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くれるとは一言も言っていない

作者: さとう あか
掲載日:2022/05/14


 「このダイヤの指輪、あなたにも似合うと思うのよ」


 どんな会話の流れでそうなったのかは覚えていないが、母はそう言った。


 「そんなことありませんわ、お母様に一番お似合いですわ」


 そう言ったら母の機嫌が悪くなった。

 なぜだ。


 


 数日後、父から連絡があった。

「母の指輪もらっておけ」とのことだった。

 なぜ?どうして?

 疑問しか浮かんでこない。


「お前の誕生日が近いからプレゼントにって」


 だから母自身が現在使っている指輪をくれると言うことなのだろうか。

 だったら私の欲しいものをくれよ、もしくは新しいものをくれよ。

 そう思う私は我儘なのだろうか。

 それよりも。

 

「新手の嫌がらせですか?サイズ全然違うのに」


 私はそうしか思えなかった。


 サイズが違う。

 母の方が指が細いのだ。

 そのことで昔よく言われたものだ。

「私はあなたより指が細くてきれいでしょう?」「あなたのサイズの指輪は探しにくいわねえ、私とサイズが違うから」飽きずにネチネチと。それは今でもはっきりと覚えているほどに。

 

 そうしてきた経緯があるので当然母は、サイズのこともわかっているはずだ。

 もう、私は嫌がらせとしか思えなかった。むしろ、それ以外に何かあるのだろうか。


「母さんはそんなつもりはなかったと思うぞ」


 そうだとしたら余計にタチが悪い。

 ネチネチ言ってきたことが母の中ではないことになっているのだから。


「そうですか、ではお気になさらずとお伝えください」


「…そう言うな。母さんはお前に何かプレゼントしたいと思っているんだ」


「お父様、何か勘違いされていませんか?

 私はお母様から『あなたにも似合うと思う』と言われただけですよ」


 というか、私は母から「あげる」とは一言も言われてはいない。

 あなたにも似合うと思う、と言うなんとも微妙な言い回しをされただけで。


「誕生日プレゼントに何が欲しいか?

 なんてことは一言も聞かれてはおりません」


 ここまで言うと父も諦めたのかため息をつき「わかった」と呟いた。


 ようやく諦めてくれた。

 父には申し訳ないが、母の説得を頑張ってもらおうと思う。


 誕生日プレゼントというのなら私が以前褒めちぎっていた翡翠のブローチをくれてもいいのに。

 そんな考えが浮かんだ。

 今日はとりあえず、そんな図太い自分に乾杯しよう。


 

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