表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の終わりに  作者: 新兎
第四夜
9/9



――



僕はここで幸せになる夢を見ている

君を幸せにする夢を見ている


そんなこと決してありえないから

人形の君を僕が幸せと感じられる形に捻じ曲げて

小さく小さくして戸棚の奥の大切な小箱にしまっておこう



――








「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」


 走っている間中、僕はひたすら謝り続けていた。

 それしか言葉がなかった。

 彼女はワケが分からないといった顔で僕を見ている。


 ごめん、ごめんなさい。


 視界の先に見覚えのある風景が見えてくる。次第に速度が落ち、視界の揺れも緩やかになっていく。

 夢で見たあの場所だ。やはり、僕はこの場所を知っていた。この場所に来たことがあったんだ。


 僕は一本の木の根元に跪き、地面に指を立てた。そのまま土を掘り起こす。ただ一心不乱に。

 爪がはげ、指先に血が滲んでも、手を止めなかった。


 ここが終着点。僕の、全ての、始まりで、終わりの場所。僕と彼女が最後に訪ねた場所。そして、彼女が最後に見た風景。


 ガサッと指がビニル袋に触れる音がした。僕は震える手で土の中からビニルを掘り出す。中に入っていたのは、見覚えのあるネクタイと、茶色の錆がついた鋸だった。


「あぁ……」


 僕の目から止め処なく涙が溢れ雨と一緒に地面へ落ちる。


「す、ぐる……」

「ミキ、愛してるよ」

「すぐ……」

「ずっと一緒だから」


 彼女の細い首にかかったネクタイに力を込める。彼女は少しだけ抵抗し、やがて力なく僕にもたれかかってきた。


 まるで映画を見るかのように映像が頭の中に流れていく。

 次のシーンには鋸を手にした僕がいる。

 そして、気がつけば彼女は首だけになっていた。


 首だけの彼女が「ずっと一緒だから」とにっこり笑う。僕は至福の喜びを感じながら彼女の首を持ち帰った。


 そんなわけがないのに――僕の映画の中で彼女は僕を恨んでいなかった。僕と一緒に喜んでくれていた。だから、僕はいつも罪の意識に苛まれた。

 彼女を見るたびに苦しくて仕方なかった。

 この絶望から、現実から、逃れられるのなら、いっそ気が触れたいと願ったんだ。


 でも、それも終わり。


 僕一人だけの映画の幕は下りてしまった。


「ミキ……」


 僕は手の中の首を持ち上げてみる。

 でも、彼女は僕を見ないし、僕に返事をしてくれることもない。ここにあるのはただの死体だ。


「……ミキ」


 涙が一気に溢れてきた。


 彼女は、ミキは、もうこの世にいない。 もう僕と一緒にいてはくれない。そして、ミキをそうしたのは他でもない僕自身だ。


 僕がミキ殺した――


 ピカッと空が光った。いや、ライトが僕の顔を照らしている。虚ろに視線を動かすといつの間にか人が沢山いる。

 なにかを言っているみたいだけれど、僕の耳には届かない。


 雨は一層激しくなり、僕とミキを濡らしていく。

 雨で張り付いてしまったミキの髪を指でそっと撫でてやると、ミキが微笑んだような気がした。僕は小さなミキの頭を両腕で抱きしめる。


「ずっと一緒だよ」


囁いて、口付けをすると冷たいミキの唇からは死の匂いがした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ