戦いの中で
魔王軍との全面戦争が始まろうとしていたそんな時、カルマとリマエルは、二人に向けられた不気味な笑いに気づくことができなかった。
「カルマ、全力で行くよ!」
「うん!」
何処か、緊張した声で話す二人、目の前に来た魔王軍に、少しの恐怖を覚える。だが、そんな少しの恐怖による怯みを、待ってくれるものはいなかった。戦いの火蓋が切られたのは、ある天使の声であった。
「天使王直属騎士第二部隊!ここで食い止めるぞー!」
その声とともに、なり止むことのない、長い戦いが始まった。
戦いが始まってから、約三時間、敵の攻撃を躱し、魔法を撃つ。それだけの作業が永遠と続いていた。
「カルマ、大丈夫かい?」
「うん、問題ないよ」
その返事を聞き少し安心する。このまま行けば勝てるかもしれない、誰も死なないかもしれない。そう思ったやさき、一人の悲鳴が聞こえた。そこに目を向けると、そこに居たのは、第二部隊隊長タセロだった、そのあまりに酷い姿に、思はず誰もが目を背ける。
「あぁ・・・うぁ・・ま・・だ・だ」
今にも消え入りそうな声で叫ぶ、手足はなくなり、翼はボロボロ、だがその目は、以前敵である魔王軍をしっかりと睨んでいた。
「隊長!」
何人かの天使がタセロを抱き抱え飛んでいく、恐らく救護部隊かなにかだろう。
それからというもの、徐々に押されていく第二部隊、進行を止めることの出来ない魔王軍、その魔の手は遂に、私たちに及ぼうとしていた。
「カルマ!危ない!」
カルマを押しのけ、間一髪で回避した。
「ありがとう」
「いやいいんだよ、それより、また来たよ」
「うん、薙ぎ払うね」
その声とともに詠唱し始めるカルマ、
「今宵魔術を、改変する・・赤く蠢く炎の精霊よ、汝の力をここに示せ!」
上位炎魔法≪メギドフレイム≫、その炎は、縦横無尽に駆け巡り、魔王軍を一気にチリにした。だが、倒しても倒しても現れる敵、私は勿論、カルマさえも魔力が尽きる直前だった。
「カルマ、後どのくらい持ちそう?」
「そうだね、十分、てとこかな」
十分、長いようで短いその時間に何が出来るかを考える。そんなふとした隙に、相手の魔法が私達を襲う。
「ぐぅ!」
私はカルマを、庇うようにして守る、かなりのダメージをおってしまった。
「お姉ちゃん!大丈夫?!」
「何とかね・・っ!」
思った以上にダメージが入っていた、
「お姉ちゃん!また来るよ!」
その声を聞き、私は防御結界を張る。
「#賢聖__けんじょう__#の盾!」
賢聖の盾、あらゆる魔法攻撃を遮断する。防御結界だ。だが、私の残り魔力を全て使っても、二秒と持たなかった。そんな刹那的な結界が切れ、私達に魔法の雨が降り注ぐ。私はさっきのようにカルマを庇い目をつぶる。絶望的なこの状況でカルマを抱き締められることに喜びを感じるのは、やはり死ぬからだろうか。
「あれ?」
確実に魔法の雨は、私たちに降り注いだはず。なのに、魔法がとんでこない?
「何やってるんだい?僕がせっかく結界張ってあげてるのに」
聞き馴染みのあるその声の主は
「メリラス」
そう、あの時≪ジ・エンド≫で、霧散したメリラスだった。
「なぜお前がここに?」
「僕は、カルマが死ぬのが嫌なだけ、君はおまけだ」
「そーかい、まぁ、でも助けてくれてありがとな。さあこっからどうするかなー」
「何言ってんだ?逃げるに決まってんだろ?」
その言葉にびっくりする。
「本気で言ってんの?」
「ああ、鼻からそうするつもりで君たちを助けたんだけど」
まあ、この状況なら逃げるが妥当だが、まだ、命を呈して戦ってる奴らもいるし、逃げるのは少し罪悪感があるなー。
「早くしないと置いてくぞ」
「わ、分かったよ、カルマ行こ」
「う、うん」
突然現れたメリラスに、戸惑っているのか、カルマの返事は気が抜けていた。
「こっちだ」
メリラスの誘導に従って逃げていく。
戦いが始まってから、約5時間、そのわずかな時間で、第二部隊は、ほぼ壊滅、恐らく私とカルマしか、生き残ってないだろう。
「メリラス、なんで助けたんだ?」
「さっきも言っただろ、僕はカルマに死なれちゃ困るからさ」
相変わらず、意味のわからんことを言う奴だ、
「なぜカルマが死ぬと、困るんだ?」
「なぜ?そんなの僕の研究のためさ」
「まぁいい、助けてもらったことには、変わりないしな、改めて礼を言う、ありがとう」
不本意だが頭を下げる。
「それで、ここからどうするんだ?の前に、なんでお前生きてるの?」
「なぜ生きているかは簡単だ、君があの物騒な魔法を使って、僕に着弾する瞬間に、幻覚魔法で消えたのさ」
「あっそ」
こいつに言われると異様にムカつく。
「それで、結局これからどうすんの?」
「カルマを片っ端から解体して研究する」
「それはダメ」
「冗談だ、特に今のところは、考えてないよ」
「じゃあさ!敵討ちしたい」
その言葉に私はおろか、メリラスまでも目を丸くする。
「カルマ、いまなんて?」
「敵討ちだよ、敵討ち、僕、逃げる最中いろんな人が倒れてるの見て、すごく嫌な気持ちになったし、ムカついた、だから魔王軍に敵討ちしたい!」
はっきりとしたその意志に、私は反対することが出来なかった。だが、それを代弁するように、メリラスが発言する。
「それは、少し難しいかもね」
「なんで」
「まず、この人数じゃ魔王のいる所までたどり着けないし、帰ってこれない、本当に敵討ちしたいなら、まずは仲間を集めるところからだね。」
「そうなんだ」
「ああ、でも、どうしても君が行きたいのなら、仲間にすべき奴らを教えてあげるよ」
「ほんとに!」
「ああ」
「お姉ちゃん、僕は敵討ちしたい!手伝ってくれる?」
「いいよ」
「ありがとう」
魔王軍への敵討ち、それを目標に、私達は、今、動き出そうとしていた。メリラスが言う仲間にすべき奴ら、そう簡単に行くだろうか、そんな心配を胸に、私達の新しい冒険が始まる。




