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過去改変局  作者: 御影のたぬき


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20/20

最終話 時を超えて

前回のあらすじ

 健太郎、相良、澪——三代の管理人たちは、それぞれの場所で人を助け続けている。健太郎はボランティアで、相良は研究者として、澪は過去改変局の管理人として。三人は時間の番人からのメッセージを受け取り、自分たちが繋がっていることを知る。そして、すべての物語が完結する時が近づいている。

【五年後——2033年初春】

 美咲の町。

 静かな病院の一室。

 健太郎は、ベッドに横たわっていた。

 85歳。

 穏やかな顔をしている。

 枕元には、美咲の写真が置かれていた。

 そして、もう一枚。

 若い頃の健太郎と美咲が、笑顔で並んでいる写真。

 健太郎の意識は、朦朧としていた。

 医者は言った。

「おそらく、今日か明日が……」

 病室には、美咲の娘・絵美と、その家族がいた。

 そして、もう一人。

 相良透が、駆けつけていた。

「健太郎さん……」

 相良が、健太郎の手を握った。

 健太郎が、うっすらと目を開けた。

「相良……さんか……」

「はい。来ました」

「ありがとう……」

 健太郎の声は、弱かった。

 しかし、穏やかだった。

「相良さん……過去改変局は……?」

「はい。澪さんが、今も続けています」

「そうか……」

 健太郎は、安堵した表情を見せた。

「俺は……たくさんの人を見てきた……」

 健太郎が、静かに語り始めた。

「過去を変えた人も……変えなかった人も……」

「どちらが正しいかは……わからない……」

 相良は、黙って聞いていた。

「でも……わかったことがある……」

「大切なのは……自分で選ぶこと……」

「過去を変えても……変えなくても……」

「その選択を……受け入れること……」

 健太郎は、微笑んだ。

「相沢麻衣さんは……過去を変えた……」

「健一さんと東京へ行き……幸せになった……」

「それも……正しい選択だった……」

「はい」

 相良は、頷いた。

「過去を変えることも、一つの答えです」

「澪さんに……伝えてほしい……」

 健太郎が続けた。

「過去改変局は……選択肢を与える場所だと……」

「変える自由も……変えない自由も……」

「どちらも……尊重されるべきだと……」

 相良は、涙を流した。

「必ず、伝えます」

 健太郎は、天井を見上げた。

「俺の人生は……幸せだった……」

「美咲に会えて……」

「多くの人を、助けられて……」

「そして、相良さんや……澪さんに、出会えて……」

 健太郎の目が、ゆっくりと閉じていった。

「美咲……今、行くよ……」

 そして、健太郎は静かに息を引き取った。

 その夜。

 過去改変局。

 澪は、窓口に座っていた。

 いつもと変わらない夜。

 しかし、突然、カウンターが激しく光り始めた。

 澪は、驚いた。

「何……?」

 光は、部屋全体を包んだ。

 そして、カウンターの上に、メッセージが浮かび上がった。

「澪へ

 健太郎が、旅立った。

 穏やかな最期だった。

 彼は、最期に言っていた。

 『過去改変局は、選択肢を与える場所だ』と。

 『過去を変える自由も、変えない自由も、尊重されるべきだ』と。

 これが、健太郎の最期のメッセージです。

 私たちは、時に過去を変えることを手伝い、

 時に過去を受け入れることを手伝う。

 どちらも、等しく大切な役目です。

 澪、あなたも無理をしないでください。

 いつか、次の継承者が現れるまで。

相良より」

 澪は、涙を流した。

「健太郎さん……」

 そして、続けてメッセージが現れた。

「澪へ

 ありがとう。

 お前が、頑張ってくれて、嬉しかった。

 俺は、多くの人を見てきた。

 過去を変えた人。

 過去を受け入れた人。

 どちらも、勇気ある選択だった。

 桜井美月さんは、過去を変えて、親友との関係を取り戻した。

 相沢麻衣さんは、過去を変えて、恋人との愛を守った。

 彼女たちは、幸せになった。

 木下純也さんは、過去を受け入れて、前を向いた。

 高橋真理子さんは、過去を受け入れて、親友の夢を叶えた。

 彼らも、幸せになった。

 答えは、一つじゃない。

 人それぞれだ。

 澪、お前はそれを理解している。

 だから、安心して任せられる。

 俺は、今、美咲のところに行く。

 ずっと待っていてくれた人のところに。

 さようなら。

 そして、ありがとう。

健太郎」

 澪は、声を出して泣いた。

「健太郎さん……」

「ありがとうございました……」

 澪は、健太郎の言葉を胸に刻んだ。

 過去改変局は、選択肢を与える場所。

 変える自由も、変えない自由も、等しく尊重される。

【三年後——2036年秋】

 大学のキャンパス。

 相良透は、研究室で論文を書いていた。

 50歳を過ぎた相良は、今や心理学の権威となっていた。

 過去改変局での経験を基にした理論は、世界中で注目されていた。

 相良の理論は、健太郎の教えを反映していた。

「過去は変えられる。そして、過去は受け入れることもできる」

「どちらを選ぶかは、個人の自由である」

「大切なのは、その選択を自分で行い、その結果を受け入れることだ」

 この理論は、革新的だった。

 従来の心理学は、「過去は変えられない」という前提に立っていた。

 しかし、相良の理論は違った。

「過去の意味を変えることで、過去そのものを変えることができる」

「それは、時間的な改変ではなく、心理的な改変である」

「しかし、それは本人にとって、実質的な過去の改変と同じ効果を持つ」

 この理論は、多くの議論を呼んだ。

 しかし、臨床での効果は明らかだった。

 多くの患者が、この理論によって救われていた。

 相良は、窓の外を見た。

 秋の空。

「健太郎さん、見ていますか?」

 相良は、呟いた。

「あなたの教えが、今も多くの人を救っています」

「過去を変える人も、変えない人も」

「どちらも、幸せになっています」

 その時、研究室のドアがノックされた。

「どうぞ」

 入ってきたのは、一人の若い女性だった。

 20代後半。

 聡明そうな目をしている。

「相良教授、お時間よろしいですか?」

「どうぞ。座ってください」

 女性が座ると、相良は尋ねた。

「何か、相談ですか?」

 女性は、少し躊躇してから言った。

「実は、先生の理論について、質問があるんです」

「何でしょう?」

「先生は、『過去は変えられる』とおっしゃいますが」

「それは、比喩ですか?それとも……」

 相良は、微笑んだ。

「それは……見方によります」

「心理的には、確実に変えられます」

「そして、もしかしたら……」

 相良は、言葉を選んだ。

「もっと深い意味でも、変えられるのかもしれません」

 女性は、興味深そうに聞いていた。

「先生、不思議な場所のことを、ご存知ですか?」

「不思議な場所……?」

「過去改変局という……」

 相良は、驚いて女性を見た。

「あなた、どうやってその名前を……?」

「夢で見たんです」

 女性は、真剣な目をした。

「何度も、同じ夢を」

「地下鉄の通路の奥に、扉があって」

「そこに、誰かが待っている夢を」

 相良は、女性をじっと見つめた。

 この若者の目には、特別な光がある。

 深い共感力。

 人を助けたいという強い意志。

「あなたの名前は?」

「柊美月です」

 相良は、深く頷いた。

「柊さん、あなたは……導かれているのかもしれません」

「どこに……?」

「それは、あなた自身が見つけるでしょう」

 その夜。

 過去改変局。

 澪は、窓口に座っていた。

 管理人になってから、8年が経った。

 この8年で、澪は数多くの人を導いてきた。

 過去を変えた人も多い。

 過去を受け入れた人も多い。

 澪は、健太郎の教えを守っていた。

 どちらの選択も、等しく尊重する。

 ある依頼者には、「過去を変えるべきです」と助言した。

 別の依頼者には、「過去を受け入れるべきです」と助言した。

 一律の答えは、ない。

 人それぞれだ。

 澪は、それを理解していた。

 しかし、最近、澪は感じていた。

 そろそろ、次の継承者が現れる時期かもしれない、と。

 8年間、休みなく人々を導いてきた。

 疲れている。

 外の世界に、戻りたい。

 その時、扉が開いた。

 一人の若い女性が入ってきた。

 澪は、その女性を見て、はっとした。

 この人は……。

 女性も、澪を見て、何かを感じたようだった。

「いらっしゃい」

 澪は、いつものように言った。

「座りなさい」

 女性が座ると、澪は尋ねた。

「何を変えたい?」

 女性は、少し考えてから答えた。

「実は、私は過去を変えに来たわけではありません」

 澪の心臓が、早鐘を打った。

 この言葉……。

「では、なぜここに?」

「あなたに会いに来ました」

 女性は、澪を見つめた。

「過去改変局の管理人に」

 澪は、涙が出そうになった。

 ついに、来たのだ。

 次の継承者が。

「私の名前は、柊美月です」

 女性は、自己紹介した。

「心理学を学んでいます」

「相良透教授の教え子です」

 澪は、驚いた。

「相良教授の……」

「はい」

 美月は、頷いた。

「教授から、この場所のことを聞きました」

「直接ではありませんが……示唆されました」

 美月は、続けた。

「私は、人の心に寄り添うことが、使命だと思っています」

「過去を変えたい人も、変えたくない人も」

「どちらも、導きたい」

「もし可能なら……」

「この役目を、引き継ぎたいんです」

 澪は、長い間美月を見つめた。

 そして、気づいた。

 この人は、すべての条件を満たしている。

 次の管理人に、ふさわしい。

「柊さん、この役目は辛いですよ」

 澪は、静かに言った。

「孤独で、苦しい」

「自由を失います」

「わかっています」

 美月は、真剣な目をした。

「でも、意味があります」

「そうですよね?」

 澪は、微笑んだ。

「ええ……意味があります」

「そして、一つ覚えておいてください」

 澪は、真剣な目で美月を見た。

「過去改変局は、選択肢を与える場所です」

「過去を変える自由も、変えない自由も、等しく尊重されます」

「あなたの役目は、依頼者が自分で選べるように導くことです」

「わかりました」

 美月は、深く頷いた。

 その時、カウンターが光り始めた。

 継承の羊皮紙が現れた。

 澪と美月は、継承の儀式を行った。

「私は、この役目を次の者に託す」

 澪が言った。

「人々を導いてきた」

「今、その役目を終える時が来た」

「私は、この役目を引き受ける」

 美月が答えた。

「人々を導き、過去と未来をつなぐ」

「時間の管理人として」

「過去を変える人も、変えない人も」

「どちらも、等しく尊重する」

 光が、二人を包んだ。

 澪の体が、透明になっていく。

 美月の体が、この空間に定着していく。

 継承が、完了した。

 澪は、実体を取り戻した。

 自由になった。

「柊さん……ありがとう」

「いえ、こちらこそ」

 美月は、微笑んだ。

「澪さん、一つだけ」

「何ですか?」

「過去を変えた人と、変えなかった人」

「どちらが多いですか?」

 澪は、少し考えてから答えた。

「半々くらいです」

「そうですか……」

「どちらが正しいということはありません」

「人それぞれです」

 美月は、深く頷いた。

 澪は、扉に向かった。

 そして、振り返った。

「柊さん、健太郎さんの教えを忘れないでください」

「『選択肢を与えることが、私たちの役目だ』と」

 美月は、深く頷いた。

「はい。必ず」

 澪は、扉を開けた。

 光が、差し込んできた。

 澪は、一歩踏み出した。

 8年ぶりの、自由。

【エピローグ——2037年春】

 どこかの公園。

 桜が満開に咲いている。

 一つのベンチに、三人の人物が座っていた。

 いや、正確には、二人と一つの存在。

 相良透。58歳。

 芦田澪。40歳。

 そして、健太郎の写真。

 二人は、健太郎の写真を囲んで、座っていた。

「健太郎さん、見ていますか?」

 相良が言った。

「私たち、こうして集まりました」

「あなたから始まった物語が、今も続いています」

 澪が続けた。

「新しい管理人、柊美月さんが、人々を導いています」

 二人は、しばらく黙っていた。

 桜の花びらが、風に舞っている。

「健太郎さんの教え、覚えていますか?」

 相良が言った。

「過去を変える自由も、変えない自由も、等しく尊重されるべきだ、と」

「はい」

 澪は、頷いた。

「私も、その教えを守りました」

「ある人には、過去を変えることを勧めました」

「ある人には、過去を受け入れることを勧めました」

「それが正しい」

 相良が続けた。

「相沢麻衣さんは、過去を変えて幸せになった」

「木下純也さんは、過去を受け入れて前を向いた」

「どちらも、正しい選択だった」

「絶対的な答えはないんですね」

 澪が言った。

「人それぞれ」

「その通りです」

 相良が微笑んだ。

 二人は、健太郎の写真を見つめた。

「健太郎さん、あなたは今、美咲さんと一緒ですか?」

 澪が尋ねた。

 風が吹いた。

 まるで、答えるように。

 桜の花びらが、二人の周りを舞った。

 その光景は、まるで健太郎と美咲が、二人を祝福しているかのようだった。

「きっと、一緒だよ」

 相良が微笑んだ。

 過去改変局。

 柊美月は、窓口に座っていた。

 これから、自分が管理人として、人々を導いていく。

 過去を変える人も。

 過去を受け入れる人も。

 美月は、健太郎の教えを胸に刻んでいた。

 選択肢を与えること。

 それが、管理人の役目。

 扉が開いた。

 今夜、最初の依頼者が入ってきた。

「いらっしゃい」

 美月は、優しく言った。

「座りなさい」

 依頼者が座ると、美月は尋ねた。

「何を変えたい?」

 依頼者が答え始めた。

 美月は、静かに聞いた。

 そして、シミュレーションを見せた後、言った。

「あなたは、どうしたいですか?」

「過去を変えますか?それとも、受け入れますか?」

「どちらを選んでも、私は尊重します」

 依頼者は、長い間考えた。

 そして、答えた。

 美月は、その選択を受け入れた。

 過去を変えることを選んでも。

 過去を受け入れることを選んでも。

 どちらも、勇気ある選択だから。

 物語は、終わらない。

 過去改変局は、今も存在している。

 そして、これからも、存在し続ける。

 時間の狭間で。

 過去と現在と未来をつなぎながら。

 人々に選択肢を与え続ける。

【終幕】

 地下鉄の通路。

 薄暗い、静かな場所。

 その奥に、小さな扉がある。

 古びた真鍮のプレート。

「過去改変局」

 扉の前を、多くの人が通り過ぎる。

 しかし、ほとんどの人は気づかない。

 気づくのは、本当に必要な人だけ。

 過去に囚われ、苦しんでいる人だけ。

 そして、その人たちは、扉を開ける。

 中には、管理人が待っている。

 優しく迎え入れ、話を聞き、シミュレーションを見せてくれる。

 そして、問いかける。

「あなたは、どうしたいですか?」

 過去を変えるのも、一つの答え。

 過去を受け入れるのも、一つの答え。

 どちらを選んでも、いい。

 大切なのは、自分で選ぶこと。

 過去改変局は、選択肢を与えてくれる。

 そして、その選択を尊重してくれる。

 だから、今夜も。

 扉は、開いている。

 誰かを待っている。

 過去に悩む、あなたを。

 そして、あなたが選ぶ。

 過去を変えるか。

 過去を受け入れるか。

 どちらを選んでも。

 それは、あなたの物語。

【過去改変局 完】

物語はここで終わりを迎えましたが、過去改変局は今日も地下鉄の通路で、誰かの物語を紡いでいます。

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