我思わずして何思う
「お前はいつになったらその性格が治るんだ…」
公民を担当する男教師 横野 秀志 はだるそうにこめかみに手を当てながらそう言った。
「性格について言われましても、そもそも性格なんてそう簡単に変わるもんでもないですし、
まず性格の定義とは何なのか…」
「はいはい、お前の言い分はよくわかったから、それやめろ。」
「言い分ではなくてですね。これはれっきとした意見、主張もとい」
「だからやめろと言っているだろう」
「えー…」
「えー、じゃない。それとこれはなんだ」
横野先生が出してきたのは俺のテストの答案。点数は84点と至って悪くはない点数。
むしろ良いといっていいまである。
「なにって公民のテストじゃないですか」
「問題はそこじゃない。ここの部分。よく目に焼き付けろ」
横野先生はテストの最後の問題、”今の社会に対する意見を述べなさい”という問いに対する
答えを書いた部分を指さす。そこには解答欄をはみ出しそうな勢いで書かれた
俺の意見、主張が記されていた。
「俺の社会に対する考えです。これ程の考えを持っているとジャーナリスト
になれるのではと、自負しています」
「寝言は寝て言え馬鹿野郎。」
「先生、個人の考えを蔑ろにするのはいけないと思いますよ」
「はぁ、もういい。まあそう簡単に性格は変わらないとは思ってたが。」
「というか、いつも思うんですが、なんで先生はそう俺を気に掛けるんですか?」
「お前のねーちゃんだよ。」
「俺の姉ですか?」
「あぁ、お前のねーちゃんだ。お前のねーちゃんはすごかったぞ、
高2の秋ごろまでは学力も素行も底辺だったんだがな、文化祭が終わったころから急に人が変わ
った様になってな。」
「あーあの頃ですか、確かにあの頃の姉はすごかったですね。俺も母も驚いていましたよ」
実際、俺の姉はそこから怒涛の勢いで成績が上がっていき、国内でも最高峰といわれている
難関大学に合格した。ドラマにしたら視聴率結構取れそうな気がする。
金曜の10時枠で。
「あんな生徒は俺の長い教員生活の中でも見たことがない。ほんと俺自身驚いたな」
そりゃそうだ。あんな人間がごまんといたら日本は今とは違う未来をたどるに
違いない。
「まあ、今日はもういい。ほら帰れ。」
「分かりました。では。失礼しました。」
職員室の扉を閉め、自宅への帰路をたどる。
時間は17時帰宅部の俺からするとこの時間にまだ家についていないのは
イレギュラーなことであり、あってはならいことだ。
この過ちは絶対に繰り返さない。絶対にな!
俺は感動的な選手宣誓を済ませ、自由への第一歩を踏み出した
「失礼しますがあなたが上本 光輝 でよろしいですか?」
突然声を掛けられ、振り返るとそこには艶のあるきれいな黒髪を風になびかせた
綺麗な女子校生の姿がそこにあった。
あれ、今もしかして俺変なフラグ立てちゃった?
次回ようこそ社研部へ