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8)真相

本日、一話目の投稿です。




 カイトとキリアンの実家にはジャニスの情報を知らせることにした。カイトの父は騎士団長で、キリアンの父は魔導師隊隊長。どちらも我が国の最強戦力だ。

 だから気遣った。自国の最大戦力と仲違いしたい王族などいない。

 ジャニスは本当に余計なことをしてくれた。ルーファスは苛立たしさで頭に血が上りそうだった。

 ジャニスが王妃に気に入られた出来事、つまり庭師の見習いたちの手袋の件や、ルーファスが「ジャニスを愛妾にしようとしている」と言う不愉快な噂について伝えた。ジャニスはルーファスに近づけないように王宮では判断されていたことを理解してもらった。その上で、生徒会室の件やキリアンとカイトがジャニスに操られていることを知らせると、予想通り両家の当主は怒りをあらわにした。

 あまり怒らないでくれ、と国王は二人の当主に頼んだ。

「王妃がジャニスを気に入っていたために起こったことだろう。生徒会の件はいささか残念だったが。ただそれだけだ」

「愚息が申し訳ない」

「言葉もありません」

 と恐縮する二人の当主に国王は首を振って応えた。

「まだ未来ある若者だ。愚息だなどと私は思っていない。だが、とりあえず、ルーファスの側近には年上で護衛も兼ねた者をつけることにした。二人の子息のことはどうか慎重に対応を頼む。こちらにも手落ちはあったのだ」

 国王は穏やかにそう言い、ルーファスも二人の当主に謝罪をした。

「二人は真摯に懸命に側近の務めを果たしてくれていた。私が未熟なためにこんな結果となった」

 本音ではジャニスの醜悪さのせいだという想いがちらついたが、どんな状況であっても乗り越える能力が欲しかった。理想はそうだ。だが、自分はそうではなかった。

 二人の当主は傷ましげにルーファスを見ていた。

 側近候補の件はようやく済んだ。

 キリアンとカイトだけに泥を被せずに終えた。それも当然かと思う。王妃がジャニスを気に入っていたという事実は知られているのだから。

 当主二人にはキリアンとカイトが「性質に問題のある女」から離れることを約束してもらった。


□□□


 デルヴァス王国は他国からみると季節がはっきりしないという。冬の寒さと夏の暑さがそれほど厳しくないからだろう。ここで生まれ育った者にとっては、雨期もあり風がやたら吹く時期もあり季節ははっきりとしていた。

 入学の時期は年の初めの真冬と決まっているが今は早、秋の初めの季節となった。

 側近が変わってのち三か月ほどが過ぎた。

 ルーファスの婚約者問題は宙に浮いたままだった。


 ルーファスはシンシアが騎士科に通っていたことを知ってから自分から歩み寄ることを諦め始めていた。ルーファスは避けられていた。ルーファスが、というより、王家が避けられているのかもしれないが。

 国王と宰相は二人の婚約のことは話しているというが、ルーファスからすると「放っておいている」としか見えない。

 招待状の謎がわかるまではシンシアは王宮には来ない。それに関しては当然だとは思う。

 王妃の心が壊れてしまったためにうやむやになり、王妃は病気療養中だ。すぐにも持ち直すと思っていたのに、あれきり母は実家で暮らしている。

 王妃の実家ウォルト侯爵家には国王が護衛を派遣し、王妃には親族以外に近寄らせないようにしてある。実家の方にも「事件」の詳細は伝えてある。当主である母の兄は、このたびのことは王妃にその原因があったことを詫び、王妃の保護を約束した。

 それが二年近くも前のことだ。まさか彼もそれきり王妃が伏せったままになるとは思わなかっただろう。ルーファスも国王も予想だにしなかった。

 ルーファスは一度、母の見舞いに行き、変わってしまった母の姿に驚いた。母は窶れているのに目元はむくみ、化粧で誤魔化していても肌が衰え老けているのがわかった。

 言葉もどこか不自由になっていた。上手く喋れないのだ。母は王妃に復帰するのは無理だとわかった。

 シンシアとの婚約からは四年近くが過ぎていた。

 招待状紛失事件によって疎遠となっていた二年間、事件が発覚し調査が始まったがうやむやとなったまま一年。そのまま学園に入学しもう後期に入った。


 ルーファスは王宮に戻ると国王に呼ばれた。

「妃から手紙が届いた。読むといい」

 幾枚かの手紙を渡された。内容は王妃の懺悔だった。

「シンシアの我が儘でルーファスとの婚約が決まった」という噂の話から始まっていた。

 噂の件は、セリーナ・アルド夫人と王妃が裏にいた。シンシアを貶めることでジャニスを慰めるためだった。

 母はジャニスを、婚約者を決めるためのの茶会に呼べなかったことをずっと気にしていた。おかげでジャニスたち母子に弱みがあった。セリーナはそれにつけ込んで母に色々と「忠告」をした。

 セリーナは見た目はほんわかとした優しげな夫人だった。セリーナの側にいると「まるで神官に懺悔しているようにあれこれと話してしまいます」と侍女が言っていたことをルーファスは思い出した。

 母は王妃としての機密を話したりはしていないが、それ以外の私生活のことはずいぶん喋ってしまったらしい。そもそも公務などほとんどしない王妃が機密を知っているかは疑問だが。

「シンシアの王子妃教育は教師を派遣してレヴァンス侯爵家で受けさせれば良い」という件もセリーナが考えたことだった。シンシアを王宮に入れないためだ。

 そのことを王妃は死ぬまで誰にも話さないつもりだった。

 王妃はセリーナ夫人に依存していた。王妃としての務めから溜め込んだ悩みや鬱憤を、彼女に労られながら聞いて貰うことで癒やされていた。セリーナを信頼もしていた。

 けれど、王妃の招待状がレヴァンス侯爵家に送られるのを「すべて阻止できた」のはセリーナしかいないと王妃は手紙に綴った。

「もしも他の貴族夫人が犯人なら二人以上で共謀しても無理です。侍女の協力がないと」と手紙に暴露されている。

 侍女たちは二重の真偽判定で無実がわかっている。そのため、犯人は非常に狭まれることは元よりわかっていた。

 王妃の失態を隠すためにあの捜査は極秘に行われた。

 ルーファスはずっと「隠す必要はあるのか」と思い続けていたが、王家と王室管理室の決定に口など挟めない。

 貴族を調べるには王宮のしかるべき部署に通さなければならない。セリーナ夫人は子爵夫人で貴族だ。王妃が長年親しくしていたためにそれなりの人脈も持っている。

 王妃には、セリーナ夫人以外にも相談役の貴族夫人はいた。その中の誰が関わっているのか、関わっていないのか。充分に調べることができなかった。

 宰相を恨んだ者の犯行とも考えられた。宰相は切れ者で処分が必要なら貴族にも容赦がない。処罰された貴族から恨みをかっていた。ルーファスとシンシアの婚約を邪魔しようとする者がいても不思議はない。誰かが複数で共謀したとも考えられた。

 招待状の盗難は始まって少なくとも二年間は続き、さらに事件の発覚から一年半が経っていた。

 今更になって真相を知った。セリーナが犯人だ。王妃が暴露しただけの状況証拠があればセリーナの単独犯で間違いない。

 もっと早くわかっていれば良かったのに、シンシアは本当になにも悪くなかった。それどころか王妃たちの流した噂で傷付けられた被害者だった。

 それなのに、ルーファスは自分から歩み寄ることさえできないでいた。

 父に止められ、会いに行くこともできずにいたが、なんとかやりようはあっただろう。あのときの自分には思い付かなかったが、少なくとも学園に通い始めたあとなら機会はあった。

 自分も無能だったが、あの側近二人は役立たずだった。もしもまともな側近がいたらルーファスは情報を仕入れられていただろう。

 あの二人を選んだのは父なんだけどな、とどうしても恨めしく思う。人のせいにするのも情けないが、ルーファスは選んでいない。あの二人で良いか否かも聞かれず、元から決まっていた。

 側近でなくとも、侍従や侍女が情報をくれたりはするが、ルーファスがなにも働きかけないで婚約者の情報が入ってくるものでもない。なにしろ、ルーファスは、婚約者とは疎遠だったのだから。

 親しくしてもいない婚約者の話題など、侍従たちから進んで持ってくるわけがない。

 なにもかも後手後手だったわけだ。

「それにしても」とルーファスは思う。すべての発端は王妃だというのに、王が余所事みたいにしているのはどうなんだろう。

 ふっと浮かんだその考えに、ルーファスは心が冷めたような気がした。


 ルーファスの婚約問題はずっとそのままだった。

 新たな婚約者を、という話がなかったわけではない。

 けれど、ルーファスはシンシアという婚約者がいながら、愛妾にする予定のジャニスと付き合っているという噂が深く広く根付いている。シンシアは「王家がお飾り用に据えた」と見做されている。

 状況的にはまさしく噂通りのことをやっていた。おかげでそれが真実だと誰もが信じている。宰相家のご令嬢がお飾りされるのだ。生半可な貴族家の令嬢ではもっと冷遇されることは明らかだ。そんな王子に娘を差し出す貴族家は社交界の笑いものだろう。

 ルーファスはもう十六歳だ。同じ年頃の高位貴族の令嬢は、ほぼ婚約者が決まっている。良家の令嬢で売れ残っているのは訳ありばかりだ。

 王家の方からシンシアとの婚約を解消しようとは言えなかった。王家に問題があってここまで拗れたのだから王家の有責になる。レヴァンス侯爵家は宰相家だ。ごまかされる家ではない。

 レヴァンス家側からはいつだって王家の失態で婚約を取りやめ、シンシアを無傷で解放するように求められるだろう。レヴァンス侯爵家の要求を押さえ込んだとしても、これだけルーファスの悪評が立った中での解消だ。どう考えても王家が不利だ。

 むしろ、なぜ宰相はじっと様子見をしているのだろう。

 父はセリーナをどうするだろうかと、ふと思った。あの女のためにこんなことになった。どう償わせるのだろう。

 ジャニスとセリーナは王妃が病気療養に入ってからは王宮への出入りを許していない。王妃がいないのだから来る必要はない。

 ジャニスはそれでもルーファスに会おうと色々と画策したようだが王宮は彼女を決して入れなかった。事件の疑惑がある夫人の娘など入れるわけがない。

 どちらにしろ、ルーファスは自分の婚約問題を自分で解決しなければならない。なんとしても、これから挽回したかった。




ありがとうございました。今日は、夕方20時にもUPする予定です。よろしくお願いします。

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王家最悪ですね シンシアがハッピーエンドになります様に でも読まずにはいられない
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