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第二幕:ロンドン塔にて盲人はまばたく

やあ、君。

語り部ファウストだ。


第一幕で、ボクらは悪魔ルシフェルに“救われる”という奇妙なかたちで地下世界を脱した。

だが、救いは常に支配と引き換えだ。


今回の旅は、1660年のロンドン。

テームズの霧が塔を包み、

そこに閉じ込められた盲人の詩人――ジョン・ミルトンに、ボクらは出会う。


彼の絶望の中に、

悪魔たちは「新たな神話の種」を見出していた。

だが、ファウストが彼に語る言葉は、救いの言葉ではない。


“創造の光”は、“堕落の火”と同じものだと、

彼に教えるための言葉だった。


やあ、君。

ボクらはちょっと変わった場所にいる。歴史の中に隠された幻覚の中。


第一幕では、悪魔の首領ルシフェルによって、ファウストは彼のために役立たなければなかった。

地下からの脱出の件と、

彼の面目を強烈な知性ビンタで台無しにしたからだ。

だから、彼はファウストにある命令をした。

お願いじゃない。


命令だ。


今はボクらは、ロンドン塔の中にいる。1660年頃のイギリスに。

あの荘厳なる牢獄へ。

石の壁が天を刺す塔、

テームズの霧が絡みつく。


これから悪魔の存亡の鍵を握る詩人ジョン・ミルトンに会うためだ。


彼がいる部屋は城壁沿い近くにある。

ロンドン塔を通り過ぎる商人たちが

その部屋の窓を指差し、

王政をバカにした愚か者がいると、

彼を指を刺させるため。


部屋の中には、

湿気で腐った臭いが染みついた藁の薄い敷物が、石畳の上に敷かれてた。

ミルトンはその上で、

静かに泣いていたよ。


ファウストは外の通路の鉄格子から彼を、ミルトンを見つめていた。

陽の光が窓から、

部屋を照らす。

ミルトンは、赤みがかった髪を短く刈り上げていた。中くらいの身長、青白い頰はやつれている。ふるえては、泣いていた。


この絶望に心折れた男に、どう物語を作らせるか考えていた。

心折れた人間に、

心壊れた自分に何ができるのだろうかと。



考えた末に、ファウストは彼に話しかけた。

「ジョン・ミルトン。」と。


泣き声が止み、彼の見えない視線は、

ファウストを貫き、ボクらを見た。

彼の開かれた目は白く濁ってた。

その奥から、彼の知性と傲慢さがのぞいている。

きっと彼は救い出されると思ってた。

革命の言葉である彼は、人を動かすのに慣れていたから。


だが次の言葉が、

彼の希望を打ち砕く。


「ボクは過去から来て未来を旅する者だ。詩人であり、永遠の旅人である」

唄うようなセリフは、ミルトンを不安がらせた。

「なんのようだ。旅人に用はない。うせろ!」とか細く怒鳴った。

まるで、女の子のヒステリックな怒り方だ。周りのバカな男の子たちを叱りつけるみたいだ。



「悪魔ルシフェルは、君を欲しがっている」とミルトンの怒りを無視して、ファウストは続ける。

「彼はボクに言葉を預けた。

人間の法は、芸術家をさげずむことしかできない。だが、悪魔の法は、ジョン。君を歓迎する」と言った。

心の中で悪魔の法なんて、ファウストは嘲る。革命後の法律のようなものだ。

「悪魔?ルシフェル? 君はいったい、誰なんだ?」


ファウストは一歩後ろに下がる。

「ジョン。

ボクはファウスト。

ヨハン・ゲオルク・ファウストだよ。

親しいものからは、ドクトル・ファウストまたはファウスト博士と呼ばれてる。

君には、ぜひ、ボクをファウストと呼んでくれないか?


ボクの言いたいこと、わかる?」


ミルトンは顔を強張らせた。

「ファウスト...博士?なんの冗談だ..またヤツらのからかいなのか...」と震えながら、彼は下唇を噛んだ。


(こうして、第二幕は幕を閉じる。盲人がまばたきするように)

この第二幕は、

“盲人がまばたく”瞬間の物語です。


光を失った詩人が、

闇の中で初めて“詩の真の輝き”を見てしまう――

それが、ルシフェルの望んだ「情熱の盲目」。


ファウストの役割は、ミルトンを導くことではなく、

ミルトンの中に悪魔的創造を芽生えさせることだったのかもしれません。


この幕で、神の秩序と悪魔の法の違いがはっきりと現れました。

救いの代わりに、創造がある。

そして創造の代わりに、破滅がある。


――でも、君はどう思う?

盲人ミルトンが見た“光”は、本当に闇だったのだろうか?

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