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EAGLE GUY:NANO BURST  作者: こたろう
鋼鉄の翼
5/8

PART5

「冗談よせよ、ありゃガキだ」

「そうですよねえ、貴方は子供は殴れない。敢えて塩を送りますけど、それじゃあ貴方――」


 死にますよ――少女から視線を逸らし、嘲笑うレプタイルへとスパイクが意識を向けた刹那、ぎょろりと左目だけを動かしたレプタイルの視界から少女の姿が消え失せた。

 そして彼の右目には少女の右拳を辛うじて防いだスパイクが、しかし少女の力に堪えきれず地面に叩き付けられる光景が映る。


 少女はそして、己の足元にひれ伏したスパイクを蹴り上げる。彼の超重量はサッカーボールのように軽々と虚空に浮かび上がり、追撃で繰り出された少女の拳で今度は大きく吹き飛んだ。

 通りを弾むスパイクは三度目のバウンドで推進器を噴かし、翼を広げて空へと舞い上がる。


「ああっ、クッソッ! このバルチャー様のボディに傷が付きやがったぞヘボスパイク。油断してんじゃねェ!」

「速すぎる、超人かっ?」

「ただのガキだ、ニューヒューマンですらねェよ」


 どういうことかとスパイクがバルチャーへと問い掛けようとする。しかしそんな暇は許されず、飛翔するスパイクを認識した少女が纏うスーツが変化を起こした。それまで存在しなかった噴射口が全身に生じ、そこから蒼白い光を放ち少女は翔ぶ。


 マジか――その光景を前にスパイクが驚嘆を上げた。少女の飛翔速度は凄まじいものであり、スパイクは急ぎ羽撃き出力を上げて距離を取りに出る。しかし少女は彼に迫り続けた。

 逃げ切れないと判断し、背部の装甲を展開しスパイクは止む無くフレアと呼ばれる赤外線誘導などで目標を補足する兵器を撹乱するための兵装を使用した。無数の閃光弾が放たれ、それは少女の視覚を覆い尽くすはずであった。


「ふざけんなっ」


 しかし閃光のただ中を少女はスパイク目掛け正確に追撃。彼女の頭部にはそれまで存在しなかったはずのヘルメットが着装されており、橙色に輝くゴーグルがフレアの熱と閃光から少女を保護していた。

 さらに出力を増し、少女の追撃から逃れんとするスパイク。彼が纏うパワーアーマーの空中戦闘能力は非常高い。しかし少女の速度と機動性はそれを凌駕していた。

 鋼鉄の翼を用いた鋭角的な軌道に、だが少女は遅れることなく追従。やがて追い付いた少女の拳が握られる。そこには無数の突起(スパイク)が現出し、同時に新たに腕に生じたロケット推進器が点火。凄まじい加速力の爆発が拳に加わり放たれる。


 片翼を内側に折り込み盾とするスパイク。その直後衝撃と、そして破壊音が響き、彼の展性合金の翼はまるでトタンかの如く少女の小さな拳に突き破られていた。

 腕を組み合わせ作り上げた十字の防壁。そこに打ち据えられた拳は装甲を歪ませ、その内側に庇護されているはずのスパイクの左腕の骨格をさらに砕く。前腕の中程からくの字に曲がった左腕に悲鳴を上げながらスパイクの体は宙空を突き飛ばされる。


「ドアホッ! テメェ、マジに死ぬぞクソバカがッ」

「……ッ……バルチャーッ!!」

「いつだって世界のシンリってヤツァ、ヤるかヤられるかだぜ」


 背部へと巨大な加速器を造り上げた少女の華奢が追撃の飛翔を行う。だがその刹那、その姿を巨大な青い光が襲い弾ける。少女はビルの壁面へと叩き付けられ、埋め込まれる。

 地上で傍観していたレプタイルの両目がぎょろりと片方に寄り、瓦礫の中から顔を覗かせた少女の橙色のゴーグルが同じ方を見た。


「……胸くそ悪ぃぜ、クソ!」


 ガキに銃口なんざ向けさせやがって――その先にいたのは風穴の空いた片翼を羽ばたかせ浮揚するスパイク。そしてその右肩から覗いた、青白い輝きを燻らせる砲口だった。

 フューザーキャニスターと呼ばれる、パワーアーマーの原動力であるリアクター内部の核融合により生じたエネルギーを照射する兵器である。これはバルチャーアーマーが内蔵する兵器群の中でも特に強力なものであるが、同時にエネルギー兵器ということもありその威力は調整の融通が利く。


 スパイクは腹の奥底から湧き上がってくる不快感から生じる嘔吐感を抑え込みつつ、復活し再び向かってくる少女へとその砲口を向ける。そして思考のトリガーを引くと、威力を低く調整しているおかげでキャニスターから青い光弾が連射された。


「オイオイオイッ、スパイクちゃんよォ? そんなヘボな威力じゃ蚊も殺せねえだろォがよォ。もっとガン上げしようぜ。あんな小娘、一発で蒸発よォ!?」

「黙ってろ!」


 しかしバルチャーの言うことは正しい。キャニスターから発射された光弾を、最初こそ吹き飛ばされた初撃のこともあって回避して攻めあぐねていた少女であったが、回避しきれずに防御したのを皮切りに程度を見切られ回避も防御もせずにスパイクへと突っ込んでゆく。


 少女の右腕が刃へと変じた。どうやら少女の纏うスーツはその形状を自在に変えることが可能らしい。スパイクは急接近する少女を退けるべく、キャニスターの状態を切り替え光線を照射した。

 だが少女はまるで恐れ知らずに光線を甘んじて受け止める。彼女のスーツにより弾かれた破壊の光が周囲に拡散しビルディングや車たちを引き裂く。加減しているとはいえ、それでもそれだけの威力があるのだ。

 けれどそれをものともしない少女の突き出した刃がスパイクの右肩に深々と突き刺さった。その鋭利さは頑強なパワーアーマーの装甲を紙切れのように切り裂く程だった。


 肩から生じる激痛の中、如何なアーマーの庇護下にあるとはいえキャニスターの放つ閃光を前に、またはこれを用いるような戦闘の殺伐を前に一切として怯えたり、怯む様子を見せない少女の様子にスパイクは違和感を覚えていた。

 勇敢だとか蛮勇などとは違う感覚。その感覚にこそ眉をひそめていたスパイクは、その一瞬の内に空から引きずり降ろされ地面へと叩き付けられる。


 クソ――思わず悪態が零れた。この悪癖を咎めるものはもういない。

 スパイクに馬乗りになった少女は肩に突き刺した刃で彼を抑え付け、残る左手に拳を作るとそれを振りかぶった。

 するとバルチャーが制御を乗っ取り、キャニスターが少女の頭部を照準。出力を上げて放たれた青い閃光が狙い通りの箇所に命中した。少女の体が大きく仰け反る。


「おいっ、てめぇバルチャー!」

「ギャハッ、まだ終わってねェぞッ」


 勝手をしたバルチャーへスパイクが叱責を叫ぼうとするが、彼の言葉を遮ってバルチャーがアラートを鳴らした。スパイクが注意を戻すと、そこでは残光の中、砕け散ったヘルメットの奥から黒い瞳を覗かせた少女が仰け反った体を引き戻しまた拳を振りかざしていた。


 スパイクの背筋が凍り、依然として制御がバルチャーの手中にあるキャニスターが今度はヘルメットから覗く生身の少女を狙った。それに気付いたスパイクがバルチャーから制御を奪おうとするが遅かった。その前に射出された少女の拳がキャニスターの砲口へと飛び込み、内部機構を鷲掴みにして力任せにキャニスターを引き千切ったのだ。


「fuuuuuckッ、このバルチャー様のイチモツをテメェこのクソッ、クソクソクソッ! ブッ殺すッ、このクソガキがァッ!!」


 損壊した少女のヘルメットは瞬く間に修復され、その光景にスパイクは目を見張る。彼女に殺しを躊躇う様子は無い。危機感を募らせたスパイクは両手の五指に備わった衝撃波発生器を少女の腹部に押し付けるとそこから指向性衝撃波を放つ。

 瞬間的に強力な圧力を受けた少女の上体が再び仰け反り、その間にスパイクは推進器の出力を最大にし下敷きから逃れた。


 彼はそのまま飛翔し、少女も追い縋るべく宙へ舞う。スパイクは半狂乱に陥るバルチャーを宥めつかせつつ、右腕前腕にある投射器からEMPディスクを発射した。

 破壊力の無いそれを銃口さえ怖がらない少女が怯むはずもなし。ディスクは振り払おうとした少女のスーツの右腕部に付着し、それを確認したスパイクはEMPを起動。少女のスーツが全身に作り出した推進器からの光が途絶えたが、それも一瞬。電磁パルスによる被害は無に等しかった。


 迫る驚異に右拳を振るうスパイク。しかし少女はそれを片手で容易くも受け止めると捻り上げ、逆に怯んだスパイクの顔面を殴り付けた。

 衝撃が突き抜け、スパイクの目が裏返る。そこへ少女の追撃が迫り、二度、三度とスパイクは彼女の拳を頭部や腹部に受けた。その度に装甲はひしゃげ、彼の肉体は悲鳴を上げた。


 驚異的な打撃を前になんとか意識を繋ぎ止めるばかりのスパイクはこの場からの一時撤退を、飛行速度からして劣っていることすら忘れて選んだ。

 少女の腹部を蹴り付け、その反動で勢いを得ると彼は背を向けて飛び出す。しかしすぐに少女の追っ手は掛かり、彼の背に備わった両翼を掴んだ少女はスパイクの背中に足を掛けると、鋼鉄で出来たなにより頑丈に出来ているはずの翼を左右共にへし折り引き千切った。


 落下してゆく主無き翼。各部の推進器で飛翔を続けるスパイクであったが、翼を無くした彼は、イーグルガイはもはや少女から逃れる術を持たない。

 宙空でその身を少女により翻され、首を左手で締め上げられたスパイクは迫った右拳を見た。

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