台風一過
「壊すってどういうことだよ」
ギャル子は一旦俺たちの方を見回すと話し始めた。
「え、そのまんまの意味だけど?
この部活も、尾坂も、私の手にかかればどうだってできるの。
お分かりぃ?」
ギャル子が発するいつもの声音。
相手をただ挑発するためだけに発する声。
そう分かっていても平常心でいられなくなる。
ある意味流石だ。
「何で、何でそんな事するんですか?」
「何でって、尾坂が笑顔でいることが気に食わないからでしょ」
キっと睨む佐野。
しかしその憎悪に満ちた表情も、怒りも、そのすべてが今は
ギャル子を喜ばせる為のただの材料だった。
口角が上がり、いやらしい表情をしたままギャル子は話しだす。
「じゃ、明日が楽しみだねー。
バイバイ、尾坂」
ギャル子は一方的にそう告げると出ていった。
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ギャル子という嵐が去った後、部室は台風一過の後の綺麗な晴天の空とはならず、
じめじめとした曇り空となっていた。
誰しもが口を紡ぎ話そうとしない。
まぁ、当然といったら当然なんだが…
折角尾坂が調子をとりもどしそうになった後にこれはキツイよなぁ。
というかさっきからチラチラと送られる佐野の視線がウザイ。
何か喋れ、という事なんだろうけど…
まぁしょうがない。なんか喋ろ。
「それで、さっきの奴なんて言うの。俺いまだみあいつの名前知らんから」
「分かりました…」
尾坂は誰も喋ろうとしない今だからこそ聞き取れるような
擦り切れそうな声で俺の質問に答え始めた。
「彼女は 三島 絢。C組のカーストの一番上の人です」
「後一つ。お前がいじめられた原因。聞いていいか?」
「はい…私はいつものように先生の手伝いをしていたんです。
そしたら…先生にこびているとかぶりっ子とか言われて…」
尾坂は俯き、表情真では見えなかったが、泣き出しそうになっていることは
いくら糞みたいな俺でも分かった。
「尾坂さん。気にしないでください。私たちが、社研部のみんなが付いています。
そんな簡単に壊させませんよ」
ドンっと胸を叩き、任せろとでも言いそうな顔で佐野はそう言った。
「そうだよ、私達を頼っちゃっていいんだよ!」
どういう風の吹き回しなのか、社研部に、曇り空に少しの
日差しが差し込み始めた。