シンデレラは何処に :約1500文字 :パロディ
「次の者ー。……はい、次の者ー。はい、次ー」
「はあ……」
とある昼下がり。柔らかな日差しが石畳を照らし、町の広場にはどこか浮き足立ったざわめきが満ちていた。その中心で、今日も今日とて王子は側近を従え、背もたれの高い椅子に腰を据えていた。舞踏会の夜に出会った“愛しの君”を見つけ出すためである。
王子の前には長い行列ができ、若い娘たちが期待とあきらめが入り混じった表情で順番を待っていた。つま先立ちで前の様子を窺い、隣同士でひそひそ囁き合いながら、奇跡が自分に訪れることを夢見ていた。
手招きされ、明るい返事とともに前に進み出ては、慎重にガラスの靴に足を差し入れるが、ほどなくして肩を落とし、項垂れながら列の外へ去っていく。
王子との結婚を目当てに名乗り出る者は数多くあれど、あの夜の娘との再会には至らず。王子は深いため息をつき、物憂げな眼差しでガラスの靴を見つめるばかりであった。
「今日も見つかりませんでしたなあ。ねえ王子。そろそろ……」
「その先は言うな」
「と、おっしゃいますと?」
「『もうあきらめなさい。これだけ探しても見つからないのです。それもまた運命。あ、そうそう、他国の姫君や有力者の娘から縁談の話が来ておりまして』――そう続けるつもりだったのだろう?」
王子は側に立つ側近をちらりと見上げ、わずかに眉をひそめた。やがて小さくため息をつくと、再び手元のガラスの靴に視線を落とした。
「ははは、いえいえ。これほどまでに情熱をお持ちになる王子は初めて拝見いたしました。お生まれのときからお仕えしている身としましては、ぜひともその恋路を成就していただきたいところでございます」
「どうだかな……。しかし、見つからないものだ。運命の君……」
「どこの誰かも分からぬとは、また難儀な話でございますな。せめてお名前だけでも伺っておけば、いかようにも手の打ちようがあったでしょうに」
「それはもう何度も後悔したよ……」
王子はまた深くため息をついた。
「……それで、さっきは何を言いかけたのだ?」
王子はふと顔を上げ、問いかけた。
「ええ、そろそろ視点を変えてみてはいかがかと申し上げようと」
「視点?」
「はい。お相手は大変高貴なお方だったのでしょう? 従者はおりませんでしたか? 馬車でお帰りになったとのことですが、家紋や紋章は見えませんでしたか? 王子ご自身、馬で追われたのでしょう?」
「ああー……」
王子はあの夜の光景を探すように空を見上げた。
「……いや、駄目だ。相手のほうが速かったうえに、夜の十二時を回りかけていて辺りは暗く、よく見えなかった。あきらめきれずにしばらく追ったが、あっという間に姿を消してしまった。……そういえば一瞬、悲鳴のようなものが聞こえた気がしたが……まあ、気のせいだろう。崖があるような場所でもなかったし……はあ」
「ああ、王子。そのように強く抱きしめては壊れてしまいますよ。唯一残された手がかりなのですから」
「ああ……ふっ」
「ん? いかがなさいました?」
「いや、残されたものといえば、道にカボチャが落ちていてな。それで、あの馬車はどこかカボチャに似ていたな、と思っただけだ」
「ほう、カボチャ。それはまた、ずいぶん風変わりな馬車ですな。もしかするとカボチャが名産の土地の者かもしれません。国外にまで探索の手を広げてみましょう」
「ああ、頼む。カボチャの君……このガラスの靴にぴたりと合う、愛おしい君は何処に……」
王子はガラスの靴を胸元へ引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。




