七行詩 1.~20.
オリジナルコンテンツの七行詩から
1番~20番までを掲載させていただきます。
『七行詩』
1.
幼子が 泣くとて頭を 撫であやす
母の心は よろずを申す
僕も 子どもたちのように
笑い声も 泣き声も
よく似ていたというのだろうか
だからあなたは気づかない
僕が欲したのは ほんの小さな優しさだと
2.
「お元気ですか」と尋ねると
「とりあえず」と返ってくる
長い間繰り返されたやりとりだ
私はあなたの疲れを 取り除くことができず
何を守るために 何と戦うのか
或いは 何から逃れようと走るのか
知ることは叶わないのだろうか
3.
国語が苦手な方だった
答えは見つからなかったから
人の気持ちを分かろうとするなら
難しく考え込むことじゃなく
目の前のサインを見逃さないこと
それは優しくなることより難しく
だけど とても単純なこと
4.
言葉は作り出せるから
僕らは平気で嘘を吐く
飾った言葉は 美しく並んで歩いていた
優しい笑みで 騙し合っていた
そんな僕らには
割れた鏡に映る素顔が
なんてよく似合うんだろう
5.「リトル・ガーデン」から
君だけが 崩れゆく世界を見つめていて
僕だけが 共感できたとして
世界に二つほどの悲しみが
いったい 何を奏すというのだろう
どんな暗闇の世界でも 変わらず 認め合い
抱きしめ合おう 僕らは隠れ家で
避けようのない嵐から 互いを庇うように
6.
光を浴びれば 影は降りて
浮かぶこの身は晒される
鼓動を感じ、呼吸を数え
その光に立ち向かうのか
自らの影に逃れるのか
僕らは試されることになる
奮闘を演じ、存分に味わえ
7.
君は優しくなる度に
少しずつ壊れていくような気がした
僕は知らないフリはできず
だけど 傍で見守ることしかできない
「君が居てくれればいい」と
もちろん僕は味方だよ、と
枕元で目を閉じる 君の髪を撫でていた
8.
荒れた野原に 一筋の跡
かつて誰かが通った道だ
僕は知っていた
行き着く先には もう誰も居やしないことを
導かれるままに
自分もまた 新たな足跡を残しながら
君が追って来ないことを 祈っていた
9.
集め直そう
足下に散らばった 思い出の切れ端を
強く在ろう
女神様が いつ微笑んでくれてもいいように
そして 証明され 肯定されるのは
全てが間違いのようで
全てが正しかった 僕らの日々
10.
兆候というものが僕を訪ねると
思わぬ役に身を割かせた
得たものは 既にこの手に無く
変化はどのように働くのか
何度も繰り返した終わりへと向かうのか
他に僕を迎える場所はない
安らぎをもって 僕を迎える場所はない
11.
僕が乗るはずだった電車は
とっくに過ぎていったけど
遅れて顔を出す君を待つには 丁度よかった
否、僕らが惑星だとしたら
君は僕の内側を 一足先に駆け抜けていった
だから またいつか重なる日まで
僕は歩くような速さで 進んでいればいいね
12.
口を開けば 間違いばかりだ
自分の無実を証明するために
他人の揚げ足を取るような
真実と称した言い訳が またこの身を汚す
君みたいに
呼吸をするように 嘘を吐けたら楽だろうね
僕はその優しさに 何度でも騙されてしまう
13.
真冬の空は高けれど 澄んだ輝きに魅了され
夜の静けさに壁はなく
どこかで見上げ歩く あの靴音を
すぐ傍に感じることさえあった
もう茶匙ばかり 歩いていたいけど
風邪をひく前に「今日はここまでだね」と
「またね」と 遠くあなたに手を振った
14.
期せずして めぐり逢いては 蓮の花
人世一夜に 移りゆけど
過ぐとも去らぬ 時の御影に
遅れ馳せ気づく 節目の途
別れは 人が選ぶこと
雪路の先待つ 春風の中
私は貴方からも 卒業できるだろうか
15.
鳥たちは 一つ終わりを 迎えるたび
その身の在り処を 移していく
日だまりであり 止まり木であり
安らぎであった君の瞳に
痛みを思い出すことはなかった
けれど その胸の中に 一つさえ消えぬ約束を
残すこともできなかったのだ
16.
この涙は貴方を癒すため
貴方のためにあるのです
渇いた大地に染み渡るように
アジサイの花を潤すように
空が心を映すなら
この雨が止むことはないでしょう
いつか笑顔で帰り来たる 貴方を迎えるまで
17.
君の指は 盤上の針のように 細く
終電の刻を知らせていた
僕は ゼンマイの切れた時計を演じ
一度は その目を逸らせても
時を止めることはできなかった
困ったように 君は笑うと
「もう少しだけ、歩こうか」と言った
18.
故郷に 帰りて見えし 待ち人の
迎え出でりは 我こそならず
君が名を呼ぶ 我が声は
夜露に濡れし 芒野の
枯れ至る間に 吹きし風の音
返しの歌は 響くことなく
聞かれぬ文を 只重ねつつ
(故郷に帰って 待ち人が迎えてくれるのは
私だけではないでしょう
貴方の名前を呼ぶ 私の声は
夜露に濡れる 枯れたススキの野原を
風が吹き抜ける音のよう
貴方が返しの歌を詠んでくれることはなく
私は届かぬ便りを 重ねるばかりです)
19.
人に道を尋ねられ
「ありがとう」が返ってくると
道を聞きたいのは自分の方だ、と
私はどこに向かえばよいのですか、と
いっそ尋ねてみればよかったろうか
いざ向かうべき場所を知ったところで
道中 道草を食うのは 変わらないのだろうか
20.
冬の夜風は 斯くも冷たく
熱を冷ますには 丁度良かった
けれど貴方が 咳をする度
私の心は 裂ける思いです
眠る貴方に 毛布をかけて
全て引き受けてしまえたら
明日も変わらぬ微笑みを 守れるでしょうか