馬鹿
そうして俺は何もしないまま翌日を迎えた。
正直授業の内容も、陽キャ達のくだらない馬鹿話も頭に入って来なかった。
頭の中は昨日の出来事と素朴な疑問で満たされた。
それは時間でもつぶすのにはちょうど良かったのか、気付けば授業は終わり、放課後になっていた。
一気に賑わいを取り戻した学校とは裏腹に俺は更に意気消沈としていく。
俺のわがままな脚は俺の席から離れる事を拒んでいる。
俺の本能が社研部に行く事を拒んでいるのだ。
だけれども行かなけれな行けない。
行かなければ俺が逃げたような気がして嫌だ。
そんなクソみたいなちっぽけなプライドのおかげで俺は社研部に向かう事を決意した。
よれよれの教科書をカバンに放り込み、俺は教室を出る。
物々と中で独り言を言っているとき、中年のどすの効いた声が学校中に響き渡った。
「高2c組の三島さんと尾坂さんと高2b組の城津さん今すぐ生徒指導室に来てください」
ノイズの後に若干の静寂。そしてそのあとすぐに周りの生徒達がその
静寂をかき乱す。嫌になるほど聞こえてくるひそひそ話。
その瞬間俺は焦燥に駆られた。
あれほど俺が長く時間をかけて助けようとした尾坂を
城津がいとも簡単に救いだしたかもしれないという事だ。
それがもし真実だとしたら…
そう考えるだけで胸のどこかがキリキリと痛む。
真実を知ろうとする事を体が拒否してる。
あぁ、まただ。またこの腐った感情。
優しさの欠片もない目も当てられ合い程腐った感情。
「先輩」
一つ綺麗な花のような香りが鼻腔をくすぐった。
勿論その匂いの主は佐野だった。
心配でもしてくれているのか少し声のトーンが低い。
「どうした」
俺は出来るだけ正常心を装い、ぶっきらぼうに答える。
「先輩、なんか変です」
「なんかって何?」
「なんかっていえばなんかです」
「語彙力の欠片もない佐野らしい言い方だな」
「こんな違和感初めて感じるから」
そう言ってさっきの心配したような声で話し掛ける佐野。
本当こいつは馬鹿だ。自分の感情一つ言葉で言いあわらせないなんて…
あ、噛んだ。言い表せない、だ。本当馬鹿だ。
あれ、本当の馬鹿はどっちだ。言い表せない感情
を人に伝えられない、言い表すをまともに発音できない。
そして何より、馬鹿って言ったやつのほうが馬鹿なんだ。
だから、本当の馬鹿は、俺だ。
そう思った時心の中で抱えた何かがはじけだしたような気がした。