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 その後、結局このまま一回都内に帰ろうって話になった。藤田さんも、帰省中だけど遊びに行こうって話になったんだ。

「連絡つく子達と、ご飯でも食べようよ」

「あ、じゃあいいお店知ってるよ。居酒屋だけど、料理がおいしいの」

「お、いいねえ。お酒入るなら、一旦車は返さないとなあ。これ、レンタカーだから」

 通りで見覚えのない車だと思ったよ。和美ちゃんちもうちも、車がないと生活出来ないから、免許取れる年齢になったら、すぐに取ったんだよなあ。

 だから、一応私も車は運転出来る。下手くそだから、兄にも和美ちゃんにも、運転はするなって言われてるけど。

 レンタカーを返して、携帯で連絡を取って集まれる人だけで、藤田さんお薦めの店に向かった。総勢七人。いきなり声をかけた割には、集まった方かな。

 問題は、和美ちゃんの友達だから、怖い話好きが揃っちゃった事。これまた、嫌な予感。

 しかも居酒屋は個室が使えた。これもう、絶体怖い話するパターンじゃんかー!

「和美ちゃん、恨むからね」

「まあまあ。その代わり、いちま様の事は話さないから」

 それは当然です。てか、一度部屋に戻っていちま様、戻してくれば良かった。いつもなら、いちま様の方から戻せって主張してくるのに。

 変なの。でも、連れてきちゃったからには、放り出す訳にもいかないし、このままでいっかー。

 一緒に個室に入った子達も、気にしていないみたいだからいいよね。

 とりあえず、私にとっての問題はいちま様ではなく、これから始まるだろう怪談の方だよ!

 結局、個室での怪談は大いに盛り上がり(私以外に)、その日、誰もが満足そうに家路に就いた。

 一つ、気になった事がある。怪談の最中に、いちま様が小さなゲップをした事だ。

「うーん」

 帰りの電車の中で、その事だけが引っかかったけど、多分怪談に引き寄せられて何かよくないものが、あの場にいたんでしょう。

 そう、思う事にする。


 そのまま何事もなく夏休みは過ぎていって、お盆休みに入ったので実家に帰った。もちろん、いちま様も一緒。

 実家に帰るといちま様はおばあちゃんの部屋に行くので、久しぶりにのんびりしてる。

 そこに、和美ちゃんが遊びに来た。

「み、みいちゃん!」

「どうしたの? 顔真っ赤にして」

 うちに来た和美ちゃんは、何やら凄い興奮してる。何か凄い事をしちゃった! って感じが、全身から溢れていた。

 犯罪じゃないんだろうけど、大発見したぞ! とでも言い出しそうな雰囲気。

 和美ちゃんはうちの母に挨拶した後、私の部屋に来た。

「みいちゃん! 瑠璃さんの事、憶えてる?」

「瑠璃さんって……藤田さんの事でしょ? あの、かくれんぼの話をしてた」

「そう! やったー!! みいちゃんなら、絶対憶えてるって思ったんだー」

「どういう事?」

 和美ちゃんの言ってる事が、よくわかんない。

「みいちゃん、よく聞いてね?」

「う、うん」

「あの日、瑠璃さんの家に行った日、憶えてる?」

「もちろん。先月の事じゃない」

「うん。で、彼女の家に行った後、都内に戻って皆で居酒屋行ったのも、憶えてるよね?」

「当然でしょ? 何なの? さっきから」

 本気で和美ちゃんが何を言いたいのか、わからない。ちょっとイラッとしてきた時に、部屋のドアがノックされた。

「美羽、ちょっといいかい?」

「おばあちゃん? どうしたの? あれ、いちま様」

「うん、いちま様がね、あんたのところに行きたいって」

 ……何だろう? 嫌な予感。

 おばあちゃんからいちま様を受け取って、和美ちゃんの前に戻る。

「そういえば、あの日はいちま様も一緒だったよね。杏里のケーキ、満足してもらえたかなあ?」

「うん、夏限定、メロンショートのホール、ご満悦でした」

「良かったー。あの大きさで四千円だもんね。でも、いちま様がこの話をしている時に、みいちゃんの側に来たって事は、やっぱりそういう事か……」

「和美ちゃん、さっきから何言ってるの? さっぱり話が見えないんだけど」

「うん、あの居酒屋の時ね、他の参加者、瑠璃さんがその場にいなかったっていうの」

「え?」

「それどころか、瑠璃さんって人を知らないって言うのよ」

「はえ?」

「でね、私も、どこで瑠璃さんと出会ったんだっけ? って思い出そうとしたんだけど、ある飲み会の時に知り合った、って事しか思い出せないんだ」

「か、和美ちゃん?」

「それでね、その時の飲み会を主催した人に聞いたら、あの日の飲み会に、飛び入りで傘下した人はいないし、参加者は全員主催者が把握してるって言うの。でね」

「まだあるの!?」

「その参加者の中に、瑠璃さんの名前、なかった」

 勘弁してよー!!

「じゃあ何!? あの藤田さんって、何者なの!?」

「私もそれを確認したくてさ。以前、瑠璃さんの家に行ったでしょ? 同じ道を辿って、彼女の家に行ってみたんだ。そしたら」

「そしたら?」

「あの家、なかった」

「はいいいい!?」

 家がないって、どういう事よ!

「正確には、違う家があったの。私達が見たあの家は、どこにもなかったのよ!」

「待って待って待って、それ、どういう事?」

「それと、あの神社にも行ってみたんだけど、やっぱりというか、神社もなかった。空き地だったの」

 そんな……あの時見た、あの古い社も消えてなくなってるの?

「普通、神社がなくなるって、大事じゃない? 近所に住んでるっぽい人に聞いたんだけど、あの神社、もう十年以上前に取り壊されてるんだって。その理由がね、神社で殺人事件があったからだっていうの」

「さ、殺人?」

 やばい、本当に嫌な予感がする。

「殺されたの、小学生の女の子だったんだって。赤いスカートをはいた、髪の長い子。でね、その子、かくれんぼで遊んでる最中に誘拐されて、死体で見つかったらしいの。死体発見現場が、神社の境内」

 ひいいいいいい。

「も、もしかして、その女の子が……あ、藤田さんも、あの日赤いチェックのスカートはいてた!」

「そうだっけ? だとすると、いよいよその女の子は瑠璃さんかもしれない。被害者の名前まではわからなかったんだけど。どうやら、あの住宅街に引っ越して間もない子だったらしく、近所の人達もよく知らない子だったそうなの」

 誰にも知られていない、赤いスカートをはいた女の子。かくれんぼ。キーワードが揃っちゃったじゃない!

「あー、でも良かった」

「何が!?」

「これでみいちゃんまで瑠璃さんの事、憶えていないって言われたら、私の頭がおかしくなったのかも、って気が気じゃなかったのよ」

「そこ!? そこなの!?」

「いちま様も来てくれたし、私としてはちょっとすっきりした」

「私は全然すっきりしない。……あ、でも」

「何?」

「あの居酒屋の時、いちま様がゲップをしたんだよね……」

「……それって」

「……そういう事、なのかなあ?」

 いちま様は、「悪いもの」を食べてしまうらしい。そして、食べ終わった後は、必ず小さなゲップをするのだ。

 そういえば、神社で赤いスカートの女の子に出会った時、いちま様が吸い込んじゃったけど、ブーイングされたっけ……

「ん? どうかした?」

「うん、あのね。あの神社に行った時、赤いスカートの女の子に出会った……と思うんだけど」

「え? 本当に!?」

「うーん、本当かどうか、今となっては怪しい感じ。でね、その時、女の子をいちま様が吸い取っちゃったんだけど」

「吸い取った?」

「そうとしか、表現出来ない……で、その時、いつものゲップじゃなくて、ブーイングが来たんだ」

「いちま様としては、満足出来ない相手だったという事なのかな?」

 そうなのかな……もしくは、美味しくなかったとか?

 悪いものがおいしいのかどうかはともかく、いちま様が食べるものに満足していると、ゲップが出るらしい。

 ちなみに、お供えするスイーツが気に入ると、夜の夢でゲップが聞こえるのだ。和美ちゃんが持ってきてくれたメロンのショートケーキも、お気に召したからかゲップをしていたし。

 それにしても、あの家に上がった記憶も、しっかり残ってるんだけどなあ。あれも全部、幻覚か何かだったの? うーん、わかんない。

「とりあえず、ちょっとすっきりしたからいいや。じゃあ、私はこれで帰るね?」

「うん、また新学期にね」

「学校は違うけどね」

 笑いながら帰る和美ちゃんを見送って、部屋に戻ったら、腕の中のいちま様が小さなゲップを一つした。

 えー……


 その夜、寝ていたらどこかから小さな女の子の声がした。

「遊びたかっただけなのに……あのお人形、私嫌い」

 最後の方は、子供にしてはもの凄くドスの利いた声だったけど、小さい姫と一緒に声も消えた。

 その後、またしても小さなゲップが聞こえたけど、もう気にしない。今回のいちま様は、大変満足されたようだ。

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