表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過去改変局  作者: 御影のたぬき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/20

第17話 残された時間

前回のあらすじ

 新しい管理人となった相良透は、重大なミスを犯した橋本大輔を導く。シミュレーションで完璧を求めることの代償を知った橋本は、過去を変えず、ミスから学ぶことを選ぶ。相良は管理人としての孤独を感じるが、健太郎からのメッセージに励まされ、使命を果たす決意を新たにする。

 美咲の町。

 穏やかな秋の午後。

 健太郎と美咲は、いつものように公園のベンチに座っていた。

 二人とも、毛布を膝にかけている。

 年老いた体には、秋の風が冷たかった。

「今日は、いい天気ね」

 美咲が言った。

「ああ……」

 健太郎は、空を見上げた。

 青い空。白い雲。

 穏やかな時間。

 健太郎は、この数ヶ月、幸せだった。

 美咲と一緒にいられる。

 ボランティアで人を助けられる。

 それだけで、十分だった。

 しかし、最近、美咲の様子が少しおかしかった。

 時々、息切れをする。

 顔色も、優れない。

「美咲、体調は大丈夫か?」

 健太郎が尋ねた。

「ええ、大丈夫よ」

 美咲は、微笑んだ。

「ちょっと、疲れやすくなっただけ」

「病院に行った方がいいんじゃないか」

「大丈夫。年のせいよ」

 美咲は、健太郎の手を握った。

「心配しないで」

 健太郎は、不安だった。

 しかし、美咲がそう言うなら、信じるしかなかった。

 その夜、美咲は一人、自宅にいた。

 健太郎を送り出した後、ソファに座った。

 そして、深く息をついた。

 胸が、苦しい。

 最近、頻繁にこうなる。

 美咲は、引き出しから薬を取り出した。

 心臓の薬。

 医者から、処方されている。

 実は、美咲は数ヶ月前から心臓病を患っていた。

 医者は、言った。

「美咲さん、心臓が弱っています」

「年齢的なものもありますが、かなり進行しています」

「安静にして、薬を飲んでください」

「どれくらい……」

 美咲が尋ねた。

「どれくらい、生きられますか?」

 医者は、困った顔をした。

「わかりません」

「数ヶ月かもしれないし、数年かもしれない」

「ただ、無理はしないでください」

 美咲は、健太郎に言わなかった。

 言えなかった。

 せっかく再会できたのに。

 せっかく幸せな時間を過ごしているのに。

 健太郎を、心配させたくなかった。

 美咲は、薬を飲んだ。

 そして、窓の外を見た。

 健太郎の住むアパートが、見えた。

 明かりが、ついている。

 健太郎も、まだ起きているのだろう。

「健太郎……」

 美咲は、呟いた。

「ごめんなさい」

「まだ、言えない」

 数週間後。

 美咲の体調は、さらに悪化した。

 ある日、美咲は散歩中に倒れた。

 健太郎が、そばにいた。

「美咲!」

 健太郎は、慌てて駆け寄った。

「大丈夫か!?」

 美咲は、意識があった。

 しかし、顔色が悪い。

 呼吸も、荒い。

「救急車を……」

 健太郎は、急いで電話した。

 救急車が来た。

 美咲は、病院に運ばれた。

 健太郎も、一緒に行った。

 病院で、医者が説明した。

「美咲さんは、心臓病です」

「かなり進行しています」

「入院が必要です」

 健太郎は、愕然とした。

「心臓病……?」

「いつから……?」

 医者が答えた。

「数ヶ月前から、通院されていました」

「薬も、処方していました」

「そんな……」

 健太郎は、震えた。

「美咲、なぜ言わなかったんだ……」

 病室で、美咲は申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさい、健太郎」

「心配させたくなくて……」

 健太郎は、美咲の手を握った。

「馬鹿……」

「一緒にいるんだから、何でも話してくれ」

「ごめんなさい……」

 美咲は、涙を流した。

 美咲は、入院した。

 健太郎は、毎日病院に通った。

 美咲の娘、絵美も来た。

「お母さん、大丈夫?」

「ええ……大丈夫よ」

 美咲は、娘に微笑んだ。

 絵美は、健太郎に言った。

「健太郎さん、母を支えてくれて、ありがとうございます」

「いえ……」

「母、本当に幸せそうでした」

「あなたと一緒にいて」

 健太郎は、頷いた。

「俺も、幸せでした」

「これからも、美咲を支えます」

 絵美は、涙を流した。

「ありがとうございます……」

 数日後、医者が健太郎を呼んだ。

「健太郎さん、お話があります」

 診察室で、医者は深刻な顔をした。

「美咲さんの容態は、思ったより悪いです」

「治療はしていますが……」

「長くは、ないかもしれません」

 健太郎は、言葉を失った。

「どれくらい……」

「わかりません」

 医者は、首を横に振った。

「数週間かもしれないし、数ヶ月かもしれない」

「でも、覚悟はしておいてください」

 健太郎は、病室に戻った。

 美咲は、眠っていた。

 穏やかな顔。

 健太郎は、美咲の手を握った。

 冷たい手。

「美咲……」

 健太郎は、涙を流した。

「やっと会えたのに……」

「こんなに早く、別れることになるなんて……」

 健太郎は、自分の無力さを感じた。

 過去改変局の管理人として、何十年も過ごした。

 多くの人を助けた。

 しかし、最愛の人を、救えない。

「もし、過去改変局がまだあったら……」

 健太郎は、呟いた。

「美咲を、救えるだろうか……」

 しかし、健太郎はもう管理人ではない。

 過去改変局は、相良に託した。

 自分には、もう何もできない。

 ただ、美咲のそばにいることしか。

 その夜、健太郎は一人、アパートに戻った。

 しかし、眠れなかった。

 健太郎は、机の引き出しを開けた。

 そこには、美咲からの手紙があった。

 時間を超えて届いた、あの手紙。

 健太郎は、手紙を読んだ。

「あなたのことを、今でも愛しています」

 涙が、溢れた。

「美咲……俺も愛している」

「ずっと、ずっと……」

 健太郎は、考えた。

 もし、過去を変えられたら。

 もし、もう一度管理人になれたら。

 いや、それは違う。

 健太郎は、もう過去を変えるべきではない。

 それは、学んだはずだ。

 大切なのは、今を生きること。

 残された時間を、大切にすること。

 健太郎は、決意した。

 明日から、美咲のそばにずっといよう。

 仕事も、ボランティアも、すべて休もう。

 美咲との時間を、最優先にしよう。

 翌日から、健太郎は病院に泊まり込んだ。

 美咲のそばに、ずっといた。

 美咲が目を覚ますと、健太郎がいた。

 美咲が食事をする時も、健太郎が手伝った。

 美咲が眠る時も、健太郎が手を握っていた。

「健太郎、あなた、疲れない?」

 美咲が心配そうに尋ねた。

「大丈夫」

 健太郎は、微笑んだ。

「お前のそばにいたい」

「ずっと」

 美咲は、涙を流した。

「ありがとう……」

 二人は、たくさん話した。

 昔の思い出。

 若い頃のこと。

 図書館で出会った日のこと。

 一緒に過ごした時間のこと。

「あの頃は、若かったわね」

 美咲が笑った。

「ああ……俺たち、何でもできると思っていた」

「未来は、無限にあると思っていた」

「でも、今もあの頃と同じよ」

 美咲が、健太郎の手を握った。

「あなたと一緒にいると、若返った気がする」

 健太郎も、笑った。

「俺もだ」

 ある日、美咲が言った。

「健太郎、お願いがあるの」

「何だ?」

「私が……もし、いなくなったら」

「美咲……」

「聞いて」

 美咲は、真剣な目をした。

「私が、いなくなっても」

「あなたは、生きて」

「人を助け続けて」

「それが、あなたの使命だから」

 健太郎は、涙を流した。

「美咲……」

「約束して」

「……約束する」

 美咲は、微笑んだ。

「ありがとう」

 それから、数週間が過ぎた。

 美咲の容態は、日に日に悪化していった。

 ある夜、美咲の意識が朦朧としてきた。

 医者が言った。

「おそらく、今夜が……」

 健太郎は、美咲の手を握った。

 絵美も、そばにいた。

「美咲……」

 健太郎が呼びかけた。

 美咲が、うっすらと目を開けた。

「健太郎……」

「ここにいるよ」

「ありがとう……」

 美咲の声は、弱かった。

「55年……待った甲斐が、あったわ」

「あなたに、また会えて」

「一緒に、過ごせて」

「幸せだった……」

 健太郎は、涙を流した。

「俺も……幸せだった」

「お前と一緒にいられて」

 美咲は、微笑んだ。

「健太郎……愛してる」

「俺も……愛している」

 美咲の手が、力を失っていく。

 呼吸が、止まる。

 モニターの音が、一直線になった。

 美咲は、静かに旅立った。

 健太郎の手を握ったまま。

 葬式が終わった。

 多くの人が、弔問に来た。

 美咲は、愛されていた。

 健太郎は、美咲の墓の前に立った。

「美咲……」

「やっと会えたのに……」

「こんなに早く、別れることになるなんて……」

 健太郎は、泣いた。

 長い、長い別れ。

 そして、短い再会。

 そして、永遠の別れ。

「でも……後悔はしない」

 健太郎は、涙を拭いた。

「お前と過ごした時間は、幸せだった」

「それで、十分だ」

 健太郎は、美咲との約束を思い出した。

「生きて、人を助け続ける」

 それが、美咲の願いだった。

「わかった、美咲」

 健太郎は、空を見上げた。

「俺、生きるよ」

「お前の分まで」

「そして、人を助け続けるよ」

 風が吹いた。

 まるで、美咲が「ありがとう」と言っているかのように。

 過去改変局。

 相良透は、窓口に座っていた。

 その時、カウンターに光が現れた。

 メッセージが浮かび上がった。

「相良へ

 美咲が、亡くなった。

 辛い。

 しかし、後悔はしない。

 彼女と過ごした時間は、幸せだった。

 それで、十分だ。

 相良、あなたも頑張ってください。

 人を助け続けてください。

 それが、私たちの使命です。

健太郎」

 相良は、涙を流した。

「健太郎さん……」

 相良は、返事を書いた。

 カウンターに手を置くと、文字が浮かび上がった。

「健太郎さん

 お悔やみ申し上げます。

 美咲さんは、幸せだったと思います。

 あなたと過ごせて。

 私も、頑張ります。

 あなたから学んだことを、活かします。

 人を助け続けます。

 いつか、また会いましょう。

相良」

 メッセージが、光となって消えた。

 健太郎に、届いたのだろう。

 数ヶ月後。

 健太郎は、再びボランティアセンターで働いていた。

 美咲を失った悲しみは、消えない。

 しかし、美咲との約束を守るために、前を向いた。

 ある日、一人の若い女性が訪ねてきた。

「あの……相談したいことがあるんです」

「どうぞ」

 健太郎は、優しく迎え入れた。

「私、最近母を亡くしたんです……」

 女性は、泣き始めた。

 健太郎は、女性の話を聞いた。

 そして、自分の経験を語った。

「私も、最近大切な人を亡くしました」

「辛いですよね」

「でも、その人が残してくれたものは、消えません」

「思い出、言葉、愛」

「それを、大切にして生きていくんです」

 女性は、涙を拭いた。

「ありがとうございます……」

「少し、楽になりました」

 健太郎は、微笑んだ。

 美咲が、見守ってくれている気がした。

 これが、自分の使命。

 人を助けること。

 美咲の願いを、叶えること。

 健太郎は、これからも生き続ける。

 美咲の分まで。

 過去改変局。

 相良透は、今夜も窓口に座っている。

 扉が開いた。

 一人の中年男性が入ってきた。

「あの……過去を変えたいんです」

「座りなさい」

 相良は、いつものように迎え入れた。

 物語は、続いていく。

 健太郎の新しい人生と共に。

 相良の使命と共に。

 そして、いつか訪れる、完結の時に向けて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ