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吸血姫の巻き込まれ英雄譚  作者: cvおるたん塩
1章 救国の吸血姫編
28/39

28 苦戦

 グラディオはセレネの放った矢を魔術で相殺すると、後ろに手を掲げ、「来い」と呟く。


「んなっ、剣が……」


 グラディオの声に反応して、剣が意思を持っているかのように、彼の手に収まった。

 その剣は禍々しいオーラを放つ漆黒の剣で、それこそ魔剣と呼ぶのにふさわしいような代物だ。

 セレネが剣を狙って複数の矢を同時に放つが、グラディオが剣を一振りすると、それはすべて撃ち落された。魔術でもやっていたけど、女神の矢を普通に落とすとは……。

 ここは、ノエルを回収して逃げたほうがいいのだろう。しかし、ノエルは今彼の足元で倒れている。

 接近したいが、私は魔術ならともかく槍や斧の使い方はまだよくわかっていない。せめて剣なら多少は使えるけど、剣なんて持ってきていない。ノエルが持っているけど、回収するには結局接近が必須だ。


「氷槍よ、射殺せ!」


 氷の槍を周囲に五本ほど展開し、グラディオめがけて一斉に射出する。その槍を捌き切ったグラディオは、今度はこちらからだと、地面を蹴って一気に距離を詰めた。

 私は咄嗟に柄の部分で攻撃を防ぐが、圧倒的な力で後ろに吹き飛ばされた。幸いアリサの魔術で衝撃は無かったものの、思い切り剣をぶつけられたせいで、手が少し痛い。

 治癒魔術で痛みを和らげ、その場からグラディオに氷槍を連続で飛ばす。

 周囲に展開するのではなく、杖から射出するイメージで魔力を流すと、杖にはめ込まれた魔石のお陰か、威力が段違いになる。

 それでもグラディオは難なく防ぐ。しかしセレネの矢と合わさって防ぐ数が多いからか、グラディオはひたすら剣での防御に徹するしかなく、全く攻撃してこない。ただそれはこちらもおなじで、遠距離攻撃は出来ても、近づく手段がない。つまり、ノエルを助けようにも助けられないのだ。

 グラディオを吹き飛ばせる魔術はあるし、一応使える。ただ、それを使えばノエルにもあたってしまうし……。


「ふむ、こんなものか。吸血鬼はともかく、英雄は随分と落ちぶれたものだな」

「くっ……こうなったら——ッ!」


 防戦一方とはいえ余裕の表情を見せるグラディオに、セレネは地面を蹴って距離を詰め、 弓で斬りかかった。魔術か魔法か、弓は光を纏い、両刃剣のようになっている。

 彼女に当たらないように、私もグラディオに魔術を放つ。

 遠近両方からの攻撃だが、その程度かと言わんばかりに、グラディオは剣でセレネの攻撃を防ぎつつ、私の魔術をピンポイントに展開した炎の障壁で相殺する。

 セレネは弓を両刃剣のように扱い圧倒的な連撃を繰り出すが、パワー不足なのか、全く通用していない。

 圧倒的過ぎる。魔族というのはここまで強いものなのか……。


「——アリサ、あの結界はどれくらいの衝撃に耐えられる⁉」

「は、はい、王級の直撃くらいなら……」


 王級——階級ごとに分けられた魔術の中では、人が使える範囲で上から二番目の階級だ。それだけ使うのが難しいし、必要な魔力も膨大だ。その分、威力も高い。

 練習場所がないので練習はしたことないけど、こうなればぶっつけ本番だ。

 詠唱なんて覚えてないけど、上位の魔術というのは、要するに初歩的な魔術を圧倒的な魔力と魔力制御や、別の魔術との組み合わせで強化したものだ。つまり、初級のフレイムアローに魔力を込めまくって、さらに射出速度や着弾時の爆破威力を上げれば、それは上級なのだ。


 ——集中しろ。


 使うのは光魔術。確かビーム系の攻撃魔術だった気がするけど、ビームの撃ち方なんて知らないのでいつもの射出方式でいいだろう。

 形は慣れているので槍、一本の光の槍にとにかく魔力を圧縮して、防御を突破できるようにする。そしてたとえ剣で防がれても、それごと破壊できるほどの速度。とにかく魔力を流し込む。魔力が抜けていく感覚が分かる程に魔力を流し——セレネが私に気付いて飛びのいた瞬間にグラディオめがけて槍を放つ!


「なっ、これは——」


 グラディオは魔剣で槍を防ごうとするが、槍に弾かれてのけ反り、槍に肩を貫かれた。のけ反っていなければやれたのに。

 圧倒的な威力で右腕が吹き飛び、それと一緒に魔剣も後ろに飛んでいく。

 そしてそのまま奥の部屋まで飛んで行った槍は、壁にぶつかったのか大爆発を起こした。


「セレネ、ノエルをお願い!」


 私はそう叫んで、へたり込みながらもノエルを守り、そして私の魔術の波動から皆をも守ってくれたアリサを小脇に抱えて入口の方に向かって走る。


「詩音、あんたも早く走りなさい!」

「あ、わ、わかってる!」


 ずっと立ち尽くしていた詩音も、ようやく動き出した。とりあえず、彼女には怪我がないようでよかった。けど、とんでもないものを見せてしまった。自分が何をしたかより、詩音にあの光景を見せてしまった罪悪感が大きい。

 けど、今はそれどころではない。とにかく逃げる。とどめを刺したわけではないので追撃の危険もあるだろう。


「アリサ、地属性行ける⁉」

「は、はい、一応は!」

「じゃあ定期的に壁生成して道塞いで!」

「わかりました!」


 アリサは私に抱えられながら詠唱をして、来た道を塞いでいく。

 そのまま走って何とか遺跡を脱出して、私たちは事なきを得たのだった。


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