うみのこ
うみにうまれたぼくは・・・。
ゆんわ〜り
ゆらゆら
つめたいなあ
「おや、ぼうや。おめざめかい?」
「あなたはだあれ?ここはどこ?」
「ここかい?ここは、うみだよ」
「う〜み〜?」
「うみってなあに?」
「ぼうやがうまれたところだよ。」
「ぼくがうまれたところ?このつめたいところ?」
「ああ、そうさ。つめたくて、あたたかくて。ゆらゆら、ゆらゆら〜」
「ゆらゆら、するね〜」
「このゆらゆらは、なあに?」
「これはね、なみだよ」
「な〜み〜?なみってなあに?」
「なみはね、みずがうごいているんだよ」
「み〜ず〜?みずってなあに?」
「みずはね、ぼうやをみたす、それだよ」
「ぼくをみたす?これ?ゆらゆら〜。どぶん。どぶん」
「そう、ぼうやをのせてどこまでも。みずがぼうやをおよがせてくれるよ」
「わあ〜。ぼく、みずにのってスイスイ〜。スイスイ〜。きもちいいなあ〜」
「そうそう。ぼうや、そのちょうし。」
「わあ〜い。おみず。スイスイ〜」
ぼうやは、うみになれると、もっともっとおよいでいきたくなった。
「あかいおさかなさん、こんにちは」
「やあ、ぼうや。どこへいくの?」
「もっと、とおいところ」
「もっと、とおいところかい?それは、どこかな?もっと、あさいところ?もっと、ふかいところ?」
「う〜ん。どこだろう?」
ぼうやは、ぐんぐんおよいでいく。
「やあ、ぼうず。おまえさん、どこからきたんだい?」
「ぼくは、もっとあさいところからきたんだよ」
「あさいところか。それじゃあ、ここはくらいだろう?」
「うん。ぼくがしってたうみよりもずっとふかくてくらいね」
「ぼうず、こわくはないのかい?」
「こわくなんかないよ」
「へえ、そうかい。ぼうずは、なかなかゆうきがあるな」
「ゆうき?なあに、それ?」
「こわくてもこわがらないことさ」
「ぼくこわくなんかないよ」
「へえ、たいしたものだ」
「くろいおさかなさんは、くらいところがこわいのかい?」
「ああ、こわいさ。だって、なにがいるのかみえないもんなあ」
「くらいところには、なにかがいるの?」
「ああ、うみのそこにはひかりがとどかないまっくらなところがあって、くらいなかをウヨウヨとさまざまなさかなたちがいるんだよ」
「ぼく、そこであそびたいなあ〜」
「ハハハ。そこにはぼうずよりもはるかにおおきなさかなたちがいて、おまえさんなんかくわれちまうぞ」
「ぼく、たべられちゃうの?」
「ああ、そうさ。おまえだってこれまでに、おまえさんのそのくちよりもちいさなさかなたちをたべてきたんだろう?」
「そうだね。くちのなかにはいるものはたべちゃったよ」
「ほうらみろ。だから、おまえさんは、くらいうみのそこへはいってはいけないよ」
「くろいさかなさんは、ぼくよりおおきいのにどうしてぼくをたべなかったんだい?」
「それはね、ぼうずはわたしの好物ではなかったからだよ」
「ぼく、おいしくないの?」
「さかなにはね、いろんな味があるんだよ」
「ねえ、くろいさかなさん。ぼくは、もっとおおきくなるにはどうしたらいいの?」
「たくさん、うみをおよぐことさ」
「たくさん、うみをおよぐの?」
「そうさ、うみは、どこまでもつづくんだ。どこまでも、どこまでも」
「じゃあ、ぼくもどこまでもおよいでみるよ。ありがとうくろいさかなさん」
「ああ、きをつけていくんだよ。あまりふかくはいかないで。あさすぎず、ふかすぎずだよ」
「うん、わかった。ありがとう」
ぼうやは、なみにのってグングンおよいだ。グングン、グングン。
ぼくのめのまえにひかりがさしこんだ。あおいさかなたちのむれがみえる。
「あおいおさかなさんたち、どこへいくの?」
「ぼうやは、しおってしってるかい?」
「し〜お〜?なあにそれ?」
「それはね、うみのみちなんだよ」
「うみのみち?」
「そう。みずのなかにもね、みちがとおるんだよ」
「へえ〜。ぼくものってみたいなあ〜」
「ほら、こっちにきてごらん?」
ぼくは、あおいおさかなさんたちのむれにはいりこんだ。
「うわあ〜。すごいなあ〜。ぼくのからだ、かってにながれていくよ〜」
「そうだろう?ながれていくだろう」
「うん、こんなにおもしろいみち、はじめてだよ〜」
「このみちにそっていけば、どんなにとおいところまでもいっきにおよいでいけるぞ〜」
「どんなにとおいところでも?」
「ああ、そうさ」
「じゃあ、ぼくもいってみたいなあ〜。まだまだいったことのないうみまで」
「このしおのながれはうみのなかにいくつかあるから、ぼうやがいきたいながれにのっていくといいよ」
「へえ〜。ぼくでもみつけられるかな?」
「まわりをよくみていってごらん。きっと、みつけられるさ」
「うん。あおいおさかなさんたち、ありがとう。ぼくもひとりでいってみるよ」
ぼうやはあおいおさかなさんたちとわかれた。
「ねえ?ぼくはどこまできたんだろう?」
ぼくは、まわりをみわたす。
「う〜ん。ぼくもう、うまれたうみにかえりたくなったよ・・・」
ぼくはこころぼそくなった。
「ぼくのからだもこんなにおおきくなったし、もうじゅうぶんだ。ぼくはもう、おうちにかえろう」
ぼくは、しおのながれをうまくみつけて、おうちにかえった。
「ただいま〜」
ぼくがうまれたうみにぼくはかえってきた。
「いや〜ん、こないで〜」
「うわあ〜、くわれちまう」
ぼくのすがたをみたさかなたちは、みんなぼくをみてこわがった。
「ぼ、ぼくはみんなをたべたりしないよ〜」
「そ、そんなおおきいからだでいわれたって、だれがしんじるんだよ」
ちいさなさかなたちはいう。
「そのは、そのあご、そのえら。わたしたちには、おそろしいわ」
「そのあごでくだかれたら。ひいい〜。」
「そのおくち。ガバあ〜って、わたしたちをまるのみね」
ちいさいさかなたちはいう。
「ぼく、そんなにおおきくなっちゃったんだ・・・」
ぼくは、なんだかつかれて、すいめんをプカプカとうかんだ。ぼくがすいめんをうかんでいると、なにかがぼくをすくいあげた。
「ああ、なにするのさあ〜」
ぼくはうみからでていた。
「ああ、なんてくるしいんだろう?」
ぼくはバタバタとあばれる。
「く、くるしい・・・。た、たすけて・・・」
ぼくはめからなみだをこぼした。
「くるしいぼくは、ここでおわかれ・・・」
ぼくはキューっとちいさくないた。ぼくをつかまえたのは、にんげんといういきものだった。
ぼくのさいごはにんげんのうでのなか・・・。