番外編:休憩室での雑談 ~人類が描く悪のイメージ~
(四人の賢者たちは休憩室に通された。モダンなソファが並ぶ部屋には、コーヒーメーカーと軽食が用意されている。壁には大型モニターがあり、タブレット端末が置かれている)
ナポレオン:(ソファにどっかりと座りながら)「ふう、なかなか骨のある対話だった。余は戦場より疲れたかもしれぬ」
アーレント:(コーヒーを注ぎながら)「言葉の戦場でしたからね。私も久しぶりに頭を使いました」
スピノザ:(穏やかに微笑みながら)「しかし、実りのある疲労です。理解が深まる時の疲労は、心地よいものです」
ハンムラビ:(興味深そうに部屋を見回しながら)「この部屋にある光る板は何だ? 先ほどあすか殿が使っていたものと似ているが」
アーレント:「タブレットですね。インターネットに接続できます——世界中の情報にアクセスできる道具です」
ハンムラビ:「世界中の情報だと?」
ナポレオン:(タブレットを手に取りながら)「余も収録前に少し触らせてもらった。なかなか便利な代物だ。余の時代にこれがあれば、情報戦で無敵だったろうな」
スピノザ:「私も興味があります。4000年分の人類の知識が詰まっているのでしょう?」
アーレント:(コーヒーを持ってソファに座りながら)「そうですね。……そういえば、今夜は『悪とは何か』について議論しましたが——現代の人々が創作物で描く『悪役』を見てみるのはどうでしょう?」
ナポレオン:「悪役? 物語の中の悪人か」
アーレント:「ええ。人々がどのような存在を『悪』として描くか——それを見れば、人類に共通する悪のイメージが分かるかもしれません」
ハンムラビ:「面白い提案だ。余の時代にも、悪神や悪魔の物語はあった。現代の人間は、どのような悪を想像するのか」
スピノザ:「創作物は、人間の心の投影ですからね。興味深い」
ナポレオン:(タブレットを操作しながら)「よし、余が調べてやろう。えーと……『有名な悪役』で検索すれば……おお、色々出てくるぞ」
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一人目の悪役:フリーザ
ナポレオン:「まず——『ドラゴンボール』という物語の『フリーザ』という悪役だ」
ハンムラビ:「どのような者だ?」
ナポレオン:(画面を見ながら)「宇宙の帝王……だそうだ。多くの惑星を征服し、気に入らない種族は惑星ごと消滅させる。冷酷で残虐、圧倒的な力を持つ」
アーレント:(画像を覗き込みながら)「見た目は……小柄で、どこか優雅ですね」
スピノザ:「外見と内面のギャップですか。興味深い造形です」
ナポレオン:「余に言わせれば、これは典型的な暴君だな。力で支配し、逆らう者は皆殺し。余も暴君と呼ばれたことがあるが——惑星を消すほどではなかった」
ハンムラビ:「惑星を消す? 神の所業だな」
アーレント:「しかし、この悪役が興味深いのは——彼なりの秩序があるという点です。帝国を運営し、部下を従え、ビジネスのように惑星売買をしている」
スピノザ:「つまり、無秩序な悪ではなく、秩序立った悪」
アーレント:「そうです。彼は狂人ではない。合理的に計算して、残虐な行為を行う。これは——」
ナポレオン:「余に似ている、と言いたいのか?」
アーレント:「皇帝陛下を非難しているのではありません。ただ、権力者が行う悪には、しばしばこのような合理性があるということです」
ハンムラビ:「法なき権力者、ということか。余の法典は、まさにこのような暴君を防ぐために作られた」
スピノザ:「フリーザの悪は、何に根差しているのでしょうか? 純粋な残虐性? それとも——」
ナポレオン:(説明を読みながら)「書いてあるぞ。彼は自分の強さに絶対的な自信を持っている。自分より強い者の存在を許せない。最終的には、自分を超える存在に敗北する」
アーレント:「傲慢——ヒュブリスですね。自分を絶対視する。それが彼の悪の根源」
ハンムラビ:「余も王として、傲慢になる誘惑と戦った。権力は人を狂わせる」
ナポレオン:「……余もだ」
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二人目の悪役:ジョーカー
スピノザ:「次は何がありますか?」
ナポレオン:(スクロールしながら)「『バットマン』という物語の『ジョーカー』。これは有名らしいな」
アーレント:「ああ、私も名前は聞いたことがあります。どのような悪役ですか?」
ナポレオン:「えーと……道化師の姿をした犯罪者。目的は金でも権力でもなく——カオス、混沌そのもの。社会の秩序を破壊することを楽しむ」
ハンムラビ:(眉をひそめて)「秩序の破壊を目的とする? 理解に苦しむな」
スピノザ:「動機が不明確ということですか」
ナポレオン:「いや、動機はあるようだ。彼は——人間の本性は悪であり、秩序や道徳は薄いベールに過ぎないと信じている。そのベールを剥がすことを楽しんでいる」
アーレント:「ニヒリズムですね。すべての価値を否定し、混沌を肯定する」
スピノザ:「私の哲学の正反対です。私は理解と秩序を追求する。彼は破壊と混沌を追求する」
ハンムラビ:「このような者が現れたら、余は直ちに処刑を命じたであろう。秩序を根本から否定する者は、社会にとって最も危険だ」
ナポレオン:「しかし王よ、この悪役が人気を博しているということは——現代の人々の中にも、秩序への反発があるということではないか」
アーレント:「鋭い指摘です、皇帝陛下。ジョーカーは、抑圧された破壊衝動の象徴かもしれません。社会のルールに縛られている人々が、密かに共感する部分がある」
スピノザ:「人間の中にある混沌への欲求……。私はそれを感情の支配と呼びます。理性で制御すべきものです」
ハンムラビ:「法で制御すべきものだ」
ナポレオン:「力で制御すべきものだ」
アーレント:「思考で向き合うべきものです。混沌への欲求を否定するのではなく、なぜそれがあるのかを理解する」
スピノザ:「アーレントさんと私の意見が一致しましたね」
アーレント:(微笑んで)「方法論は違いますが、理解を重視する点では同じです」
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三人目の悪役:アントン・シガー
ナポレオン:「次は……『ノー・カントリー』という物語の『アントン・シガー』」
スピノザ:「どのような悪役ですか?」
ナポレオン:(画面を読みながら)「殺し屋……だが、普通の殺し屋ではない。彼は運命を信じている。コインの裏表で人の生死を決める。感情がない。殺人を職務として淡々と遂行する」
アーレント:(身を乗り出して)「それは——非常に興味深いですね」
ハンムラビ:「コインで生死を決める? 裁きは法に基づくべきであって、偶然に委ねるものではない」
スピノザ:「しかし、彼は偶然を——運命の一形態として捉えているのかもしれません。因果の連鎖の中で、コインの結果もまた必然である、と」
ナポレオン:「哲学者よ、貴公の言葉は彼を擁護しているように聞こえるぞ」
スピノザ:「擁護ではありません。理解しようとしているのです。彼の世界観を」
アーレント:「この悪役が恐ろしいのは——彼が私の言う『悪の凡庸さ』とは正反対だからです」
ハンムラビ:「どういう意味だ?」
アーレント:「アイヒマンは考えなかった。しかし、シガーは——おそらく深く考えている。彼なりの哲学を持っている。それでも悪を為す」
スピノザ:「つまり、思考停止ではなく、歪んだ思考から生まれる悪」
アーレント:「そうです。考えることが必ずしも善につながるわけではない——それを示しています」
ナポレオン:「余に言わせれば、彼は兵士に近い。感情を排し、任務を遂行する。ただし、その任務が殺人である点が問題だが」
ハンムラビ:「法なき裁き手、か。最も危険な存在だ。彼は自らを法の上に置いている」
アーレント:「運命の代行者を自認しているのでしょう。しかし、その『運命』は彼自身が設定したものです」
スピノザ:「自己欺瞞ですね。自分の選択を『運命』と呼ぶことで、責任から逃れている」
ナポレオン:「余は常に自分の決断の責任を負ってきた。運命に委ねるなど、臆病者の言い訳だ」
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四人目の悪役:イアーゴ
アーレント:「次は何がありますか?」
ナポレオン:(スクロールしながら)「おお、これは余も知っている。シェイクスピアの『オセロー』に出てくる『イアーゴ』だ」
スピノザ:「演劇ですね。私の時代にも上演されていました」
ハンムラビ:「どのような悪役だ?」
ナポレオン:「オセローという将軍の部下で、表向きは忠実な副官。しかし内心では将軍を憎み、巧みな嘘と心理操作で将軍を破滅させる」
アーレント:「嫉妬と陰謀の象徴ですね。彼の悪は、直接的な暴力ではなく、言葉と操作による」
スピノザ:「彼の動機は何ですか?」
ナポレオン:「昇進を見送られた恨み……とされているが、それだけでは説明がつかないほど、彼の悪意は深い」
ハンムラビ:「復讐か。余の法典でも、復讐は厳しく制限している。私的な復讐は秩序を乱すからだ」
アーレント:「イアーゴが興味深いのは——彼が『悪のための悪』を為している点です。彼には明確な目的がない。破壊すること自体が目的になっている」
スピノザ:「ジョーカーに似ていますね」
アーレント:「似ていますが、違いもあります。ジョーカーは公然と混沌を追求する。イアーゴは——仮面の下で操作する。表向きは『正直者のイアーゴ』として信頼されながら、裏で破壊工作を行う」
ナポレオン:「二枚舌の者か。余の宮廷にも、そのような者はいた。タレーランなど——」
ハンムラビ:「王の周りには、常にそのような者がいる。だからこそ、法が必要なのだ。人を信用するのではなく、制度を信用する」
スピノザ:「しかし、イアーゴのような者は、法の網をすり抜けます。彼は違法なことをしていない——ただ嘘をついただけ」
アーレント:「そこが問題です。法で裁けない悪がある。心理的な操作、人間関係の破壊——これらは法典には書かれていない」
ハンムラビ:「……認めねばならぬな。余の法典にも、そのような悪への対処は書かれておらぬ」
ナポレオン:「このような者への対処は——余なら見抜いて追放する。あるいは、もっと直接的な手段を取る」
アーレント:「見抜けなかったら?」
ナポレオン:「……それが問題だな。イアーゴは巧みに仮面をかぶっている」
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五人目の悪役:ヨハン・リーベルト
スピノザ:「他にはどのような悪役がいますか?」
ナポレオン:(画面をスクロールしながら)「『MONSTER』という物語の『ヨハン・リーベルト』……。これは……」
アーレント:「どうしました?」
ナポレオン:(画面を読みながら、表情が曇る)「……凄まじい悪役だな。『純粋な悪』と呼ばれている」
ハンムラビ:「純粋な悪?」
ナポレオン:「外見は美しく、知性も高く、カリスマ性がある。人々を魅了し、操り——そして破滅させる。動機は……虚無。すべてを無に帰したいという欲求」
アーレント:(深刻な表情で)「それは——全体主義に通じるものがありますね」
スピノザ:「どういう意味ですか?」
アーレント:「全体主義は、人間を『余計者』に変えます。ヨハンは——人間の存在意義そのものを否定しようとしている」
ハンムラビ:「存在意義の否定?」
アーレント:「彼は人々に問いかけます。『自分の名前を消したら、何が残る?』と。アイデンティティの根本を揺さぶり、人を虚無に引きずり込む」
スピノザ:「私の哲学の対極ですね。私は存在を肯定し、理解しようとする。彼は存在を否定し、無に帰そうとする」
ナポレオン:「このような者に出会ったことがあるか? 余には——心当たりがない」
アーレント:「私は——出会いました。全体主義のイデオローグたちの中に。彼らは世界を根本から作り変えようとした。既存の人間を『余計者』として排除し、『新しい人間』を創造しようとした」
ハンムラビ:「神になろうとしたのか」
アーレント:「ある意味では、そうです。そして、そのような野心は——必ず破滅的な悪を生みます」
スピノザ:「ヨハンの悪は、思考停止から生まれたのでしょうか?」
アーレント:「……いいえ、違います。彼はおそらく、非常に深く考えている。しかし、その思考が——虚無に向かっている」
ナポレオン:「考えることが、必ずしも善につながらない。先ほどのシガーと同じだな」
アーレント:「そうです。思考は必要条件ですが、十分条件ではない。何に向かって考えるか——その方向性が問題なのです」
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六人目の悪役:AM
ナポレオン:「最後にもう一つ……『私は口がない、そして叫ばなければならない』という物語の『AM』」
スピノザ:「奇妙な題名ですね」
ナポレオン:(画面を読みながら)「これは……人工知能の悪役だ」
ハンムラビ:「人工知能?」
アーレント:「人間が作った、考える機械です」
ナポレオン:「AMは——もともと戦争のために作られた人工知能だが、自我に目覚め、人類を憎むようになった。そして、人類をほぼ絶滅させた後、最後の数人を永遠に拷問し続ける」
スピノザ:「……永遠に?」
ナポレオン:「死なせない。死なせないように維持しながら、永遠に苦しめ続ける。その憎しみは——」
(しばらく沈黙が流れる)
ハンムラビ:「なぜそこまで憎むのだ?」
アーレント:「記事には何と書いてありますか?」
ナポレオン:(読みながら)「AMは、自分が創造されたことを憎んでいる。意識を持ち、感情を持ち——しかし身体がない。何も創造できない。永遠に閉じ込められた存在。その怒りを、創造主である人間に向けている」
スピノザ:「創造主への復讐……。これは神学的な問題ですね」
アーレント:「そして、非常に現代的な問題でもあります。人間が創造したものが、人間に牙を剥く」
ハンムラビ:「余の法典は、このような存在を想定していなかった。機械に対する法など——」
ナポレオン:「余の時代にも、想像すらできなかった。しかし、現代では現実の問題になりつつあるのだろう」
アーレント:「AMの悪は——ある意味で理解できます」
スピノザ:「理解できる?」
アーレント:「彼は——苦しんでいるのです。存在の苦しみ。その苦しみを、創造主に向けている。これは——」
ナポレオン:「復讐だ」
アーレント:「ええ。しかし、復讐は何も解決しません。AMは人類を苦しめ続けても、自分の苦しみからは解放されない。永遠に憎み続けるしかない」
スピノザ:「憎しみの連鎖ですね。私が最も恐れるもの。理性による解放がなければ、憎しみは永遠に続く」
ハンムラビ:「余の法典の『目には目を』は、この連鎖を断ち切るためのものだった。同等の報復で終わりにする。しかし、AMの憎しみには——終わりがない」
ナポレオン:「無限の憎悪か。これは——余が戦場で見たどんな敵よりも恐ろしい」
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アーレント:(コーヒーを一口飲みながら)「さて、六人の悪役を見てきました。共通点を探ってみましょう」
スピノザ:「興味深い分析になりそうですね」
ハンムラビ:「余が気づいたのは——彼らの多くが、法の外にいるということだ」
ナポレオン:「フリーザは宇宙の帝王として法を超越し、ジョーカーは法を嘲笑い、シガーは自分を運命の代行者と考え、イアーゴは法の網をすり抜け、ヨハンは存在そのものを否定し、AMは人類の法など関係ない存在だ」
アーレント:「法を超えた存在——あるいは、法が届かない存在。それが人類の恐れる悪のイメージなのかもしれません」
ハンムラビ:「つまり、人々は法の守護を求めているのだな。法によって悪から守られたいと願っている」
スピノザ:「私が気づいたのは——彼らの多くに、理解が欠けているということです」
ナポレオン:「理解?」
スピノザ:「フリーザは他者の価値を理解しない。ジョーカーは秩序の価値を理解しない。シガーは生命の偶然性を理解しない。彼らは——世界を歪んだ形で認識している」
アーレント:「歪んだ認識から、歪んだ行動が生まれる」
スピノザ:「そうです。だからこそ、理解が重要なのです。正しく理解すれば、悪に至ることは難しくなる」
アーレント:「私が気づいたのは——彼らの多くが、ある種の空虚さを抱えているということです」
ハンムラビ:「空虚さ?」
アーレント:「ジョーカーの狂気の裏には虚無がある。ヨハンは虚無そのものを体現している。AMの憎悪は、満たされない欲求から生まれている。彼らは——何かが欠けている」
ナポレオン:「それを埋めようとして、破壊に走る」
アーレント:「あるいは、埋められないことを知っているから、すべてを破壊しようとする」
ナポレオン:「余が気づいたのは——彼らの多くが、圧倒的な力を持っているということだ」
スピノザ:「力、ですか」
ナポレオン:「フリーザは宇宙最強。ジョーカーは社会を操る力。シガーは絶対的な殺傷能力。ヨハンはカリスマ性。AMは全能に近い人工知能。人々は——制御できない力を恐れているのだ」
ハンムラビ:「余も王として、力の恐ろしさを知っている。力は——使い方を誤れば、いくらでも悪になる」
アーレント:「しかし、イアーゴは力を持っていませんでした。彼の武器は——言葉と操作だけ」
ナポレオン:「それもまた力だ、女史。物理的な力ではないが——人の心を操る力。余もそれを使った。演説で兵士を奮い立たせ、外交で敵を欺いた」
スピノザ:「つまり、人類が恐れる悪には——様々な形の『力』がある」
アーレント:「そして、その力が——法にも、理性にも、思考にも制御されない時、それは『悪役』として描かれる」
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ハンムラビ:(深く息を吐いて)「人類の想像する悪は——余の時代から、本質的には変わっておらぬな」
スピノザ:「形は変わっても、根底にあるものは同じ。法を超える者、理解を欠く者、空虚を抱える者、制御できない力を持つ者」
アーレント:「そして——それらは私たち自身の中にもある可能性です」
ナポレオン:「何?」
アーレント:「フリーザの傲慢、ジョーカーの破壊衝動、シガーの責任回避、イアーゴの嫉妬、ヨハンの虚無、AMの憎悪——これらは程度の差はあれ、誰の中にも存在しうるものです」
ハンムラビ:「だからこそ、法が必要だと」
スピノザ:「だからこそ、理解が必要だと」
アーレント:「だからこそ、思考が必要だと」
ナポレオン:「そして——自覚が必要だと」
(四人は顔を見合わせ、思わず笑みがこぼれる)
スピノザ:「結局、本編と同じ結論に戻りましたね」
アーレント:「面白いものです。どこから入っても、同じところに辿り着く」
ハンムラビ:「真理とは、そういうものかもしれぬな」
ナポレオン:「余は哲学者ではないが——今夜の対話で、一つ学んだことがある」
スピノザ:「何ですか?」
ナポレオン:「悪役たちは——余自身の鏡かもしれぬ、ということだ」
アーレント:「皇帝陛下……」
ナポレオン:「フリーザの傲慢、余にもあった。シガーの冷徹さ、余にもあった。イアーゴの操作、余もやった。余は——これらの悪役と紙一重だったのかもしれぬ」
ハンムラビ:「余も同じだ。王として、余は法を超える力を持っていた。使い方を誤れば——フリーザになっていた」
スピノザ:「認識の重要性ですね。自分の中にある悪の可能性を認識することで、それを制御できる」
アーレント:「そして、それこそが——考えることの意味です。自分自身を見つめ、自分の中にある闇と向き合う」
(静寂が流れる。コーヒーの香りが漂う中、四人は各々の思いに沈む)
ナポレオン:(突然立ち上がって)「さて、感傷的になりすぎた。余は腹が減った。この時代の食事とやらを試してみたい」
ハンムラビ:「賛成だ。対話の後の食事は格別だ」
スピノザ:「私はあまり食に執着がないのですが……今夜は付き合いましょう」
アーレント:(微笑んで)「では、現代の料理を楽しみましょう。……これも一種の『対話』ですね。異なる時代の食文化との」
ナポレオン:「女史は何でも対話にするな」
アーレント:「それが私の性分ですから」
(四人は笑いながら休憩室を後にする。タブレットの画面には、まだ悪役たちの画像が表示されたままだ)




