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EAGLE GUY:NANO BURST  作者: こたろう
ナノバースト
6/8

PART1

 もう起きて、寝坊助さん――血のように赤い世界でカメラのシャッターを切るように繰り返される明滅の合間に挟み込まれるのは、いつかの記憶。そこに響いた懐かしい声に導かれ、スパイクの意識は浮上を果たした。


「あっ、起きた起きたっ。ちょっと、ナルミ姐ちゃーん!?」


 そして見たのは日本人と思しき少年。スパイクの覚醒に気付いて彼が上げた声がいやに頭に響いて、スパイクは顔をしかめてうめき声を上げた。


「うわっ、ごめん! ちょっ、えっと……」

「わたし、呼んでくるっ」

「ありがとっ……ええっと……」


 久しぶり――少年はスパイクの顔を見下ろすと焦って汗の浮いた顔をして彼にそう告げた。心当たりのないスパイクが怪訝そうな眼差しを少年へと向けると、少年もまた目を丸くして首を傾げた。

 無言の時間が続き、仕方がないとスパイクが口を開く。


「どっかで会ったか?」

「あの、覚えてない?」


 だが気不味い沈黙を破る決意をしたのはスパイクだけではなかったようだ。少年も彼と同時に口を開いたものだから、二人の質問がぶつかり合ってまた二人とも口を噤む。

 スパイクはますます眉間のシワを深くし、少年の顔はますます汗ばむ。


「どっかで」

「覚えてる?」


 またも言葉がぶつかり合い、スパイクは呆れて彼方を向き少年は顔を伏せてしまう。いい加減にするべきだとすかさずスパイクは「お先にどうぞ」と郷に入っては郷に従え、少年に質問する機会を譲るが、そもそも郷に入っている少年もまた同じことを言ってしまう。しかも同時だった。

 わざとかと少し目つきを険しくしたスパイクが少年を見ると、彼は遂に両手で顔を覆ってしまっていた。スパイクはため息を一つ吐いて、それから言った。


「悪いけどなボウズ、俺はおたくのこと知らない」

「ホント? だってニューヨークで一緒に……」

「ニューヨーク? いつの?」

「海からでっかいピラミッドが出てきたとき……」

「……どこにいた?」

「ピースメイカーの隣……」

「バンブルビーみたいな色してた?」


 顔を隠しながらも頷いた少年にスパイクはようやく思い出すに至り、気が抜けるような声を上げる。

 いたなそういえばと次いで言い、カーテンが閉められた窓の方を向いてまたしばし沈黙する。少年も次第に落ち着きを取り戻したようで、まだ多少気不味さは残しながら手を退けスパイクの様子を窺った。


「ここ、お前ン()か? 良いとこ住んでるな」

「正確にはナルミ姐ちゃんの家だけどね。住まわせてもらってる」

「ナルミ姐ちゃん……?」


 私のこ〜とっ――元気良く声を上げ、スパイクの疑問に答えるようにしてやって来たのは背の高い、艷やかな黒髪を一つに結った黒服だった。

 見た目は女性のようであるが、その声は男そのもの。しかし口調は女性らしさがある。その姿を見てスパイクの目が見開かれた。


「あんた、M.I.B.の……」

「私のことは覚えててくれたんだ? ちょっと感激」

「俺、どうなった?」


 少年のこととは違ってスパイクはナルミという人物を知っていた。名前までは知らなかったもののその調子は容姿共々、その存在感を強く人に印象づかせる。

 確かに“あの日”、ナルミという存在はニューヨークに居た。


「ボコボコにされて……」

「ボコボコ?」


 ナルミに代わって少年がスパイクの疑問に答えようとして、しかしそのスパイクが彼の言葉を復唱して聞き返した。

 困った少年がナルミへと目配せすると、肩を竦めたナルミが手鏡をポケットから取り出してスパイクへと向ける。そこに反射して写ったのは掠り傷とガーゼに塗れた、痣ばかりの痛々しいスパイクの顔であった。


「……悪い、強がった。確かに俺はあのガキにボコボコにされた」

「腕も折れてるし」

「アーマーもお釈迦ね」


 鏡に写った自らの情けない姿から目を逸らし、しかし事実を認めたスパイクから重々しいため息が一つ。

 そんな彼に対し、少年は一つ忘れていると彼の固定された左腕を指差す。さらにはナルミももう一つ忘れていると、開け放たれている扉の向こうに見切れている何か鉄屑のような物体を指差し言った。スパイクのため息は二つになった。


 やがて痛む体に鞭を打ち、呻きつつも寝かされているベッドから上体を起こしたスパイク。彼は改めてナルミの狐のような顔を見上げると訊ねた。


「あのガキは? レプタイルとかも……」

「みーんな、姿くらましたわ。天下のイーグルガイ様がいいザマ」

「……ったく、いいようにしてやられたぜ」


 何かを知っているらしい二人の様子に、唯一何も分かっていないらしい少年は眉をひそめた。そしてスパイクの態度はどういうことなのかと彼がナルミに訊ねると、代わりにスパイクが口を開くのだった。

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