偶然か必然か
血潮が飛び誰かがどこかで死ぬ場所で、私は一人の人間に出会う。その少年は幼くひ弱そうに見えるが、その瞳に宿す、鋭く刺さるような闘士。それに私は惹かれた。
天使と悪魔が戦争を始めてから約二百年、だいぶ景色が変わったし、護るべき人間も少しずつ減り、いまではほとんど見なくなった、
「はー、何してんだろ私」
不意に出てしまった本音に驚いた
ガサッ
「誰だ!!」
何かが動く音がして、すぐに後ろを振り返り臨戦態勢になる。悪魔が天使の結界を破り侵入したのかもしれないので、草むらをかき分け確認する。しかし、そこにいたのは一人の少年だった。
「君、ここで何してるの?」
優しく話しかけてみる、人間の子供と接する時はそうしろと、どこかの本で読んだからだ。
「ここどこ?」
人間の子供は、何もかもがわからないというような声で質問して来た。
「ここは、天使の都、聖タリウム」
私は、人間の子供の質問に答えることにした。
「???」
頭の上に、いくつかのクエッションマークが付いているかのように、小首を傾げる人間の子供。こちらからも少し、質問をしてみる。
「君名前は?」
流石に、人間の子供、と呼ぶのは面倒なので名前を聞くことにした。
「分かんない」
下を向き、しょんぼりしている人間の子供。困った、記憶がないのは勿論だが、人間の子供、と呼ぶのも面倒だ、思い出すまで私が考えた名前で呼ぶか。
「君、今から君はカルマっていう名前ね」
多少無理矢理だがなんとか名前が決定した。
「カルマ?」
「そう!カルマ!」
強引に名前を決め、次の質問に移る。
「なんでここにいるかわかる?」
駄目元で聞いて見た。
「メリラス」
「!!」
不意に出て来た、メリラスという言葉に戸惑った。メリラス、それは、私達を統率し、今の戦争でどの統率者よりも功績をあげている、大天使という位の天使だ。だが、彼女には裏の顔があると噂されている、その噂と言うのは、人間の子供を触媒とした大魔法を研究している、と言うものである。嫌な予感がする。
「メリラスがどうしたの?」
聞いてみることにした。
「その人が、僕を呼んでた」
「どんな風に?」
「頭の中に言葉が入ってきて、気付いたらここにいて、何も分かんなくなった」
おそらく、メリラスの記憶改竄魔法だろう、まあ、今のままじゃ何もわからないしメリラスのとこに行ってみるか。
「カルマ、今からメリラスのとこに一緒に行ってみよっか」
「わかった」
それから数分後、メリラスが居るナラマ
宮殿にやって来た。ナラマ宮殿はまず、長い階段を上らなくてはいけない。だが、階段を上る前の広場にいたのはお目当の人物、つまりメリラスが立っていた。
「やぁ、少年よく来てくれたねぇ、おゃ
珍しい客人だね」
「メリラス、君この子に何をするつもりなの」
「何をするつもり、とは人聞きの悪い、僕は何もしないよ」
やはりコイツの喋り方はウザい、て言うか、女なのに一人称が僕って・・・
「リマエル、この子がどんな存在か知ってるの?」
リマエル、と言うのが私の名前だ。
「知らないけど、君が子供を触媒として大魔法を研究してるのは知ってるよ」
「ふぅん、まあいいわ上がりなさい」
次の瞬間、視界がガラッと変わった、メリラスのテレポート魔法だろう。
「ここは、僕の秘密の研究所さ」
「こんな所に私達を連れてきて何をするつもりなの」
「別に、貴女には興味ないわ、僕が欲しいのは、その子だけだから」
「じゃあ質問を変える、カルマに何する気」
「カルマ?あぁーその子名前ね、貴女が考えたのなかなかいいわね」
不気味な笑みを浮かべながら、こちらに歩いてくるメリラス、一応カルマを後ろ
に隠す。
「なんで隠すの?」
「君が何をするかわからないからだよ」
「そこを退かないと、僕の部隊を抜けてもらうよ」
「それで脅してるつもり?子供を触媒にして大魔法を研究している奴と、同じ部隊なんて反吐がでるね」
どストレートに本心を言ってやった。
「なら良いお前なんかクビだ!!そして僕を侮辱した罪で、ここで死んでもらう!!」
急に人変わりすぎだろ、なんて言ってる暇じゃない、大天使相手にただの天使が勝てるはずがない。
「カルマ、逃げるよ!」
「うん!」
私は、大きく息を吸い叫ぶ。
「テレポート!!」
その言葉と共に視界がガラッと変わっ・・・てない!!
「ここでは、テレポート魔法は無効化されているんだよ」
驚いている私に説明するメリラス。
「くそっ!!こうなったら!!」
魔法を使う態勢になる。
「今宵魔術は、完成する・・赤く蠢く炎の精霊よ、汝の力をここに示せ」
炎魔法≪アブレーション≫を唱える、部屋はたちまち炎に包まれる。
「ふぅん、なかなか良い技を使うね」
メリラスは後ろに飛び魔法を使う態勢に入る。
「今宵魔術は、完成する・・青く煌めく水の精霊よ、汝の力をここに示せ」
水魔法≪サブマージョン≫部屋の炎を完全に消された。
「チィ!」
どうすれば良い、腐っても奴は大天使、たかが天使の魔法でどうにかなる相手ではない、しかも魔力のキャパシティも断然相手のが有利、せめてカルマだけでも逃す方法は無いか、
「お姉ちゃん、大丈夫?」
そんな声と共に手を握ってくるカルマ、ん?何かがおかしい、なんだこの、魔力が込み上げてくる感覚は、私は驚いてカルマの方へ振り向く。
「!!!」
そこにいたのは蒼く発光するカルマだった。なんだこの包まれるような柔らかい魔力は、今ならどんな魔法だって使えるような気がしてきた、だから思いっきり撃ってみることにした。
「今宵魔術を、改変する・・赤く蠢く炎の精霊よ、汝の力をここに示せ」
上級炎魔法≪メギドフレイム≫いつもなら撃てるはずのない魔法が、簡単に撃てた、その喜びと共に一つの違和感を覚ている瞬間だった。
「テメェ!僕の服に煤がついたじゃ無いか!」
さすがは大天使、上級魔法でも簡単には倒せない・・・さあ、ここからどうしようか。