不思議な存在
短編で投稿したのと同じ話です。
短編の方は削除します。すみません( . .)"
あれはいつの事だったか
まだ幼い、十歳前後の頃の出来事だった。
「はるくん、そろそろ寝る時間よ。おもちゃ、お片付けしてねー」
母が台所で、洗い物をしながら言ってきたのを覚えている。
「えー、やだ!まだ遊ぶ」
しかし、私はまだ遊び足りなかったのか、言うことを聞かず遊び続け、結局居間で寝てしまった。
それから何時間経ったのか、ハッと目が覚めた。暗い居間には誰も居らず、幼い私は不安を感じていた。
「お母さん?おかーさん」
真夜中だからか、返事はなかった。
……ぼくが起きないからって、ひとりにするなんてひどい
真夜中の静けさや、暗い部屋の中、一人な事への恐怖で涙目になる。
……このまま朝までここにいようか、それともみんなが寝てるへやにいこうか、どうしよう
母が掛けてくれたであろう毛布に包まったまま、少し悩んだ。
……ひとりでここにいるのは怖い、がんばってへやにいこう
幼かった私にとって、例え、居間から寝室までの短い距離だとしても、暗い廊下を歩くのはとても勇気がいる事だった。
おそるおそる、毛布から抜け出した私はそこで不思議な存在を見た。
どうしてか顔は思い出せない。
髪は腰程までの長さで、艶やかな黒色をしていた。白い着物を纏い、宙に浮かびながら、じっとこちらを見ていた。
……え、だれ、ひぇっ、ゆっ、ゆうれいっ!
呆然と目を見開いて固まった。
それまでの人生で一度も見たことが無い存在を見ると、人は動けなくなるものなのだと実感した瞬間だった。
その存在は、特に何かをするでも無く、ただそこに浮いていた。そして消えた。
……な、なんだったの今の。びっくりした、こわすぎる
私は一目散に、寝室までの廊下を走り、家族が平和に寝ている様子を見て、やっと緊張が解けた。
緊張が解けると、眠気が襲い、そのまま兄弟の間に潜り込み寝てしまった。
「あれはなんだったんだろうなぁ」
二十六歳になった今でも、たまに思い出しては考える。
「何が?」
「いや、なんでもないよ、姉さん」
「あ、そう」
一つ歳上の姉が、ゲームをしながら聞いてくるのを流しながら、小さなため息をつく。
「そう言えば、はるくんさぁ、小さい頃、家に女の人が居るって言ってた事あるよね?」
「はるくんは、やめろ。そうだっけ」
「はいはい、はるとき。そうそう、すごくびっくりしたって言ってた」
ちょうど考えてた事を言われ驚きながら聞き返すと、姉はゲームをやめて話し始めた。
「昔は言わなかったけどさ、私も見た事あるんだよねー、綺麗な女の人」
「まじで?」
今まで一度も聞いた事がなかった。姉はあの存在を見て、なぜ誰にも言わなかったのだろう。
「え、見たらびっくりして誰かに言いたくなるだろ?」
「人によるんじゃない?」
「そうか…。で唐突に言い出したのはなんで?」
「なんとなく」
どういう事か。姉はこういう、掴み所のない不思議な性格をしている。
「あの存在はさー、結構何処にでも居るというか、ピントが合えば見えるかもって言う存在」
なんだよねー
と後半から話すのが面倒になったのか、だんだん小声になり、最終的に何を言ってるのかすら聞こえなくなった。
「だからさ、悪い存在では無いってこと」