変わる者と変わらない者
台風大丈夫ですか?
家を飛び出してから俺はただがむしゃらに走り続けた。
走っている間はこの世界から誰もいなくなって、俺だけがこの世界
にいるみたいな気がして少しだけ気が楽になった。
しかし実質帰宅部の俺の体力ではすぐに息が切れてしまい、走れなくなってしまった。
そして、俺は消えていく太陽を眺めながらまた一人で公園のベンチに腰かけていた。
もし、もし俺があの両親の子供じゃなかったら俺はこんなにも腐ったような
人間にはならなかったのだろうか。やっぱり環境を整えるだけで人は簡単に
変わってしまうのだろうか。それじゃもし生まれてきたばかりの子供を
ガラスケースに閉じ込め、大人になるまでただ優しい人間になる
という事だけを教えたら何の濁りも見られない純粋な人間にそるのだろうか。
結局幼いころの環境で人間の性格は決まってしまい、そこから
変えることは出来ないのだろうか。けれど少なくとも
奴らは、俺の両親は変わっていた。
仲もよさそうに見えたし、妹も授かった、というような
事も言っていた気がする。
つまり、奴らはあの家庭崩壊の見本のような生活から再婚に至るまで
変わった、という事だ。
よく考えたら何も変わっていないのは俺だけなのかもしれない。
佐野も、両親も、花城も。みんな変わった。
いや、成長した。
変化する環境を恐れずに、成長していった。
そして何も変わらない、成長しないのは
俺だけとなった。
変わらないという事を
しっかりとした信念を持った人、といったらかっこよく聞こえるかもしれない。
しかし俺はそれではない。
信念なんて持っておらず俺に残ったのは
腐りきった心だけ。
それを信念と呼べたなら俺はどれだけ楽になれるだろうか。
結局俺は腐っているとかなんとか理由を付けて
自分を守っているのだ。何も変わろうとしないのだ。
恐れているのだ。変わってしまった時の自分を。
つまり俺はあの腐った大人たちと一緒なのだ。
いや、自覚してる分おれのほうがたちが悪い。
気づけばあたりはすっかりと闇に包まれていた。
その闇は俺が今まで見てきた中で一番汚く、恐ろしいものに感じた。