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夢の終わりに  作者: 新兎
第四夜
6/9

 誰かが僕を見つめている。暗闇の中からじっと息をひそめて。僕はその誰かを探して視線をめぐらす。でも、そこにはただ暗闇だけが溢れている。

 嫌になるくらいの闇。世の中のすべての絶望が溶け込んでしまったかのような闇だ。僕はそこに酷く馴染んでいる。

 不意になにかが転がってくる。奇妙な形の果実だ。反射的に手を伸ばして僕は悲鳴を上げた。

 転がってきたのは彼女の頭だった。頭部だけの彼女は僕と目が合うとニタリと笑った。


「っ!!」


 声にならない悲鳴を上げて僕は目を開ける。夢の中と同じような暗い空間が視界に広がる。視線を動かして彼女の背中を探す。暗い部屋にぼんやりと彼女の白い服が浮かび上がった。

 僕はほっと息を吐く。嫌な夢だった。どうも嫌な夢というのは慣れることがないらしい。額にじっとりと汗をかいて不快だ。拭えないのがもどかしい。

 不意に窓の外が蒼白く光った。次いで、部屋を震わすほど大きな音が鳴り響く。

 彼女がビクリと肩を動かす。今の音で起きたのかもしれない。

 ただでさえ嫌な夢で滅入っていたところに、この雷。正直、一人起きていることが嫌だった僕は彼女が起きてくれるのを期待を込めて待ってみる。

 けれど、彼女は少し身じろぎをしただけで僕の期待には応えてくれなかった。

 昔からいつも彼女はそうなんだ。思って、自分の思考に引っ掛かりを感じた。


 昔から? 確かに僕と彼女は昔からの知り合いだ。でも、よく覚えていない。そういえば、彼女の名前すら僕は知らない。なぜ、聞こうと思わなかったんだろう? いつか思い出せると思っていたんだろうか。分からない。分からない。


 頭の中で蟲の羽音のような警告音が鳴りはじめる。気持ちが悪くなる。気分が悪くなる。これ以上、考えてはいけないと誰かに言われているようだ。

 誰って、それはきっと――僕の視界に彼女の白い服がうつる。僕はギュッと目をつむる。

 そんなことはありえない。彼女は生首の僕を拾ってくれた人だ。友人だと言っていた。僕もそう認識している。ああ、でも、嫌な考えが頭から離れない。


 早く朝になればいい。彼女が笑ってくれれば僕はそれだけで――



※※




「生憎の雨ね」


 彼女が目を覚ますまでの数時間をまんじりとせず過ごした僕ではなく、窓の外を見ながら彼女がうんざりしたような声で呟く。


「……でも、行かないわけには、ね?」


 窺うように彼女が僕を見る。

 彼女からすれば、本当はこんな雨の日に山なんかに行きたくはないだろう。だから、僕の反応を知りたがっている。

 ここで僕が迷えば彼女は延期を決めてしまうだろう。そうなると、また来週、彼女の仕事が休みになるまで待たなければならない。

 僕は彼女を見つめ返し、早く全てを知りたい、と伝えた。

 山に行ったからって全ての謎が解明されるわけではないけれど――それでも、そこになにかがあることだけは分かっていた。僕の失った記憶がそう告げていた。

 僕の答えに彼女が「そうよね……」と同情の混じった声で頷く。そして、気を取り直したように出かける準備を始めた。

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