を受けてなびく。

 スカートも風の洗礼を受けかけたが俺の左手によりなんとか無事だった。

 ちなみにスカートの下は・・・おっと、言わない方がいいかな?


 改札を抜け、黙々と足を進める。

 意識はしていないが。歩いている足は次第に速くなっていく。

 歩きながら耳に装備されているイヤホンを取り、バックの中に突っ込む。

 バッグの隙間から覗く青色の小さな手帳。そこには、『霧原璃斗(きりはらりゅうと)』と名前が書いてあった。

 歩くたびにキャリーバッグのタイヤが立てるカラカラという音だけが静かに響く。

 

 歩き続けること10分程度。

 立ち止まった俺の頭上には、巨大な門がそびえ立っていた。

 この下をくぐれば、俺の新たな人生がスタートする。

 他人が聞けば大袈裟だと思うかもしれないが、俺にとっては本当に一大事なのだ。

 足を伸ばし、踏み出そうとしたところで一瞬躊躇する。

 

 しかし、こんなことで躊躇っているようでは何も始まらない。


 覚悟を決め、胸でざわめくたくさんの感情を噛みしめながら一歩踏み出す。


「ついに始まるぜ・・・!俺の・・・女の子デビューがな!!」

 頭上にそびえる大きな門をくぐると共に、俺は人生の中でも特に大きな門をくぐったのだった。

 

 霧原璃斗(きりはらりゅうと)の、霧原璃子(きりはらりこ)としての新たな人生が始まった。


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