37 エピローグ2
あれから毎日吸血を続け、アリサ監修の療養食を食べて、一週間ほどで杖を突いて歩ける程度には回復した。
それでも、階段の上り下りはノエルがおぶってくれないと無理だし、お風呂にも自分で入れない。幸いトイレが魔術の力で二階にも設置できる最新式だからよかったけど……一人で出来ないことが多くて結構暇だ。
そんな状況なので、我が家には毎日アリサがお見舞いに来て、詩音に至っては王宮に『お姉ちゃんが好くなるまで帰らないから』と言って、家に住み着いている。嬉しいことだけどね!
「シオンさん、今日もジャンケンです! 今度こそ負けませんから!」
「私も参加します」
「ふん、妹である私に勝てるとか思わないでよね。さーいしょーはグー——」
ただ、私の部屋で看病を賭けたじゃんけんをするのは本当にやめてほしい。声が頭に響くことはなくなったのだが、シンプルに恥ずかしいのだ。
「今日はわたしの勝ちです! ルナさん、今日はわたしが食べさせてあげますからね。ふー、ふー。はい、あーん」
「あ、あーん……」
アリサって確かまだ十一か十二歳だったよね。聖女とはいえ、こんな子供に食べさせてもらうって恥ずかしいな。
味にも気を使った療養食だから美味しいは美味しいんだけど、それどころじゃないよもう。
食事が終わると、忙しいアリサは「では、また明日来ますね」と頭を下げ、教会の方に帰っていく。そうすると、次はノエルだ。なかなか刺激の強い光景になるので、その間詩音には食器を洗っていてもらう。
「では、血を」
ノエルは服を胸の蕾が見えてしまいそうな程はだけさせ、私に首筋を近づける。
「いただきます」
「っ、あっ、慣れ、ても、この感覚……んっ、すぅ~、はぁ……はっ、はぁ……」
「もうちょっと、吸わせて……」
「いい、ですが……わたしも、我慢が……っ」
血を吸い終えて魔力の回復を終えると、私はノエルをぎゅっとして、『いつもありがと』とささやく。
「……その、生殺しにしてるみたいで、ごめんね?」
「い、いえ。メイドの務めですから……」
私は血を吸っているから、結構満足出来ている。けど、彼女は違う。どうも吸血鬼特有の魔力の影響なのか、催淫効果が表れているらしい。そのせいで、ノエルはいつも我慢する羽目になっている。
「ほんとにごめんね。また、完全に治ったら……」
「――お姉ちゃん、終わった?」
ゆっくりしすぎていたらしく、洗い物を終えた詩音が部屋に戻って来た。私は焦ってノエルから手を放す。
「お、終わったよ」
「はーい。入るよ。お姉ちゃん、どう?」
「うん、魔力の方は結構よくなったかな」
「よかった。じゃあノエルさん、お風呂までお願い」
「わかりました。行きますよ、ご主人様」
ノエルは私をお姫様抱っこすると、詩音に扉を開けてもらって、浴室まで運んでくれた。
まだ自分で体を動かすのも難しいので、服を脱ぐのも難しく、それすら手伝ってもらっている。なので、最近は簡単に脱げるほぼ奴隷装束のような服ばかり着ている。あまり寒くない地域なので、脱ぎやすさを考えると、あの服……というか布が一番なのだ。
ノエルに脱がせてもらってからは、彼女に少し体重をかけ、ゆっくり浴室に入る。
シャワーで体を流してもらい、肩を借りてゆっくりと浴場に浸かる。
体を起こしているのも少し疲れるので、ノエルの足の間に座り、彼女に体重を預けて座っている。天然ものの大きいおっぱい枕もとても心地よい。
「んあああぁぁぁ、いぎがえるうううううぅうぅ~~~~」
浄化の魔術が掛けられた聖水にも等しいお湯は、若干ながら回復促進効果がある。今の私はどちらかというと内傷が多いので、私には回復効果は意味がないんだけど。それはそれとして、お湯につかると疲れが癒える。
「ふあぁ……」
ただ、最近はただでさえ疲労が抜けきっていないので、お風呂に入ると気持ちよすぎて一気に眠くなってしまう。
「ご主人様、お風呂で寝てはダメですよ」
「うん、わかってる……」
わかってはいるんだけど、すごく眠い。
「ふわぁ~あ……ダメだね、ほんとすぐ疲れちゃう」
「仕方ないよ、まだ完全には回復してないんだし。もう、この際ちょっと多めに魔力吸って回復とかできないの?」
「出来るけど、ノエルの負担が大きくなるから」
「そっかー。私の血は?」
「吸いたいけど、あんまりむやみに吸えないから。眷属になっちゃうかもだし、詩音の血となると相性もあるから」
詩音は勇者だ。そんな彼女の血を吸えば、もしかしたらまた聖剣を持った時のようなことになるかもしれない。
「じゃあほかの人は?」
「うーん、アリサとかセレネならいいけど相性良くないだろうし、クレアとアルカはなんか気まずいし……」
他人の血を吸うという手もあるが、私も一応中身は普通の人間なので、流石にそれは気持ち悪い。
「そっかー。じゃあ、地道に治すしかないのかぁ」
「まあ、ゆーて私暇だし、ゆっくり治していくよ。それに、こういう生活は慣れてるから」
私の人生の半分以上はベッドの上だ。それに今は看病してくれる美少女なお姉さんと詩音がいるんだから、余裕で乗り切れる。
今世は本当に幸せだ。
1部終わりです