02.若草色のドレス -2-
イリスがリュドウィックと話したのは、色の好みについて聞かれた時が初めてではなかった。
五歳の頃、リュドウィックが父親と共にヴェール伯爵の屋敷に来たことがあった。リオン公爵領とヴェール伯爵領は隣接しており、親子で散策がてら馬を走らせ、ついでに挨拶に寄ったのだ。
二人が馬に乗っているところを、イリスは庭の低木の間から盗み見た。見知らぬ訪問者が気になったのだが、怖い人だったらどうしようという心配が勝ったために潜んでいた。
上手く隠れていたつもりだが、リオン公の前に座っているリュドウィックがイリスに気がついた。リュドウィックはこそこそと隠れている少女に、小さく手を振った。
公爵と共に馬に乗るリュドウィックはどこか誇らしげで、イリスの目にも輝いて見えた。無邪気な笑顔をどうにか誤魔化しながら胸を張る彼は、とても立派だった。
ヴァレリーはいきなりの訪問に驚きながらも、公爵親子を歓迎し、屋敷に招き入れた。庭で遊んでいるイリスを呼び寄せ、客人に挨拶させた。
「ヴェール伯爵令嬢に遊び相手になってもらいなさい」
厳格な顔をしたリオン公は、跡継ぎがまだ遊び盛りの子供であることを理解していた。年の近い娘がいるとわかると、子供だけで遊ぶ時間を与えてくれた。
イリスの目に、リオン公はいわゆる恐い大人に映っていたが、この対応を見て単純にも良い人だと思った。
挨拶を済ませた子供達は応接室を出た。庭に向かいながら、イリスは何の遊びをしようかと胸を躍らせて考えていた。
一人娘のイリスには、遊び相手になってくれる子供が傍にいない。時々、従姉のマグノリアが遊びに来るが、毎日ではない。イリスは退屈していたのだ。
庭に到着するなり、リュドウィックが開口一番に言った。
「俺のこと覚えてるよな?」
先ほど馬の上から手を振ってくれた男の子だ。両親や使用人から忘れっぽい女の子だとよく言われるが、そんなにすぐには忘れない。馬鹿にしてもらっては困る。
「覚えてるよー」
イリスが朗らかに答えると、リュドウィックは泣きそうな、かと思えば、怒ったような顔になった。複雑な感情を抱えているのが見て取れた。
「良かった。イリスも────」
リュドウィックは、早口で何かよくわからないことを長々と話していた。イリスが知らない難しい言葉を使っていたので、賢い人なのだなと思った。
「五歳なのにすごいねー」
イリスが感心していると、リュドウィックは拍子抜けしたような反応をした。その後、しばらくの間黙りこくってしまった。イリスはその間、心配して顔をのぞき込んだり、飽きて近くをうろちょろと歩き回ったりした。
考えがまとまったのか、リュドウィックは突然「よし」と気合の声を発した。
「何して遊ぼうか」
二人は時間いっぱい仲良く遊んだ。
この時もデジャブもどきがあったはずだが、内容は忘れてしまった。
以降五年間、リュドウィックに会うことは滅多になく、幼馴染みと呼ぶには心もとない関係だった。特段、意地悪された覚えはないが、上手く話し相手になれる自信がないので、会うのは気まずい。イリスにとって、リュドウィックは近寄りがたい存在だ。




