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36 エピローグ(後日談)

 最後に東京に戻ってからの話をしよう。


 さやかは俺の勤務する高校に転校してきた。編入試験で「替え玉」が行われたかどうか、俺はあえて訊ねなかった。


「夏休みの間、めっちゃ勉強したから!」


 合格後、少女は得意げに胸を張ったが、夏休みの一か月で、偏差値が38から20以上も上がるって、どんな勉強法だよ。


 試験の結果を見たウチの教師陣は「現役で東大も狙える」とがぜん色めき立った。なお、実際にその点数をとった妹のこずえちゃんは、別の私立高に、学費免除の特待生待遇で通学している。


 二学期、転校してきたさやかの髪の色は、金髪から黒になっていた。もちろんカラコンも外していた。一瞬、妹のこずえが替え玉で登校してきたのかと疑ったほどだ。


TEPCO(テプコ)は大事だからね」


 さやかは言っていたが、たぶん「TPO」と言いたかったのだろう。TEPCOは東京電力だ。


 転校生のさやかに、男子生徒たちは別の意味で色めきたった。アイドル顔負けの正統派の美少女、しかも猫を被っていたからモテまくった。


 だが――ほどなく、その虚像が壊れる事件が起こった。

 

 そう、元婚約者の彩香がらみだ。


 俺との経緯もあって、もともとソリが合うわけもなかったが、服装の乱れ(スカート丈を短くしていた)を注意されたのをきっかけに、さやかの怒りが爆発した。


 他の生徒や教師がいる場で、


「なにが風紀を乱すだ。うるせえんだよ、このヤリマン女! おまえが佐々木と校内でヤリまくってんの、みんな知ってんだよ! ところかまわず発情しやがって、てめえがいちばん風紀を乱してんじゃねえか、ババア!」


 とすさまじい勢いで罵声を浴びせた。


 ちなみに、佐々木というのは俺の後輩で、俺から彩香を寝取ったヤリチン教師だ。


 みんなあっけにとられていた。それまで清楚な美少女とか、天使とか、さやかの君、なんて呼ばれていたのだ。

 偶然、その場に居合わせた俺は、やっぱりビーストの娘だ……と思わずにいられなかった。


 真っ青になった彩香だったが、そのときにはすでに、スマホで盗撮された、校内で行われたと見られる彩香と佐々木の情事がネットに流出していた。


 その映像は、学校の上層部の知るところとなり、動かぬ証拠を突きつけられた二人は依願退職を余儀なくされた。


 なお、後に聞いた話では、この追放劇を裏で描いたのは妹のこずえらしい。IQ200とも言われる天才少女は、さまざまな物証を集めた上で、姉にキレてよいとゴーサインを出し、まんまと二人を学校から追い出してみせた。


 そうそう、この話には後日談がある。


 無職になり、酒に溺れたヤリチン佐々木が、逆恨みをしたあげく、学校帰りのさやかを襲おうとしたのだ。


 だが、それもまた妹・こずえの想定内だった。


 護衛をしていたビーストの舎弟たちが、佐々木を返り討ちにした(彼らにさやかは〝お嬢〟と呼ばれている)。ボコボコにされ、たっぷりヤキを入れられた佐々木は、族のバイクで連れまわされたあげく、トランクス一枚で高速道路に放り出された。二度とさやかを襲おうなんて考えないだろう。


 いずれにせよ、そのときの大立ち回りで、〝清楚な美少女〟というさやかの虚像は壊れた。


 男子生徒のファンは減ったが、女子生徒の友達は逆に増えた。どんな進学校にも、ギャルもどきのような連中はいるわけで、さやかは彼女たちの輪に仲間として迎えられた。


 松田千佳さんは宣言通り、ウチの高校に教育実習にやってきた。清純派さやかが消え、失意の底にあった男子生徒たちが、インテリ美人女子大生になびいたのは言うまでもない。


 彼女の登場は、さやかに別の意味で刺激を与えた。千佳さんにライバル心を燃やし、彼女の通う「K大」に行きたい、と言い出したのだ。


 周囲はあ然とした。父のシゲルは「()()替え玉でいいじゃねえか」と言った。だが、さやかは自分の実力でK大に合格したいという。


 それから少女の猛勉強の日々が始まった。


 もともと勉強が嫌いなだけで、地頭は悪くなかったのかもしれない(同じDNAを持つ妹があれだけ優秀なのだから)。


 放課後や週末に、俺が付きっきりで家庭教師をしてやったこともあり、少女の成績はグングン伸びている。このままいけば、冗談ではなく、いつかはK大に合格できるかもしれない。


 父のシゲルは本当にそうなったら、『学年ビリの金髪ギャルが2年で偏差値を40上げてK大に現役合格した話』という、どっかで聞いたような企画を出版社に売り込もうとしている。さて、どうなることやら。


 酒を酌み交わしながら話すと、ビーストはけっこういいやつだった。なんせ同い年だ。トビ職と教師、生きる世界は違うけれども、意気投合するものがあった。今では「シゲル」「コースケ」と呼び合う仲になっている。

 

 シゲルは、しきりに俺とさやかとの結婚をすすめてくる。早く「孫」の顔を見たいのだそうだ。当のさやかも、お母さんになるのが夢だったらしく、まんざらでもない様子だ。


 将来の同居を見越してか、足立区の実家にもよく招待されている。お母さんは料理がうまいし、妹のこずえちゃんも俺になついてくれているので、居心地はとてもいい。


 古いが大きな家に、シゲルの祖父母も同居しているので、一人っ子だった俺は、大家族の楽しさを教えてもらっている。


 ただ、風呂に入ろうとしたら、脱衣場に妹のこずえちゃんがいたこともあったな。さやかだと思って普通に隣で服を脱いでしまいそうになった。いまだに姉妹の顔の見分けがつかない。いつか、とんでもないあやまちをおかしてしまいそうで不安だ。


 他にもいろいろあった気がする。

 とにかく、渚家の人たちと一緒にいると、事件や笑いが絶えないのだ。

 だが、そろそろこのへんで終わりにしよう。


 あの夏、俺の身に起こったことを、今では懐かしく感じる。来年の夏休みは、またさやかと一緒に北海道旅行に行こうと約束している。


 もし、これまでの俺の話に何か感じるものがあれば、みんなもぜひ旅に出てほしい。旅のおともには……そう、オースターの『ムーン・パレス』をオススメしておこうか。

 

 じゃあ、またどこかで。

 See you!


 コースケ

 浩介とさやかの旅に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


 みなさんのコメントやポイントが本当に励みになりました。終盤、話の進行を優先したため、感想にあまり返信できなかったことをお詫びします。これからゆっくり返信させていただきます。


 このお話を読んで、少しでも明るく前向きな気持ちになっていただけたなら、これ以上の喜びはありません。

 

 では、またどこかで。 


 青井青

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― 新着の感想 ―
[良い点] もっと評価されるべき作品だと思うのだけどなぁ。
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