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第5話

   

「いや、今日はそうじゃなくて……。聞こえてきたのは、京戸さんの悲鳴だけでした」

 維偉斗のトーンが大人しくなる。

 それを受けて、改めて羽美が話し始めた。

「はい、確かに悲鳴は上げましたよ。だって、小説じゃなく現実で殺人事件だなんて、初めてだったから……」

 彼女の悲鳴を聞きつけて、維偉斗も書斎へ駆けつける。それが死体発見の経緯だったという。

「僕たちは素人ですけど、それでも叔父が殺されたばかりなのは、見た感じの雰囲気でわかりました。いや『見た感じ』も何も、少し前まで生きていたのは確実だ。ほんの十分くらい前に、彼女が叔父のところを訪れたばかりでしたからね」

 維偉斗がそう言いながら、意味ありげな視線を、もう一人の女性に向ける。

 今まで一言も口をきかずに座っていた、天田(あまだ)真智恵(まちえ)だ。


「はい。確かに私は、光蔵様に呼ばれて……」

 真智恵の服装は黒地に白を重ねたワンピースで、一見するとメイド服みたいだった。明田山探偵は最初彼女を召使いだと誤解したし、今の『光蔵様』という言い方もそれっぽかったが、この別荘で働いているわけではない。

 確かに家事手伝いはしているけれど、それは仕事ではなくプライベート。彼女は小さい頃に事故で両親を亡くしているのだが、母親の方は生前、志賀光蔵と親しくしていた。その縁で志賀光蔵に引き取られて、ずっと一緒に暮らしてきた。

 亡くなった母親について時々、志賀光蔵が語って聞かせたり、逆に真智恵に尋ねたり。そのような時間を過ごすことも多く、今日もそんな感じだったという。


「ふん。何を今さら……」

 吐き捨てるような口調で、維偉斗が呟く。真智恵の証言なんて信じていない、という口ぶりだった。

「どういう意味ですかな?」

「『明日(あした)あなたが会いたいと』ですよ。あの小説は……」

 明田山探偵が水を向けると、維偉斗が口にしたのは、志賀光蔵が死に(ぎわ)(かか)えていた本のタイトル。

 彼は何か説明しようとしていたのに、明田山探偵は微妙な違和感を覚えて、維偉斗の話を遮ってしまう。

「おや? この本は『明日(あした)あなたが会いたいと』なのですか? てっきり私は『明日(あす)あなたが会いたいと』かと思いましたが……」

   

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