表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/25

24)番外編、レヴァンス侯爵家の私兵採用試験

アイリス異世界ファンタジー大賞で銀賞をいただきました。

ありがとうございました。







 キャリーは王都の端の小さい町で生まれた。

 可愛らしい女の子だった。

 まさか、年頃になるとお胸のお肉がこんなに成長するとは思ってもみなかった。


 キャリーの理想をいえば、同級生のシンシアくらいのお胸が丁度良いと思う。それに、シンシアはとても美人だ。羨ましい。

 そのうえ、結婚相手は美麗な王子様。

 駄目だ、つい人を羨んでしまう。

 自分が今、不幸な状況だと、余計にそうなる。

 早く就職先を見つけなければならない。

 心が病みそうだ。


 キャリーの生まれた町は王都の外れにあり、王都の中にかろうじて入っているけれどかなり不便なところだった。

 王都の中央からここまで離れると、もはや田舎だ。森もそばにあるし、獣もいる。危険な魔獣はほとんどいないが「子供は行くな」と言われるくらいには危ない森だった。

 それでも、逞しい町民たちは森の際くらいまではみんな平気で行く。

 キャリーもそうだった。森の近くで薬草や野苺や山菜を摘んだ。

 少し大きくなると、小さい魔獣を友だちと一緒に屠った。十二歳を超えれば、あまり大人もうるさく言わなくなる。

 女の子はこういう遊びはあまりしないが、キャリーはたまたま同い年くらいの子に女子が少なくて、気の合う子もいなかったので友だちはみんな乱暴な男子だった。その友だちや兄たちと一緒に棒を振り回した。

 キャリーはけっこう強いほうだった。近くの森はタヌキっぽい魔獣がいたので、仲間たちと戦った。

 討伐に成功すると、家に持ち帰り解体して肉を分けた。討伐に成功した日は肉たっぷりのシチューが食べられた。

 キャリーが狩人か騎士になりたいと思うのは自然なことだった。

 キャリーが年頃になると両親は反対するようになったが、それならキャリーをお淑やかに育てれば良かったのだ。

 今さら反対するなんて、納得できるわけがない。

 祖父に泣きついて、王立学園の騎士科に入学させてもらった。

 祖父だけが理解者だった。

 長生きして欲しかった。

 祖父がいれば、キャリーが騎士になることを後押ししてくれただろう。


 最終学年の学生たちは就職活動で忙しかった。

 みんなは卒業前から熱心に活動していた。キャリーもこっそりと働き口を探していた。

 でも、決まらなかった。

 キャリーはもう実家の反対は無視することにした。

 親の言いつけを無視するなんて田舎の町ではあり得ないことだった。でもキャリーは学園で友人たちと知り合い、実家の言うなりにならない生き方を知ってしまった。

 貴族令嬢のように政略結婚を強いられるわけでもないが、両親は「婚家で夫を支えるのが女の幸せだ」「まっとうな男と結婚して子供を産め」などとクソみたいなことを言う。そんなものはキャリーの幸せではない、好きだったら駄目男だっていいじゃないか。親たちの前では黙っているが、胸の内ではそう何度も答えてやった。

 本音では、優しく真面目で強い男が良かったとしても、親に押しつけられると反抗心が湧き上がり「まっとうな男」だけは選ぶまいと思ってしまう。そこら辺は複雑な女心だ。

 親たちは、キャリーの胸をちらちら見てくるような「まっとうな男」を薦めてくるのだからなおさらだ。


 就職が決まらないまま卒業し、やさぐれ始めたころ、レヴァンス侯爵家で私兵の募集があると知った。

 情報を求めて学園の事務を訪ねていくと張り出してあった。レヴァンス侯爵領の森には魔獣が出るので、その討伐任務を行う私兵の隊があるという。盗賊対策のためでもあるが、魔獣も狩れる者、と条件にある。

 レヴァンス侯爵家はシンシアの実家だ。つまり宰相家。名家の中の名家。給料も良い。採用されたらちゃんと一人暮らしできる。

「でもなぁ」

 キャリーはアレンに言い寄ったことで、学園の一部では悪評が立ってしまっている。

 シンシアとアレンがどんな関係だったのか、キャリーは本当のところは知らない。二人の仲は良かった。でも、シンシアの婚約者は第二王子だったはずだ。

「宰相閣下のお屋敷で私の話題なんて出るわけないか」

 シンシアとは挨拶くらいはする同級生だった。女子の皆と喋っているときはシンシアとの付き合いもあった。とはいえ、間に他の女子たちがいる付き合いだ。

 お互いにくっついている仲間が違ったので、彼女と二人での会話はなかった。

 それでも、シンシアのことは女子たちとの会話の中であれこれと知ってるし、シンシアも少しはキャリーの情報を知っていると思う。その程度のお付き合いだ。

「きっと、私のことなんか印象に残ってないよ、ね」

 いや、残ってるか。

 もしもアレンとシンシアがキャリーの知らないところで付き合っていたら、アレンとの仲を駄目にしたのはキャリーだろう。

「まさか」

 キャリーは慌てて自分の妄想に首を振る。

 キャリーが見たところ、シンシアは生真面目そうだった。そんな淑女のシンシアが婚約者に隠れて浮気などするはずがない。

 それに、シンシアとルーファス王子が結婚したことは大きな話題になった。当然キャリーも知っている。

 悩みに悩んだが、貴重な好条件の就職先だ。

 キャリーは駄目元でレヴァンス侯爵家に履歴書を出してみた。

 すると、書類選考は通った。

 次は面接だ。

 緊張で胃が引き連れそうだった。

 キャリーは学園卒業後、友人のアナのところに居候させてもらっていた。祖父から遺された少々の遺産と、アナに紹介してもらった薬師の店で雑用をして生活費を稼ぎなんとか暮らしているが、友人に頼らないと暮らせない今の生活から早く脱したい。


 面接会場はレヴァンス侯爵家の領地になる。一泊二日がかりの採用試験だ。王都のレヴァンス家の屋敷まで行けば馬車で送迎してくれるという。

 貧しいキャリーは乗り合い馬車代もきついので助かる。

 早朝に集合場所のレヴァンス家に到着すると大きめの馬車が待っていた。面接を受ける他の就職希望者たちと乗り込みレヴァンス領に向かう。

 道中の休憩では昼食が振る舞われた。木の実が混じったパンに肉の香味焼きが挟んである。

 美味しかった。肉が柔らかくて味も良く、香味も風味があって夢中で食べてしまった。この昼食だけでも来て良かった。

 昼過ぎくらいには目的地に到着した。

 レヴァンス領は豊かそうな領地だった。

 領都の町は賑わっていた。王都にあったキャリーの実家の町より豊かな気がする。町の通りも綺麗だし、店も多いのだ。

「さすが、宰相家の領地」

 レヴァンス侯爵家の私兵となったら、王都の屋敷の警護任務もあるが、だいたいこちらの領地が勤務地になる。こんなに豊かな町だったらここでいいな、と思う。休みに買い物をするにも困らなそうだ。わざわざ王都に出る必要もないだろう。

 それに、キャリーは田舎育ち、森育ちだ。森で狩りをするのは、肉を求めてということもあるが、楽しかったからだ。ここでなら、昔みたいに森で美味い肉を狩ることができる。

「どこに住むことになるのかな」

 気の早いキャリーは住まいのことを夢想し始めた。

 学生寮にいたころは余裕がなかったので殺風景な部屋で暮らし、一番安い定食しか食べたことはなかった。

 給料をもらったら、やってみたいことがあった。

 騎士の娘である同級生が言っていた。

「父の部屋の壁に格好良く剣が飾ってあったの。騎士だからたくさんあるの。あれはやってみたいわ」と。

 キャリーもやってみたい。

 可愛らしい人形もその隣に置いてみたい。

 剣と人形、剣は平和を守る象徴で、人形は平和の象徴だ。並べておくと、自分の理想を並べたみたいになるんじゃないか。そういうのが「心の余裕」というのだろう、格好良いと思う。

 週末休みには部屋の掃除と溜まった洗濯をして、それから、買い出しに行こう。森に狩りにも行こう。

 部屋には花も飾ろう。

 そこまで妄想が進んだところで、会場となる町役場の講堂に到着した。

 立派な建物だった。その前庭には六名の就職希望者が並んだ。

 さすが名家の私兵募集だ。三名の枠に、六名の希望者。

 女性は一人だけだ。キャリーの緊張が高まっていく。

 そこで待っていたのは、見知った顔だった。

 キャリーは思わず呟いた。

「げぇ、リンクスって人よね、あれ」

 キャリーは、ルーファス王子の側近のリンクスが嫌いだった。見るからに腹黒そうで。

 もう二度と見かけることもないだろうと思っていた男がいた。

 面接官らしい。

 キャリーは早くも心が折れそうになっていた。

 リンクスの並びにはルーファス元王子もいる。

 ルーファスは王家の持つ伯爵位と豊かな伯爵領を持っていると聞いた。つまり、現伯爵だ。

 雲の上の人だなぁ、とキャリーはつくづく思う。

 面接官は他には私兵の隊長やレヴァンス家の家臣だ。

「実技試験を行う」

 と騎士服姿の屈強な男性が声を張り上げる。

 いきなり実技試験とは、さすが私兵募集の面接だ。

 剣の腕を見るのは面接官たちとレヴァンス侯爵家の私兵たちらしい。

 私兵の騎士服は格好良かった。とても質が良さそうだ。裕福な侯爵家らしい制服だ。

 そんな私兵たちを相手に打合いをさせていただく。

 緊張でがちがちだったキャリーも、剣を持つと意識が切り替わる。

 基本の動きを見ているのだろう、隊長らの視線も真剣そのものだった。

 最後に希望者六名と先輩私兵らも合わせて試合が行われることになった。先輩私兵の中には今年採用の新人も幾人か混じっているという。

 キャリーは緊張で強ばりそうな体を深呼吸で落ち着けながら自分の試合を待つ。

 そのとき、面接官の一人が声を上げた。

「シンシア!」

 試合会場となった施設の入り口から、なぜか訓練着姿の麗人が現れた。

 伯爵夫人となったシンシアだった。名を呼んだのは、もちろんルーファスだ。

 キャリーは、ルーファスの幸せそうな笑顔を見て「奥様を愛してるのね」と思った。

 またも「羨ましいなぁ」と思ってしまった。

 ルーファスのことなど、別に憧れもなにもない。美男だなとは思うが、好みなら精悍なアレンのほうだ。

 でも、姿を見ただけで幸せになるほどに愛してるなんて、そんな風に愛し愛されるなんて、やっぱりいいな、と純粋に単純に思う。

 そんな風に思いたくなかったのに、自然と思ってしまった。

 まるで、「まっとうな男と結婚して子供を産むのが女の幸せ」と言っていた両親の言葉が真実みたいじゃないか。

「違うし」

 キャリーは思わず剣を握る手に力を込める。

 採用試験、受かってやる。

 キャリーは密かに闘志に燃えた。

 ふと気付くと、シンシアとルーファスが面接官の席近くまで来ていた。

「これから採用試験でしょ、私もさんか」

 と言いかけたシンシアの腕をルーファスが掴んで隅に行く。

 なにやら二人で話している様子。

 キャリーはおおよそ、話の内容が読めた。

 シンシアが採用試験に飛び入り参加しようとしてルーファスに止められているのだろう。

 さて、元王子に止められるかな、とキャリーが見守っていると案外早く二人の話し合いは終わった。

 シンシアは無表情だ。つまり、少々不機嫌。

 どうやら、ルーファスはシンシアの説得に成功したらしい。

 そりゃそうだろうな、とキャリーは思う。シンシアが試合に参加したら、キャリー以外の参加者たちは緊張しまくりだろう。

 キャリーとしては、そのほうが自分には有利だったのでシンシアの参加は大歓迎だった。学園では対戦したことがあるので、シンシアの強さも知っていた。

 試合が始まった。

 キャリーは久しぶりの打合いだった。

 先輩私兵たちはやっぱり強い。新人だという私兵も強かった。

 他の試験参加者の強さは色々だった。それこそ、ピンキリだ。


 試合のあと、シンシアは上位三名と嬉々として練習試合をしていた。

 キャリーは真ん中くらいの成績だった。

 駄目だろうな、と思った。

 頑張ったつもりだが、真ん中だ。それなら、男が選ばれるだろう。

 項垂れそうになるがなんとか背筋を伸ばして最後の礼をする。


 面接はさらに続いた。

 汗を拭い一息付くと、部屋に向かう。

 もう結果は出ているだろうと思いながらも、次の面接に臨む。

 まずは六人全員がひと部屋で面接だった。

 キャリーの目の前にはリンクスがいる。

 ついてないな、と思う。この腹黒男のツラを見ながらかよ、とうんざりする。

 おそらくリンクスはキャリーの胸の内などとっくに勘付いているだろう。

 六人全員に下敷きと用紙が配られ、用紙には幾つかの質問が書いてある。面接というより、筆記試験だった。とはいえ、質問はごく簡単なものだ。

 領地に来るまでの車中から見た印象や、盗賊などが出没したとしたら、どんな対策が有効だと思うか? などとあり、キャリーは必死に考えてなんとか項目を埋めた。

 次は個人面接だという。

 もう疲労困憊だが、とにかく最後まではやり遂げよう。

 四人の面接官が一人か二人ずつ就職希望者を担当する。

 キャリーの面接官は運のないことにリンクスだった。

 キャリーは「頑張れ、キャリー、負けるな、キャリー」と自分に言い聞かせる。まだ折れるな、私の心、と。



お読みいただきありがとうございました。

明日も夜20時に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
キャリー、けっこうな苦労人だったんですね。ルーファス側から見ると恩人だと思うんですよね。キャリーの横槍がなかったら、シンシアはアレンルートに行ってたような気がする。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ