第4話
小説家ならば、原稿料や印税という形で、出版社から報酬をもらって小説を書くのが普通だろう。それが一般的な商業出版だ
逆に、小説の著者が出版に関わる費用全般を負担、つまり出版社にお金を払って、本を出してもらうのが自費出版。そこまでは、小説出版に興味のない者でも知っているような、一般常識の範疇かもしれない。
共同出版というのは、この二つの折衷案みたいなもの。出版社も著者も、どちらも全額負担ではなく、両者で費用を折半する形式だ。最近では志賀光蔵のように、このシステムを利用して本を出す者も増えてきているという。
「なるほど……」
自費出版ならば、たとえ本が売れなくても、出版社の損にはならない。それどころか、必要経費以上の金額を著者から徴収するのであれば、出版するだけで儲かるのだろう。
とはいえ、それほどの金額を費やしてまで本を出したいと考える者は、まだまだ少数。
しかし「出版社も一部負担します」となれば、著書側の経済的、心理的負担はその分だけ減る。多くの著者が利用するだろうが、出版社の負担はあくまでも「一部」。「あまり売れなくても、それほど損はしない」という程度に留めているに違いない。
良く出来たシステムであると同時に、維偉斗の「自費出版と同じ」発言も納得できる。お金をもらうどころか、逆に払う形で本を出してもらうのでは、根本的には確かに「同じ」ではないか。
明田山探偵は、そう理解するのだった。
「叔父は騙されたんだ。あんなに大金を注ぎ込んだのに、本屋へ行っても、叔父の本なんて置いてないし……」
維偉斗の言葉で、明田山探偵は思い出す。
事件の資料として、彼も奈土力警部も一冊ずつ、死体が手にしていた現物とは別の『明日あなたが会いたいと』を渡されたのだが……。その際、若い警官が「取り寄せるのに苦労しました」と言っていたのだ。
「いえいえ、騙しただなんてとんでもない。取扱書店が少ないのは最初からご説明していましたし……。ほら、志賀光蔵さんも満足なさったからこそ、二冊目の出版を検討しておられたわけで……」
羽美は力強く首を横に振るが、それを維偉斗が否定する。
「嘘おっしゃい。叔父とあんたが口論してるのは、何度も聞いているぜ」
「口論ですか、なるほど。では……」
自分のせいで逸れてしまった話を、元に戻すチャンス。明田山探偵はそう考えて、二人の間に割って入った。
「……今日もそれが聞こえてきたのですかな? 光蔵さんが殺されたくらいの時間に?」