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国際問題

「それでアシーナを連れ出したということか?」


 現在、我は人間国玉座の間にて会談という名の事情聴取を受けていた。国王アレキサンダーに重々しく問いかけられ、帰りたくなる衝動をどうにか抑え返答する。


「まあ、そうじゃな」


 我の返答に側近たちの額に青筋が浮かんでいるような気もするが無視じゃ。同意の上じゃし、我悪くないもん。


 ちらりとアシーの様子を見れば、昨日の立会が嘘のように淑女然とした姿勢で佇んでいる。よくそんな切り替えができるなと感心していると、我の意識が逸れていることに気づいた側近の一人が声を荒らげる。


「貴方は事の重大さが分かってないのですか! これは国際問題ですぞ! 妖精国の女王が人間国の王女を攫うなどあってはならないでしょう!」

「攫うとは人聞きが悪いのじゃ。ちょっと、入れ替わろうとしただけではないか」

「貴方ねぇ……っ」

「もうよい、控えよ」


 国王は怒鳴っていた側近を一声で黙らせると、鋭い眼光を我に向けてくる。


「我々もこれ以上事を荒立てたくないのだ。妖精国とは今まで通り友好関係を続けたいと考えている」

「それには我も同意じゃの」

「ただ、今回アシーナが妖精祭で契約できなかったことが問題となっておる。知っての通り契約は妖精祭一日しか許されていない。王族が一年も遅れて契約など国民に示しがつかんのだ」


 ん? 国王は我らの契約を知らんのか?

 てっきりアシーが報告していると思っておったのだが。


 そこで今まで沈黙を貫いていたアシーが声を上げる。


「お父様、私は女王陛下と契約しておりますのでその心配は無用です」


 その言葉を聞いた瞬間、玉座の間にそんな馬鹿な、あり得るのか? といったようなどよめきが起こる。国王すら唖然としているようだ。


 確かに我は三千年ほど生きておるが、一度も契約なんてしたことないからな。別に契約が嫌いとかではないが、そういう噂が広がっていてもおかしくないはない。


 なんせ簡単に力を得る方法である契約があるのに、一度もやらずに女王となる能力を有しているのは不自然極まりない。そこに理由があると考えるのは普通の事じゃろう。


 そんな衝撃的ニュースで盛り上がる面々にアシーが更なる爆弾を投下する。


「女王陛下に一太刀浴びせた際、契約者となることを認めて頂きました」

「一太刀だと?」

「ええ、真剣でバッサリと」


 国王さん、顔真っ青になってるのじゃ。いくら問題の根幹に我の行動があったとしても、他国の女王を斬ったとなれば色々と問題になるじゃろう。


 そもそも何故、問題になるような言い方をアシーはしたのか。考えは分らんがとりあえずフォローしておかんと。


「それについては我が許可しておるし、この通り無傷じゃ。だからそのように騒ぎ立てるでない」

「ご配慮痛み入る」

「とりあえず、今回はお開きでよいかの? 一度整理した方がよさそうじゃが」


 国王も我の言葉に同意の意を示し、側近たちへ退出の指示を出していく。折を見て退出した我は外で控えていたアシーの侍女に案内され客間へと通された。


 豪勢なソファーが何台か並べられており、そこそこの人数が入れる造りとなっている。

 我は奥で紅茶を片手に待ち受けている先客へ声を掛ける。


「契約の詳細を明かさない方がよかったと思うのじゃが。そこん所どうなんじゃ?」

「ティーはもう少し自分の認識を改めた方が良いわ。貴方と契約した時点で十分な面倒事よ。あそこで私の評価を下げていなければ、今頃女王に担ぎ上げられてるわ」

「本音は?」

「半分自慢ね!」


 馬鹿と天才は紙一重というが、間違いなくこいつは前者だ。誰だ、天才とか言い出したやつ!


「あの国王、すぐに禿げるんじゃないか?」

「ほぉ、俺の気苦労を理解するとはさすが、妖精女王。原因の一部が貴方でなければ良き友として迎え入れたというものを」

「ぅえっ!? 気配を断って後ろに立つでない! びっくりするじゃろうが!」


 玉座の間で話していた時のような重々しい雰囲気を捨て、砕けた感じで話しかけてくる国王に我は切り替え早いのぉと感嘆の声を上げる。


 国王は苦虫を噛み潰したような顔をした後、我にソファーへ向かうよう誘導する。国王、アシー、テーブルを挟んで我の並びで着席する。まるで三者面談じゃな。


「とりあえず、この件については箝口令を敷いた。幸いあの場には信頼できる者しか入れてないからな」

「そもそも私の存在が秘匿事項ですからね。当然でしょう」

「アシーの存在が秘匿事項とはどういうことじゃ? 天才とかいうデマががっつり流れておるじゃろ」


 さらっと重要そうな情報を口にするアシーに我が問いかけたが、アシーとしては我の発言の後半部分が気に食わないらしい。アシーが無機質な笑みを浮かべて、しかしその部分には触れずに説明を始めた。


「ティーはガイアという神を知っていますか?」

「ああ、あの婆か。会ったことがあるぞ」

「実在するのですね……」


 アシーは神が存在することに驚いていたようだ。最後に見たのは千年くらい前なので人間の寿命だと空想上の存在と思ってしまうのもおかしくない。


 ただ、国王の方は一切動揺をしていなかった所を見ると知っておったのじゃろう。話の流れ的にあの神が好きな予言がらみか?


「あの婆が国王に予言でもしたのか?」

「よくわかったな。昔、生まれてくる子供たちについてお告げを頂いた」


 どうやら当たりのようじゃ。前に会った時も似たような予言をしておらんかったか?

 本当にそんな能力があるのか疑わしいところじゃ。


「私が活躍することでこの治世を盤石に出来るらしいわ」

「は? 滅亡の間違いじゃろ」

「また斬られたいのかしら? そもそもティーよりはましよ」


 それもそうかと納得しかけたところで、本題から逸れていたことに気づく。


「それでその予言で何故アシーを隠すことに繋がるのじゃ?」

「敵が多いのよ。特に第二王子の派閥。あの害悪さえいなければ、今頃継承権放棄して姉さまの補佐に回っているわ」

「お前はまた、そのようなことを……。メリティスはお前を王にすると意気込んでおったぞ」


 見事な押し付け合い! わかる。我も押し付けたい!

 アシーが二国とも管理してくれんかの?

 その瞬間アシーにギロリと睨まれた。それはもう人を呪い殺せそうな目で。


「とにかく、今の私は表立って歩けない状態なの。ただ、それだと限界があるから普段は騎士団長の娘として過ごしているわ」

「なるほど、男爵令嬢とはそういうことか」

「元は平民で派閥に属していなかった彼が預けるのに一番だと判断した。人格の方も問題ない」


 粗方の事情は把握した。我が契約者は実に厄介な状況にあるらしい。

 さて、話も終わったし帰ろう! 今すぐに!


「逃がすわけないでしょ? ここまで話したんだから付き合ってもらうわよ、ティー」


 ガッシリ肩をつかまれ身動きが……出来なくもないが、アシーの気迫を見ると抵抗する気が失せてくる。


 じゃが、ここで頑張らんと後々面倒なのじゃ。

 そうやって気合を入れようとした所で悪魔の囁きが聞こえてきた。


「公務、これからも手伝って欲しいんでしょ?」

「イエス! マム!」


 勢いよく返事した我は件の男爵家へドナドナされていった。これ国際問題では?

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