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返答

一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

 昼休み、食堂前の自販機にジュースを買いに行った帰り道、中庭に面した連絡通路を歩いていたところを月宮さんに呼び止められた。

 話したいことがあると。


 月宮さんが俺に話したいこと? 何かは分からないが、月宮さんと話ができるなら男子は全員漏れなく小躍りするだろう。

 俺もまたその例に漏れず、内心小躍りしながら彼女の元に向かった。


 そこには陽川さんもいた。

 喜びが二倍になった。


 クラスの二大美少女、月と太陽の二人に挟まれるモブの俺。

 でも俺にいったい何の用だろう?

 俺が月宮さんに用があることはあっても、月宮さんが俺に用なんてあるか? 

 内心色々と予想をしていると、月宮さんは唐突に切り出してきた。

 全く思いもよらない角度から、ヘビー級のパンチを。


「――実はね、私、相地くんのことがずっと好きだったの。だから、よかったら私とお付き合いしてくれないかな?」


 ――はい?


 俺の頭はフリーズした。

 え? 今、なんて言った?

 あまりに予想外な文言すぎて、上手く処理できなかった。渾身の右アッパーを顎に食らわされたみたいに脳が揺れている。


「ごめん。寝不足なこともあって、聞き間違えたかもしれない。悪いんだけど、もう一回言ってもらえるかな」

「ふふ。何度だっていいよ」


 月宮さんは女神のように微笑むと、再度言葉を紡いだ。

 先ほどと一言一句同じ文言を。


「――実はね、私、相地くんのことがずっと好きだったの。だから、よかったら私とお付き合いしてくれないかな?」

「…………」


 聞き間違いじゃなかった。

 まるで告白みたいな文言だな、と思っていたら告白だった。

 遠回しにということもなく、ど真ん中150キロストレートの告白だった。


「えーっと……これ、罰ゲーム?」


 まず浮かんだのはそれだった。

 月宮さんと陽川さんが負けたら罰ゲーム告白をするという遊びをしていて、月宮さんが負けたから告白したという流れ。


「ううん。罰ゲームなんかじゃないよ。今のは嘘偽りのない、私の本心。相地くんのことがずっと好きだったの」


 違った。

 罰ゲームじゃなかった。

 そりゃそうだ。

 冷静に考えたら、二人はそんなことするような人じゃない。


「いや、もし、一兆歩譲って月宮さんが俺のことを好きだったとしよう」

 

 まだ呑み込めてはいないけども。


「でも今、なんでこのタイミングで告白?」


 告白と言えば、二人きりで人気のない場所で行われるのが相場だ。

 こんな傍に陽川さんがいるところでするか普通? というか、自分のそういう気持ちを他の人に聴かれることに抵抗ないのか?


「てゆーか、え? 詩歌の好きな人って相地くんだったの?」


俺もそうだが、陽川さんも突然の展開に面食らっていた。

 そりゃそうだ。

 いきなり目の前で告白が始まったのだから。


「そうだよ」


 月宮さんは何気ないふうに答える。


「本当は見守るだけでいいと思っていたの。相地くんと付き合わなくても、相地くんの幸せを影ながら支えていければって。

 でも、相地くんは素敵な人だから放っておいたら悪い虫がついてくる。優しい相地くんはそれに惑わされてしまうかもしれない。

 だから気づいたの。私が相地くんと付き合えば良いんだって。彼女になれば、悪い虫が寄りついてくることもなくなるから」

「いや、あたし悪い虫なん?」

「うん。だって毎日夜遅くまで相地くんを通話に付き合わせてるでしょ? そのせいで彼は寝不足になってしまってる」

「え!? なんでそのことを!?」

「どうして知ってるんだと思う?」


 月宮さんはにっこりと微笑むと。


「比奈のことは大好きだよ。大事な友達だと思ってる。でも、相地くんのことを誑かすのなら見過ごすわけにはいかない」


 凄いこと言ってるな。

 俺の知る誰にでも温和で優しい月宮さんとは印象が違う。


「そもそもの話なんだけど」

「なあに?」

「なんで俺のことを好きになってくれたんだ?」

「ふふ。理由が気になる?」と月宮さんは微笑む。「語ってもいいけど、昼休みだけだと時間がとても足りなくなっちゃうよ」


 どうやら五十分以上の長尺で語れるらしかった。

 だとしたら、俺よりも俺を好きな可能性あるな。


「相地くん、どうかな?」


 あの月宮さんがモブの俺のことを好きと言ってくれている――。信じられない思いと共に脳内で考えを巡らせていた時だった。


「ちょっ、ちょっと待ったぁ――っ!」


 陽川さんが意を決したように割り込んできた。そして胸元に手を置くと、食い気味に俺に向かって告げてくる。


「あたしも! あたしも相地くんのことが好き!」


 ――はい?


「好きっていうか、もう大好き! ちょー好き! 四六時中、相地くんのこと考えちゃうくらい大々大好き!」


 好き好き大好き超愛してるくらいの勢いでまくし立てる陽川さん。

 俺はぽかんとしていた。

 陽川さんも俺のことが好き?

 それマジ?


「うわ~っもう! こんなふうに暴露するつもりなかったのに……! 詩歌がいきなり告ったから勢いに任せちゃった……!」


 陽川さんは、かあっと顔を赤らめる。

 かわいい。

 じゃなくて。


「確か陽川さんは、コンビニの同僚が好きって」

「え!? なんで知ってんの!?」


 前に話してるのを立ち聞きしたから。

 確かに俺も条件には当てはまっている。

 あり得ないと思っていたから、選択肢にも浮かんでいなかったが。

 よくよく改めて考えてみると、あれだけ毎日夜遅くまで通話しようとしてくるのは、俺に気があるからというのは腑に落ちる。

 じゃあ、やっぱりそうなのか。


「――ええい! もうこの際だから言っちゃえ! 相地くん! 詩歌じゃなくて、あたしと付き合ってください!」


 陽川さんは意を決したように手を差し出してくる。


「ふふ。相地くんは私と比奈、どっちと付き合う?」


 月宮さんと陽川さんが同時に告白してくる。

 まだ呑み込めてはいないが、どうやらこういうことらしい。

 クラスの二大美少女、月と太陽。

 二人にそれぞれ愛されている男子は、まさかの同一人物だった。月宮さんと陽川さんはモブの俺のことを好いてくれていた。


 夢のような出来事。バチェラーみたいな構図。

 この機を逃せば、こんなことは二度とない。

 誰が見ても千載一遇のチャンスと言うだろう。


 月宮さんは才色兼備の高嶺の花。

 陽川さんはクラスの中心の陽キャギャル。

 どちらと付き合ったとしても、毎日が彩り豊かになることだろう。少なくともクラスの男子たちにはうらやましがられるに違いない。

 月宮さんにするか、それとも陽川さんにするか。

 俺は悩み抜いた挙げ句、最終的な決断を二人に伝えた。

 

「ごめん。俺はどっちとも付き合えない」


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