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過去改変局  作者: 御影のたぬき


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第19話 三つの人生

前回のあらすじ

 管理人として1年間人々を導いてきた相良透は、心身ともに疲弊していた。そこに精神科医の芦田澪が現れ、相良を助けたいと申し出る。澪は継承者としての条件をすべて満たしており、継承の儀式が行われる。解放された相良は元の世界に戻り、新しい人生を始める。澪は三代目の管理人として、人々を導き始める。

【一年後——2028年春】

【健太郎の物語】

 美咲の町。

 桜が咲き始めた公園。

 健太郎は、一人、ベンチに座っていた。

 隣には、誰もいない。

 かつて美咲が座っていた場所。

 健太郎は、もうすぐ80歳になる。

 美咲を失ってから、2年が経った。

 この2年間、健太郎はボランティア活動を続けてきた。

 多くの人を助けた。

 美咲との約束を守り続けた。

 しかし、最近、体力の限界を感じ始めていた。

 年齢には、勝てない。

「美咲……」

 健太郎は、呟いた。

「もうすぐ、そっちに行くかもしれない」

 その時、背後から声がした。

「健太郎さん?」

 健太郎が振り返ると、見知った顔があった。

 相良透だった。

「相良さん!」

 健太郎は、驚いて立ち上がった。

「お久しぶりです」

 相良は、微笑んだ。

 二人は、ベンチに座った。

「どうして、ここに?」

 健太郎が尋ねた。

「あなたに会いに来ました」

 相良は、答えた。

「過去改変局を出てから、1年」

「ずっと、会いたいと思っていたんです」

「そうか……」

 健太郎は、嬉しそうだった。

「元気そうだな」

「はい。大学に戻って、また教えています」

 相良は、続けた。

「過去改変局での経験を活かして」

「心理学の新しい理論を構築しています」

「時間と記憶の関係について」

「素晴らしい」

 健太郎は、頷いた。

「健太郎さん、美咲さんのこと……」

 相良が、静かに言った。

「メッセージで、知りました」

「お悔やみ申し上げます」

 健太郎は、微笑んだ。

「ありがとう」

「美咲は、幸せだったと思う」

「最期まで、俺と一緒にいてくれた」

「健太郎さんも、幸せでしたか?」

「ああ」

 健太郎は、頷いた。

「短い時間だったけど」

「美咲と過ごせた」

「それだけで、十分だった」

 二人は、しばらく黙っていた。

 桜の花びらが、風に舞っている。

「相良さん、新しい管理人は?」

 健太郎が尋ねた。

「はい。芦田澪さんという方です」

 相良は、答えた。

「精神科医で、とても優秀な方です」

「きっと、良い管理人になると思います」

「そうか……」

 健太郎は、安堵した。

「過去改変局は、続いているんだな」

「はい」

「それは、良いことだ」

 健太郎は、空を見上げた。

「俺も、相良さんも、そして新しい管理人も」

「みんな、人を助けるために生きている」

「それが、俺たちの使命なんだな」

 相良は、深く頷いた。

「はい」

「健太郎さんから、学びました」

「人を助けることの意味を」

「そして、それを次の人に伝える大切さを」

【相良の物語】

 その夜。

 相良は、自分のアパートに戻った。

 机の上には、論文の原稿が積まれている。

 相良は、過去改変局での経験を学術的に分析していた。

 もちろん、過去改変局の存在そのものは秘密にしている。

 しかし、そこで得た洞察は、心理学の理論に活かせる。

 相良は、論文を読み返した。

 タイトルは、「時間的視点と心理的癒し——過去の再解釈がもたらす変容」。

 過去は変えられない。

 しかし、過去の意味は変えられる。

 それが、相良の理論の核心だった。

 過去改変局で、多くの人がシミュレーションを見た。

 そして、過去を変えないことを選んだ。

 なぜか?

 過去を変えても、必ずしも幸せになれるわけではないと気づいたから。

 そして、今の自分を受け入れることを選んだから。

 それは、過去の再解釈だ。

 過去の出来事そのものは変わらない。

 しかし、その意味が変わる。

「辛い経験も、自分を作る大切な要素だった」

「失敗から、学ぶことができた」

「後悔も、成長の糧になった」

 そう考えることで、人は救われる。

 相良は、論文を書きながら、思った。

 過去改変局は、タイムマシンではない。

 心のタイムマシンだ。

 過去に戻るのではなく。

 過去を見つめ直す。

 そして、新しい意味を見出す。

 それが、過去改変局の本質だ。

 相良は、窓の外を見た。

 夜空に、星が輝いている。

 どこかに、過去改変局がある。

 芦田澪が、今夜も人々を導いている。

 相良は、心の中で呟いた。

「澪さん、頑張ってください」

「あなたなら、きっとできる」

【澪の物語】

 過去改変局。

 芦田澪は、窓口に座っていた。

 管理人になってから、1年が経った。

 澪は、この1年で多くのことを学んだ。

 健太郎からのメッセージ。

 相良からのメッセージ。

 二人の先輩管理人が、澪を支えてくれた。

 澪は、孤独を感じることもあった。

 しかし、二人の存在が、澪を励ました。

 そして、澪は気づいた。

 管理人の役目は、孤独だが、孤立ではない。

 過去の管理人たちが、繋がっている。

 そして、未来の管理人にも、繋がっていく。

 それが、時間の管理人の連鎖だ。

 その時、扉が開いた。

 一人の若い女性が入ってきた。

「いらっしゃい」

 澪は、いつものように言った。

「座りなさい」

 女性が座ると、澪は尋ねた。

「何を変えたい?」

 女性は、涙を流しながら答えた。

「5年前……私が、妹を守れなかった日を……」

 澪は、優しく頷いた。

「話してください」

 女性は、語り始めた。

 妹が事故で亡くなったこと。

 自分がそばにいれば、防げたかもしれないこと。

 ずっと、自分を責めてきたこと。

 澪は、静かに聞いていた。

 そして、言った。

「シミュレーションを見ますか?」

「お願いします……」

 澪は、女性をリクライニングチェアに座らせた。

 機械を装着した。

 しかし、その時。

 澪は、ふと立ち止まった。

 この女性の苦しみ。

 深い、深い後悔。

 それを、本当にシミュレーションで解決できるのか?

 澪は、考えた。

 過去改変局の本質は、何か。

 過去を変えることではない。

 過去を見つめ直すことだ。

 ならば……。

 澪は、機械を止めた。

「すみません、少し待ってください」

 女性が、不安そうな顔をした。

「どうしたんですか?」

「あなたに、質問があります」

 澪は、女性を見つめた。

「あなたは、本当に過去を変えたいですか?」

「それとも……妹さんからの許しが欲しいだけですか?」

 女性は、はっとした。

「私は……」

「妹さんは、あなたを責めていないと思います」

 澪は、静かに言った。

「事故は、誰のせいでもありません」

「あなたが、そばにいても、防げなかったかもしれない」

「でも……」

「大切なのは、妹さんの死を無駄にしないことです」

 澪は、続けた。

「妹さんの分まで、生きることです」

「そして、妹さんを忘れないことです」

 女性は、涙を流した。

「でも、どうやって……」

「妹さんとの思い出を、大切にしてください」

 澪は、優しく言った。

「そして、妹さんが好きだったことを、続けてください」

「それが、妹さんへの最高の供養です」

 女性は、長い間泣き続けた。

 澪は、そっと手を握った。

 やがて、女性が落ち着いた。

「ありがとうございます……」

「過去を、変えません」

「妹のことを、忘れずに生きます」

「それがいい」

 澪は、微笑んだ。

 女性が去った後、澪は一人、窓口に座った。

 そして、気づいた。

 自分は、新しいアプローチを見つけたのかもしれない。

 シミュレーションを使わずに、人を導く方法。

 対話を通じて。

 共感を通じて。

 心に寄り添うことで。

 それも、一つの答えだ。

【三人の交錯】

 数日後。

 不思議なことが起きた。

 健太郎のもとに、一通の手紙が届いた。

 差出人は、相良透。

 相良のもとにも、一通の手紙が届いた。

 差出人は、芦田澪。

 澪のもとにも、メッセージが届いた。

 過去改変局のカウンターに、光となって。

 差出人は、健太郎。

 三人は、それぞれの手紙とメッセージを読んだ。

 そして、驚いた。

 内容が、同じだった。

「時間の管理人へ

 あなたたちは、過去改変局で人々を導いてきた。

 それぞれの時代で。

 それぞれの方法で。

 しかし、あなたたちは一人ではない。

 繋がっている。

 過去の管理人と。

 現在の管理人と。

 そして、未来の管理人と。

 この連鎖が、過去改変局の本質だ。

 一人では、何十年も続けられない。

 しかし、繋がることで、続けられる。

 これからも、人々を導いてください。

 それぞれの場所で。

 それぞれの方法で。

 そして、いつか。

 すべての物語が、完結する時が来る。

 それまで。

時間の番人より」

 三人は、それぞれの場所で、手紙とメッセージを読んだ。

 そして、理解した。

 自分たちは、繋がっている。

 時間を超えて。

 空間を超えて。

 健太郎は、過去の管理人。

 相良は、元管理人で、今は研究者。

 澪は、現在の管理人。

 三人とも、同じ使命を持っている。

 人を助けること。

 健太郎は、ボランティアで。

 相良は、研究と教育で。

 澪は、過去改変局で。

 それぞれの場所で、それぞれの方法で。

 しかし、目的は同じ。

 三人は、それぞれの場所で、微笑んだ。

 そして、心の中で、互いに語りかけた。

「ありがとう」

「一緒に、頑張ろう」

 健太郎は、ボランティアセンターで、今日も人の話を聞いている。

 相良は、大学で、学生たちに心理学を教えている。

 澪は、過去改変局で、依頼者を迎え入れている。

 三人の物語は、それぞれ続いている。

 しかし、繋がっている。

 そして、いつか。

 すべての物語が、一つに収束する時が来る。

 それが、次の物語。

 最終話。

 過去改変局。

 澪は、窓口に座りながら、考えていた。

 いつか、自分も次の継承者に役目を託す日が来る。

 それがいつかは、わからない。

 しかし、その時が来たら。

 自分も、健太郎や相良のように、新しい人生を始めるのだろう。

 澪は、窓の外を見た。

 いや、過去改変局には、窓はない。

 しかし、澪の心の目には、外の世界が見えた。

 健太郎がいる町。

 相良がいる大学。

 そして、これから出会う、次の継承者がいる場所。

「いつか、会えるかな」

 澪は、呟いた。

「三人で」

 その時、カウンターに光が現れた。

 メッセージが浮かび上がった。

「澪へ

 いつか、必ず会える。

 それまで、頑張ってください。

健太郎と相良より」

 澪は、涙を流しながら、微笑んだ。

「はい……頑張ります」

 扉が開いた。

 新しい依頼者が、入ってきた。

 物語は、続いていく。

次が最終話です。

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