30 討伐に向けて
「アルカ、魔族について知ってること教えて!」
屋敷に戻ってすぐ、私はアルカの部屋に突撃した。
「おかえり、ルナちゃん」
「ルナ、戻るのが早かったわね」
「グランツさんがアルカが詳しいって言ってたから、急いで戻ってきた」
「そういうことね。ルナちゃん、これどうぞ」
「これ……資料?」
「うん。って言っても、報告書用じゃなくて、わたしたちが作戦を立てるのに使ったメモだけどね。ノエル先輩から事情を聴いて、引っ張り出してきたの」
資料にぱっと目を通したが、結構わかりやすい。確かにメモ書きという感じで簡潔ではあるけど、要点はなんとなくわかった。
「グラディオの事だけど、あれは私たちが倒せなかった最後の魔族なの」
「何人かいたの?」
「うん。ルナちゃんを入れてもわたしが見た魔族は五人。うち二人は倒して、一人は捕縛して今は牢屋の中。で、勝てなかったのがグラディオ」
「そんなに強いんだ?」
「ええ。グラディオは魔族である以上に、そもそもの戦闘能力が高いのよ。こっちがどれだけ本気で戦っても、様子見でいなされる。そして戦い方が分かれば、それに合わせた戦い方に変えてくる。だから、決定打を与えられないのよ」
聞くところによると、二人は二度グラディオと戦ったらしい。
一度目は長期戦に持ち込まれ、敗北を確信したため撤退。二度目はアルカが奇襲に成功したものの、圧倒的な治癒能力と回復魔法ですぐ回復され、力を増した魔剣の攻撃に対抗できず撤退。二度目の戦いに関しては、そもそも二人の戦い方がバレていたせいで、初めから連携に対策されていたらしい。
「あの敵に合わせた戦い方はもちろんだけど、何よりあの魔剣が厄介よ。アレに対抗するなら、それこそ勇者か聖女の力が必須ね」
「それなら得意分野だよ。使ったら疲れるけど、攻撃も防御も任せて」
「それならルナにはサポート役に徹してほしいけど、あたしたちの戦闘スタイルはとっくにバレてるのよね……」
「なら、ノエル先輩に攻撃役を任せる? 武器も申し分ないと思うし」
「そうね。武器は……ルナがいるから大丈夫よね。よし、それじゃあ、作戦立てて訓練するわよ! 特にルナ、あんたは今日から訓練漬けよ」
それから私たちは、ノエルも交えて作戦を立て、実戦に向けての訓練を始めた。
◇◆◇
作戦会議をした後、お昼ご飯を食べて私はアルカと庭で魔術の勉強を始めた。
「聖属性というのは、実は二つに分類される——というのは知ってるよね」
聖属性の魔術は、一般的なものと少し特殊なものに分けらる。後者は聖属性を司る、慈愛の女神の加護を受けて始めて使えるものだ。
そして、その加護を受け初めて使える、いわゆる聖女の力の性質は、他人に力を与えるというものらしい。よくある身体能力を引き上げるものではなく、属性付与とかそういうものだ。
「たぶんだけど、ルナちゃんはそれが使えるの」
「ほんと?」
「最上位の攻撃魔術を使ったんでしょ? 聖属性に関しては、加護がないとそれは無理なの。実際、あの魔術を使ったのは過去勇者と聖女だけなの。ただ、そういう特殊な魔術って、加護があるからこそ感覚で使えるものだから……」
つまり、私にはそれを感覚で使えと。
「とにかく、出来るか試してみよ! 適正とか使い方はともかく、魔術はざっくり言えばイメージで何とかなるものだから!」
イメージねぇ。まあ確かに、魔力操作は感覚的なものなので、明確なイメージが大切だ。けど、イメージが大切とはいっても、実体のないもののイメージは難しい。
まあ、やるだけやってみよう。まずは、私がいつも使っている杖に。
要するに付与術師的なアレだと思えばいいわけだ。
神聖な力を付与……そもそも付与ってどうやるんだ? 杖に魔力を纏わせて、そこに聖属性を乗せて……ってのが分からない。
属性ごとに魔力の性質が少し違うのは、なんとなくわかる。特に聖属性は、明らかに性質が違う。なんというか、神聖だ。
集中すればわかりやすいが、魔力を魔術として放出する際、魔力の感じが少しだけ変わる。意図的にそれを——
「っ、がはっ……かはっ、ごほっ、ごほっ……なに、なんで……」
吐血した。確かに魔力の性質は変えられたけど、全身に痛みが走った。
「る、ルナちゃん⁉」
どこが原因で吐血したのかは分からないけど、とりあえず自分に治癒魔術を掛ける。こっちだと、多少の気持ち悪さはあるものの、ちゃんと治癒は出来た。
「やっぱり、魔族だから相性悪いのか……」
死ぬほど痛かったけど、感覚は掴めた。杖に魔力を纏わせて、そこの部分を聖属性に変換する。それから杖を振るうと——見事に纏わせた魔力がその場に残った。杖に置き去りにされて神々しく光る魔力がなんともシュールだ。
「これはこれで凄いけど……違うね」
「むぅ、付与ってどういうこと……」
「まずは魔力の付与だけど、纏わせるっていうよりも、魔力を練り込むイメージのほうが強いかな」
練り込む……纏わせるんじゃなくて、物体そのものに付与する感じだろうか。
「むむむぅ……」
なんとなく、わかりそうな気がする。あと一歩なんだけど——
「お、出来た気がする!」
今度は、ちゃんとうまくいった。杖は神々しい光の粒子を纏い、振れば魔力もしっかりついてくる。付いてくるというか、一緒に動いている。
「流石、ルナちゃんは要領がいいね」
「思ったよりは難しくなかったから。魔力操作の延長って感じなんだね」
「ざっくり言えばそうだけど、魔力操作の延長で付与魔術を使える人なんてそういないよ。そもそも別の適正がいるから?」
「そうなの?」
「うん。聖女の力があれば別だけど、魔力の付与は無属性に分類されるから」
無属性はほかの魔術と同じように属性として分類されているものの、中身は全くの別物だ。
例えば無属性に分類される身体強化はほとんどの人が使えるが、物質に魔力を付与したり、魔力を飛ばして攻撃する〝魔弾〟なんかは魔力操作の才能がないと使えない。適性とはまたちょっと違う、少し複雑な属性なのだ。
「ちなみに、ルナちゃんが今使ったのは聖女と同じ力ね。その前のは、無属性の応用。けど、まさか……ルナちゃんって、聖女なの?」
「どうだろう。私の信仰は向こうの神様だし、別にアリサみたいな優しい心も持ってないんだけどね。ただ聖属性の才能があるだけなんじゃない?」
「聖属性ってすごく不思議な属性でね、加護の有無で成長の上限が決まっちゃうの。私やクレア、後は現状聖騎士として最強の人も、聖属性のレベルで言えばルナちゃん以下」
「じゃあ、私も聖女なのかな……。でも、その力があるならよかった。これで倒せたら、詩音を戦わせなくて済む」
「そうだね。戦うのは、私も協力するよ。だから、頑張って、生きて帰ろうね」
「業務外なのにありがとう、アルカ。ちゃんと手当は出すから」
「ううん、グラディオは私たちも追ってた魔族だから。これは、冒険者同士の共闘。それにたぶん、報酬は国がくれると思うから。頑張ろうね、ルナちゃん」
「うん。よろしくね、アルカ」
現状の戦闘力で言うと、クレアとアルカ、次にセレネとノエルといった感じです




