第2話 被造物>>>創造主 もはや当たり前よね?
一先ずは部屋の明かりをつけ身支度を整える。
といってもそれもほんの一瞬、≪創造≫の魔法でパっと装いを変える。しかし外出用の可愛い衣装は今は違う。
どこかの漫画で見知った、特攻服とやらに身を包む。
「……こんなものね。さて、無責任な創造主とやらに天罰を食らわせてあげるわ……!」
声の情報から≪追跡≫で座標を探り≪空間跳躍≫で一瞬で転移する。
降り立ったそこは薄暗く書物が乱雑に積み上げられた空間。
唯一の光、PCの画面に集中しているハゲ頭がそこにはいた。
「……ちょっと? あんたが私の世界の創造主? ……ねえ、ちょっと?」
しかしハゲ頭は動かない。ブツブツと画面に集中しキーボードをカタカタと叩いている。
「……≪空間固定≫≪意識掌握≫ こっちを向け、ハゲ」
簡易詠唱と共にハゲ頭は全身と意識を拘束された。ビクっと震わせるが既にどうにもならない。自身の創造物が自身よりも強いというのはありふれた話だ。
強制的に魔神ちゃんの方を向かされ、困惑の顔を浮かべる。
「な……なんじゃお主は!? どうやってここに……いや、はて……どこかで?」
やはりというべきかハゲ頭は魔神ちゃんの事を忘れていた。
しかし思い出しそうな素振りに、魔神ちゃんは慈悲の心で待つ。思い出して反省するならば許してやると……。
「……こないだの、天使会との合コンで会ったかの? いやあ、あの時は潰れちまって……」
「っざけんじゃないわよこの糞ジジイー!! ≪回帰≫≪氷抉≫≪圧壊≫!!」
見当違いの間違いに、殺さないように痛めつける。凍らせて全身をバラバラにし粉々になるまで粉砕し、しかし強制的に元に戻す。
だが当のハゲ頭はケロリと、特に表情を変えてはいない。
「すまんすまん……どうにも、えーっと。……本当に忘れちまったわい。どなたさんじゃろうか?」
「あんたが作った世界の最後の隠しボスよー! 勇者が来る前に終わらせてんじゃないわよ、作った責任取りなさいよね!?」
言われてようやくハゲ頭はハっと何かに思い当たった様だ。
しかしすぐさま顔を青くし、申し訳無さそうに魔神ちゃんに説明してくる。
「さ、さっきの世界の事……かのお? あの世界は……滅茶苦茶容量を食っておってな……。今しがた完全削除を、そのぉ……」
「……はあ? 完全、削除……? それは、どういう意味?」
ハゲ頭の説明に思わず顔が引き攣る。
青くなったハゲ頭は、しどろもどろにボカしながら説明(言い訳)を続ける。
「じゃから、その、な? あの世界はもう完全に……ハッピーに……。終わってしもうてな……。復元とかは、ちょっと……」
もじもじとした説明に、しかし魔神ちゃんは察してしまう。全てはもう消え去ったと、全てはもう戻らないと。思わず全身の力が抜けその場にへたり込む。最後のやせ我慢で涙だけは堪える。
「じゃあ……私の役目は……? もう、あのお部屋には……?」
何も無い漆黒の空間に産み落とされ自身で作り変えた部屋。ただ無為に訪問者を待つだけの空間だったが、数十年の歳月に愛着は育っていた。
それを見てハゲ頭は申し訳無さそうに謝罪する。
「本当に、すまん……。わしも出切る事ならお主に……」
「ぁ、そういうの良いから。 ≪解析≫」
ハゲ頭の同情等は欲しくない。ここに来たのにはしっかりと目的があった。
≪解析≫の魔法でハゲ頭のスキルと習得魔法をリストアップする。
「ほぉー、こんな形でも流石は創造主ね。これと、それと……ぁーこれも、これも要るかしら?」
駄菓子感覚でぽいぽいと、必要なスキルや技能を指でポチポチとタップしていく。
あらかた見終えたところでそれらをまとめて別の魔法で奪い取る。
「まあこんなとこでしょ……≪能力強奪≫、抵抗は無駄よ。
≪意識掌握≫で抵抗値は0……はい、お終い」
無抵抗のハゲ頭から適当なスキルを奪い取る。これで目的は達成された。
当のハゲ頭は口をパクパクさせ表情が固まっている。
「あなたが私を作ったんだから、責任ぐらい取りなさいよ。それも無理な様だから、これが最大限の我慢よ。それじゃ」
もう用は無いと次元に穴を開け亜空間へと滑り込む。
拘束魔法を受けたままのハゲ頭は、それを見ている事しかできなかった。