ファイルNo.001-01 口裂け女に関する調査記録(甲Ⅰ部)
────調査報告書概略────
本調査報告書(甲Ⅰ部)は分局管理機密ファイルNo.001「口裂け女」に関する第一次調査に向けた先行観測調査の調査記録である。詳細は元ファイルおよび各種調査報告書・記録書を参照のこと。
当該調査は20XX年3月12日~翌3月13日未明まで実施され、一定の観測を完了。この調査において人的損耗はなし。
当該先行調査の結果は第一次調査実行の是非を検討するものであり、今回の先行調査は科学的推考の余地があると判断できる。ただし以下の点において調査記録によって付加された情報は当該害性伝承の研究資料として活用できるものと認む。
・甲Ⅰ部の具体的形状の撮影記録
・甲Ⅰ部への非接触方法を用いたカウンセリング企図
・甲Ⅰ部の乙Ⅰ部への形態変化時における空間熱量・磁場捻転現象の観測結果
────事前経過────
20XX年3月12日 PM04:23
東京都■■区西部の高級住宅街に出現報告。警視庁に「不審者がいる」旨通報あり。現着した警察官により害性伝承No.001の出現を確認。
同日 PM04:35
報道機関に代替報道を周知開始。同時刻の報道番組にて速報「老朽化したガス管から都市ガスの大規模漏洩か」とのテロップを確認。代替報道に基づく周辺域の道路封鎖を実行開始。
同日 PM05:01
周辺道路の封鎖を完了、害性伝承No.001が出現している区画の住人の避難完了。
同日 PM05:06~PM05:23
伝承調査室区分局員「夜鷹」が先行調査実施のため現着。IRレンズ着用高精細カメラ、遠赤外線探知装置、空間捻転検出カウンターを周辺6か所に設置完了。なお、設置完了までの時刻において当該害性伝承は移動を認めず。
同日 PM05:25
当該局員「夜鷹」が分局室に調査開始を求める報告。分局室長は法令倫理除外事項6条を根拠に当該害性伝承の調査開始を宣言。
────調査目的────
・害性伝承No.001の誘因形態(甲Ⅰ)の情報を、先進的調査により更新するため。
・害性伝承No.001甲Ⅰの具体的役割を先進的調査により解明するため。
・将来的な害性伝承No.001の制圧・排除に向けた情報収集のため。
────調査内容────
①各種映像記録装置による甲Ⅰの撮影
②接近を伴わない方法によるコミュニケーション・カウンセリング
③ヒト型デコイの接近による甲Ⅰから乙Ⅰへ展開するかどうかの有無
④前述の③における行動に際する空間捻転カウンターの反応の有無
────調査経過────
20XX年3月12日 PM05:31
伝承調査室分局員「夜鷹」が当該現場にて調査の開始を宣言。以後、甲Ⅰへの接近を限定許可。
同日 PM05:32
夜鷹の指示により男性役人数名が映像記録装置のモニタリングを開始。当該時刻から数十分ほど甲Ⅰの形状、表面温度、及び空間力場に異常を認めず。
同日 PM05:55
夜鷹が調査の第二段階へ移行。男性役人1体を使用し、電光モニターを携行させてコミュニケーション能力の有無を確認するべく甲Ⅰまで10メートル近辺まで接近させる。
同日 PM06:01
男性役人が目標位置まで接近。甲Ⅰの姿勢に多少の変化がみられるものの、形状、表面温度、空間力場に異常を認めず。
同刻、男性役人が電光モニターを起動。以下夜鷹がコミュニケーション能力の調査のため遠隔にて文章を電光モニターに表示。
以下、PM06:05までコミュニケーションを試みる。以下に会話のログを記載。
PM06:01
夜鷹(以降、《夜》と略す):「こんにちは、貴女は誰ですか?」
甲Ⅰ(以降、《甲》と略す):反応なし
夜:「貴女はモニターの文字を見て言語を理解できますか?」
甲:首をかしげる。言語を発するそぶりなし
夜:「モニターの文字を理解出来たら、頷いてください」
甲:静かに首肯。モニターの文字を判読できる知能を確認
PM06:02
夜:「貴女は、なぜそこに立っているのですか?」
甲:首を振る
夜:「わからないのですか?」
甲:首を振る
以下数十秒間、夜鷹と接近している男性役人が通話。
夜:「甲Ⅰの状況は近傍で見て変化はあるか?」
役人(以降、《役》と略す)「いえ、ありません。穏やかな表情をしています」
夜:「特徴的な香りはするか?あるいは、甲Ⅰに欲情するような感情を持つか?」
役:「いいえ、まったく。どちらかといえばちょっと臭いです」
夜:「臭い?」
役:「饐えた臭いですね。生き物が腐敗してる臭いと近いです」
夜:「了解。次のテキストを送信する。危険だと判断したらゆっくりと下がれ」
PM06:04
夜鷹が甲Ⅰに電光モニターを解するコミュニケーションを再開。
夜:「貴女はなぜ、人を殺すのですか?」
甲:反応なし。姿勢にも変化なし
夜:「無視はしないでください。殺人に動機はあるのですか?」
甲:反応なし。姿勢にわずかな乱れを確認。表面温度上昇を当該時刻に確認
夜:「質問を変えます。貴女はどこに女性を連れ去るのですか?」
甲:表情に変化あり。同時に空間力場の変化を検知
夜鷹がこれ以上のコミュニケーションの確認は危険と判断。男性役人を退避させる。甲Ⅰは行動を起こさず姿勢を元に戻す。同時に表面温度・空間力場の変化も正常値へと収束。
同日 PM06:11
夜鷹が最後の調査へ移行を宣言。精巧に作成された有機物質構造のデコイを、有線による誘導方式によって自走させる。同刻、準備完了につき調査開始。
同日 PM06:13
自走完了。甲Ⅰの近傍まで接近。眼底部に設置したカメラにより、高精度の甲Ⅰ顔面部の撮影に成功。近傍に近づいてきたデコイに、甲Ⅰは反応。
同日 PM06:14
デコイと甲Ⅰが同時に出現位置から消滅。数十秒後、デコイのみ頸部を鋭利な刃物で切断された状態で再度出現。
なお甲Ⅰの消滅と同時に■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
《20XX年3月21日、夜鷹の権限により当該■部分を削除》
同刻に甲Ⅰ消滅時における諸変化を記録成功。
20XX年3月13日 AM05:22
甲Ⅰの推定出現時間の上限に到達。観測終了。
なお、甲Ⅰ消滅から当該時刻まで、著しい空間力場捻転を確認。当該時刻に突如として正常値まで急速に収束。
同日 AM06:05
撤収作業完了。分局長の指示により収束報道「ガス管交換完了」の速報を報道機関に通知。以後数分程度にてSNS、ネットニュース、テレビジョン、ラジオ媒体での収束報道流布を確認。
分局長により、調査終了の号令。
────調査結論────
本調査における様々な甲Ⅰの行動は、我々伝承調査室分局が考察していた害性伝承の推測を大いに覆す結果だったのは言うまでもない。
害性伝承No.001に関してはまず間違いなく研究調査が進んでいたのにもかかわらず、我らは口裂け女が機械のように被害者を襲撃していると考察していた。だがその実態は……とてもおぞましい。被害女性が■■■■■■■■■■■■■■■■。
《当該■部記述を削除》
この調査結果は確かにまだ勘案の余地はある。だが我ら分局の意思はまとまった。
とにかく、早々に害性伝承の制圧・排除へと舵を切らねば。