社会が生みだした産物
「城津。尾坂がどうした」
息を荒らげていた城津だったが、暫くすると息を落ち着かせて
俺の質問に応えてくれた。
「尾坂ちゃんが、尾坂ちゃんが…」
城津は先ほどまでと打って変わって悲しげな表情をして俯いた。
そしてその声は弱々しく、
自然と尾坂があまり良い状態ではないという事を感じさせた。
「尾坂ちゃんがい、いじめにあって…」
「おい、それで尾坂はどこだ?!」
城津は俺がこんなにも早く食いついた事に驚いたのか
一瞬面くらったような顔をした。しかしそれはすぐに
安堵へと変わり、俺に尾坂について教えてくれた。
「昼までは元気でいたはず。でも、さっき尾坂ちゃんの教室を通りかかったとき
にはもう…事件は起きていて…靴箱を見たけど上靴も外靴もなかったから…
今どこにいるのか全く、分からない」
俺はそれだけ聞くと部室を飛び出した。
まず向かうのは尾坂がいる2年c組の教室。
2年c組の近くまで行くと、そこにはすでに
人だかりができていた。
俺は人だかりの中心。つまり尾坂の机のあたりに
何とか人だかりをかき分けて移動することに成功した。
そこにあったのは、まるで今の社会を具現化したともいえる
醜く、人の心を蝕む兵器となり下がったものだった。
机にはチョークで書かれたと思われる
汚い落書き。そして机の横に掛けられた
女の子らしい可愛い弁当袋にはチョーク粉が
塗りたくられていた。
これを見た瞬間俺の中で黒い渦巻きのような物がうねりをあげたような気がした。
何故かこんなことをした奴の性格やした時の表情、
顔までもが頭に浮かんだ。
次に浮かんだのは一つの疑問。
なぜこんな事をするのか、という。
でもその疑問の答えはいつも大抵決まっている。
嫉妬や妬み。分かってはいるのにどうしてその疑問を抱いてしまう。
人は常に進歩している。らしい。
例えばこの100年間だけで技術は驚くほど変わった。
衛生面でも、学力面でもとにかく進歩した。
それでも全くぶれずに変わらないものが一つだけある。
それは魂とか威厳とかそんなたいそうなものではない。
それはとても小さくて今にもつぶれてしまいそうな
人の心。昔から何も変わらない物。
そしてそれは地球のなかで最も醜いもの。
俺はそれが大っ嫌いだ。
それは他人を決して認めることはせず、ましては
仲良くしようなど少しも思っていない。
自分の気に障るものは何でも消そうとする。
決して自分は強くなろうとしない。
群れて排除しようとする。
それが何百年経っても変わらないもの。
頭ばかりがでかくなるばかりで決して成長しない小さな心。
いっそそんなものそのでっかい頭に押しつぶされてしまえ。
いや押しつぶされたからいじめなんて起こるのかもしれない。
それが今の社会が生み出した産物なのだ。
人だかりが消えて佐野が俺に話しかけるまで
俺はただただそこに突っ立ってそんなくだらない事を考えていた。




